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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第四陣 カクレンボ
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第三十九話 目的と目的


カタン、と白桜は手に持っていた皿を置いた。隣には皿を洗う大和がおり、突然手を止めた彼を怪訝そうに見ている。白桜は深呼吸をし、緊張で加速する心臓を静める。


「?白桜?」

「単刀直入に申し上げます。大和様、『勇使』になりません?」

「……はぁ?」


白桜の言葉に大和は面食らったようでその手を止めた。ザーザーと台所に水が流れる音が大きく響き、その音が驚愕する大和の思考をクリアにしていく。大和は蛇口をしめ、水を払うと白桜に向き直った。作業を中断しなければ、まともに話せないと思ったらしい。


「『勇使』って、帝の部下みたいなもんだろ?なんで、白桜が俺に勧めるの?」

わたくしは普通の人よりも多く、共通能力を所持しております。そしてその影響で固有能力か共通能力かを所持しているかが分かります。大和様は固有能力をお持ちです」

「…………」


白桜の云うことは合っている。大和は固有能力を持つ。その固有能力のお陰でこの家は『眼』からの襲撃を辛うじて免れている。けれど、それだけが大和を誘う理由にはならない。大和は両腕を組んで言う。白桜は窓の外を何故かずっと眺めていた。こちらに一度も視線を向けない。なにか企んでいるように思えて、落ち着かない。


「固有能力を持ってて『勇使』じゃない奴はたくさんいるでしょ?なんで俺なんかに?」

「『勇使』は帝に情報を献上するため、必然的に多くの情報を入手することもできます。大和様が探すものも見つかるかもしれませんよ?」

「!?」


チラリと様子を窺うように白桜の目がこちらを一瞬見た。大和は再び驚愕で目を見開く。ハッタリか?いや、違う気がする。嗚呼でも何故、俺がそんなことを考えているのが分かる?大和はハッと鼻で笑いながら台所に軽く背を預けた。


「なんで」

「簡潔に申し上げれば、わたくし達を招き入れた時のあの笑みが気になっておりまして。あとは、ただのわたくしの想像です」

「…………白桜は、『勇使』なのか?」

「ええ、半分正解で半分不正解ですが」


白桜がクスリと笑う。大和は隠しきれないと観念した様子で天井を仰ぐと視線を固定したままの白桜に言う。


「……白桜の云う通り、俺は探してる。大事な親友と兄弟を。でも、俺はそいつらの()()姿()を知らない。あっちも俺の()()()()姿()を知らない…『勇使』になって情報が手に入るなら、どんなに良いか」

()()、と言いますと……!もしかして大和様は」

「嗚呼、俗に云う前世の記憶を持っている。俺が探してる()()も記憶を持ってる」


ぐっと拳を握り締め、力強く言う大和。まさかの事態に白桜は暫し困惑していた。確かに前世の記憶を持つ者は数は少ないが存在する。それを目の当たりにしたことも衝撃であったし、此処まで自信満々に云える大和にも驚いていた。白桜は窓の外から視線をはずさないまま、ポロリと呟いた。


「見つかりますよ」


ガッと大和に袖を掴まれた。物凄い力で引っ張られた白桜は思わず振り返ると、彼は鬼の形相と言っても過言ではなさそうな苦しそうな、それでいて悲しそうな、複雑な表情を浮かべていた。淡々と、見透かしたように云う白桜が少し怖かった。まるで、侑氷みたいだったから。


「おめーに俺のなにがわかるっての?俺()のことをなんにも知らないくせに、そんな簡単に云うなよ!!」


簡単に出来なかった。原因を出来ない理由にしてるのは、分かっていた。でも…!吐き出すように叫ばれた大和の心の内に、白桜は我知らず、嬉しそうに微笑んでいた。その笑みは弟である紅葉や雛丸を愛おしそうに見つめるあの優しくも暖かい眼差しと同じだった。それに呆けたように大和は白桜の袖から手を、震える手を離した。自分でも何が起きているのか分かっていなかった。自分が何を言ったかも。


「だから、利用すれば良いのです」

「……は?」

「大和様の過去についてはわたくしが存じ上げなくて当然でしょう。しかし、利用価値があるものを提供することは可能です」


そこで大和は気づいた。白桜は、彼は自分を利用しろと言っているのだ。探し人を見つけるために利用しろと。此処には、そう()()()には、『勇使』に繋がる()()()()があるのだからと。白桜は妖艶に笑って、大和の背中を押す。その笑みや瞳の細さはまるで雛丸のようだった。嗚呼、毒されて来てる。そうも思い、白桜の口角はあがった。


「さあ、どうします?今ならわたくしが帝に掛け合う事が出来ますよ。まだ相方がいらっしゃらないでしょうし、色々手続きがございますので、まだ『勇使』候補となりますけれど」


大和は長い思考の旅に出る。確かに白桜の云う通り、情報が手に入る可能性もあがり、手がかりが手に入りやすくなる。不安しかない兄弟二人が心配で一向に此処から出る事が出来ない。恐らく、それはこれからもそうだ。ならば、この蜘蛛の糸()を取らない理由がない。白桜が大和の心情を読み取ったように手を差し出す。その手を大和は一瞬躊躇した後、取った。大和は挑戦的に笑い、言い放つ。


