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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第四陣 カクレンボ
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第三十八話 氷と十字架



その後、夕食を作り終わった大和が呼びに来、夕食を摂った。その時間帯頃になると京の弟も目覚め、助けてくれた彼らにお礼を言っていた。しかし、紅葉の固有能力にやはり体が慣れていないらしく、しばらくは布団の上、となった。大和が腕によりをかけて作った料理は紅葉達が一口食べて「美味しい!」と叫ぶほどに美味だった。そんなこんな、楽しく食事を摂った彼ら。白桜の云う通り、休息も良いかもしれない。そう、彼らは考えていた。今までは、移動したらすぐに巻き込まれ、休息の時間もなかった。神経を常に尖らせ、周囲を警戒し、情報を逃さぬように糸を張り巡らし続けた。だが今回は少し違うにしろ、穏やかな一日だった。ちなみに全員、自己紹介はその都度、やっていた。


「ねぇ、なんで侑氷さん、両手首に紐なんてつけてるの?」


雛丸が隣に座る侑氷を見上げて問った。侑氷は手に持っていた盃を少し驚いた様子で離した。今は夕食後の自由?時間で、夕食を食べていた部屋ー恐らく居間ーでは二人の他に薙と京が話し込んでいる。京も侑氷も酒を飲める年齢らしく、片手には酒と盃が置かれている。薙と雛丸はまだそのような年齢ではないため、大和が作ったと云う自家製の炭酸ジュースを飲んでいる。居間にいないのは紅葉と白桜、大和だ。紅葉は「話が合いそう!」と言って京の弟へ食事を届けに行った。多分、そのまま話し込んでる。白桜は大和の手伝いで台所へ行ってしまった。なにやら話したい事が白桜にはあるようで、侑氷は少し心配していた。

侑氷は雛丸の問いに自身の両手首を繋ぐ紐を見下ろした。紅い紅い紐。自分の体の一部とも云えるそれを問われるなんて思わなかった。


「何故そう問うのじゃ?」

「だって、繋がれてたら行動範囲狭まっちゃうし。それに、」


そこで一旦切った雛丸はグイッと侑氷に向かって身を乗り出した。侑氷が面食らったようにその瞳を細める。雛丸はクスリと笑って云う。


「興味本心?」


クスリと笑ったその笑みが幼いながらも妖艶で、侑氷はその笑みから視線を逸らすように酒を煽った。からになった盃に酒を入れようとすると雛丸が一足早く、酒瓶を取り、侑氷の盃に注いだ。侑氷は新たに注がれた酒を飲みながら答える。


「理由と云うほどのお恐れたものではないがの…自分に枷をつけた、おまじないみたいなもんじゃよ」

「…ふーん…?」


侑氷の返答に雛丸は納得がいっていないようでから返事を返した。そして、侑氷のその紐をちょいちょい、とじゃれて遊ぶ猫のように引っ張った。侑氷はその不貞腐れたような行動にクスリと喉の奥で笑うと自分も気になっていた事を思い出した。


「嗚呼、そういえばのぉ」

「ん?なぁーに?」


遊ぶのに飽きて炭酸ジュースが入ったグラスを両手で持ちながら、雛丸が横目で訊く。ゴクリ、と炭酸ジュースで喉を潤す雛丸に向かって侑氷は問う。


「何故、雛丸は女であるにも関わらず、そのような名なのじゃ?」


その問いに雛丸の動きが止まった。そして、鋭い、刃物のような視線が侑氷を襲った。ゾクリ、背中に悪寒が走った。そう、雛丸は女である。紅葉や薙、白桜にとっては当たり前のことでいつも通りに接してくれる。しかし、他人からすれば、名前から男と勘違いされる事が多かった。実際、他の二つで仲良くなった姫鞠やムーナでさえ、雛丸の性別が女だと云うことに気づかなかった。だが、侑氷()はすぐに気づいた。その事実が雛丸を恐怖に陥れ、警戒を強まらせた。侑氷は小さく笑い、酒を飲む。


「…なんで」

「?」

「なんで、ボクが女の子って分かったの?」


硬い声、緊張したその声に侑氷は即答した。


「勘じゃ」

「…………え?」

「勘、野生の勘とでも言おうかの。ぼくは固有能力で動物に変化できる。だからか、勘が冴えとるんじゃよ」


な?と侑氷が自身のこめかみをトントン、と叩きながら悪戯っ子のように雛丸を見下ろす。雛丸はキョトン、としていたが、次第に固かった表情は柔らかくなり、最終的には年相応の笑みを浮かべていた。侑氷の返答が雛丸の警戒心を解いたようだ。


「勘って、アハハ!紅葉みたい!うんん、薙かな?ハハハ、どっちにしても、面白い!」

「それは良かったのぉ」


雛丸の愉快そうな笑い声に侑氷も釣られて笑ってしまう。冷たい、氷のような瞳が優しく円を描く。暫く笑った後、雛丸は炭酸ジュースで喉を潤すと言った。


「理由は、ないよ」

「?……ないのか」

「うん、()()()。(知っても良いのは、()()()()で良いもん。お兄さんには、教えない)」


強調するように、これ以上触れるなと云うように雛丸が言うので侑氷は開きかけた口を閉ざした。にっこりと笑う少年のような少女のような笑みが侑氷の行動を阻む。侑氷はなにか言いたげに口を餌を求める鯉のように開閉させたが、最終的には閉ざし、酒を勢い良く飲んだ。「ふぅ」と軽く吐息を吐く侑氷の頬は酒で紅く染まっていた。その様子が少年らしくなく、大人の男性と云う雰囲気で雛丸は軽く頬を染め、炭酸ジュースを飲む。クスリ、とまるで鳴き声のような笑い声を出しながら侑氷は雛丸の頭を軽く叩いた。


「注いでくれんかの?」

「良いよ!」



薙は壁に背中をつけて座り、炭酸ジュースが入ったグラスを煽った。片足を立てて座っている薙の隣から京がパチパチと手を叩き、称賛を送る。酒を飲んだわけでもないのに拍手を送られ、薙は困惑したようだった。


「良い飲みっぷりですね」

「……褒められる事か?妾は早