「利用してやろうじゃん?」

「ふふ、怖いですねぇ」


その笑顔の会話は優しく、希望に満ちていた。


…*…


一方その頃。紅葉は夕食に並んだ料理等をお盆に乗せ、京とその弟が使っている部屋に向かっていた。


「(今頃、兄さん上手くいってるかなー)」


そう、大和を『勇使』に誘うと言っていた白桜を思い浮かべながら紅葉は部屋に到着した。両手が塞がっているので障子に片足をかけ、少し隙間を作るとそこに足を突っ込み、横へスライドさせる。


「アハハ!紅葉ったら、足癖悪ーい」

「うるさーい」


中からケラケラ笑う声が響く。それに紅葉も笑い返し、部屋の中へと滑り込む。部屋の片側には布団の上に起き上がった青年が「早く早くー」とパンパンと布団を両手で叩きながら手招きする。青年の頭には白い包帯。布団の傍らにはからになった幾枚もの皿が積み上げられている。紅葉はハイハイと笑い、障子を閉めて彼の元へと歩み寄る。


「しっかし、よく食べるね。僕だってこんなに食べないよ?」

「ハハ、オレ、これでも大食いだからねー」


紅葉の言葉に青年は楽しそうに笑う。紅葉が青年の前まで来ると、青年が紅葉に向かって手を伸ばす。紅葉は持っているお盆を上へ駄目だと持ち上げる。すると青年は先程よりも手を伸ばし、不貞腐れたような表情をする。餌付けをしているようだと紅葉は思い、クスクスと笑いながら布団の傍らには膝を付き、座り込む。


「はい!」

「ありがと紅葉!」

「それで最後だからねせん!」

「むふふ、むごむいうわっくる」

「何言ってんだかわかんないんだけど!?」


紅葉が料理が乗ったお盆を青年に渡すと彼は凄まじい勢いで料理を口の中に入れて行く。まるで口がブラックホールのように見える。紅葉の宣言に青年は言い訳を申し立てたが口に物を含んでいたために何を言っているのか全然わからない。紅葉が叫ぶと青年は笑った。紅葉もニィと楽しそうに笑った。

青年、せんは紫色の長髪で首根っこ辺りで軽く一纏めにしている。髪留めには十字架のついたアクセサリーを使っている。藤色の瞳で首にも十字架のネックレスをしている。服は白のワイシャツの上に濡羽ぬれば色のロングコートを着ている。ワイシャツの胸元には瞳と同じ色のリボンタイがあり、少し長い。下は軍服の長ズボンでコートと同じ色。室内なので靴は脱いでいるが黒のヒールが高く、金具のバックルがついた足首までの短いブーツ。


紅葉は先程も千と話していた。やはり、紅葉の考えていた通り、彼とは気が合い、話が合った。千が食事をするついでに紅葉は話し相手になり、今まさに帰って来たのは彼のお腹の虫が収まらなかったため、お代わりを取って来ていたのだ。居間では雛丸と侑氷、薙と京が楽しそうに話していた。その話で気になった事を小耳に挟んだ紅葉は持ってきた料理を既に平らげている千に向かって言う。


「ねぇ千」

「何?」

「京さんと千にはさ、兄さんがいるの?」

「!……うん、行方不明になった上の兄ちゃんとオレの親友」


チラッと話を聞いただけだったのに、千が暗い顔をし、布団の中にある両足を抱きしめる。紅葉はやっちまった…と自分の興味本位な心を叱咤した。時間が巻き戻せるなら質問しようとしている自分を殴ってでも止めたい。


「ご、ごめんね!ツラい事なのに…」

「あ、大丈夫大丈夫!まだ死体が出てないから、生きてるって分かるし!……紅葉、これ噂なんだけどさ、知ってる?」


話を無理矢理変えるように千は、声を潜める。紅葉は少し後ろ髪を引かれたが、千の「気にしてないから!」と云う笑みを信じる事にした。それとその噂が気になる。もしかすると異変の原因を探る手掛かりになるかもしれない。紅葉が自分の近くにキラキラとした押さえきれないと云うような興味津々の瞳を持って来た事に千は少し優越感を持った。


「やっくん…嗚呼、大和とゆーくん、侑氷から聞いた噂なんだけど。『眼』が元々はある実験の被害者っていうやつ」

「……もっと詳しく!」

「喜んで!実験っていうのは、固有能力と共通能力を後天性に植え付ける人体実験で、成功者は少なく、例え成功しても後天性あとから付け加えた異物(紛い物)だから自我が壊れるらしいんだ。もし自我を保っていたとしても異常である化け物となって襲いかかる……らしい」

「………ヤッバイ噂だね……」

「まっ、噂だしね!そうだったら余計に怖い!」


ケラケラ笑いながら自分の体を抱き締める千。その体が微かに震えている事を紅葉は知っていたが無視した。噂であろうともこちらにとっては大切な情報だ。まぁ噂だし、本当だったらこの噂が流れている時点で不自然だが。


「あ、そういえば、白桜さんって紅葉の兄ちゃんでしょ?」

「そうだよ!僕の兄さん!」


そして唐突に始まった兄弟(兄)自慢話が白熱して、様子を見に来た白桜が軽く撃沈するのはそう遠くない未来だ。


今日は此処まで。

大和は、ねぇ……?

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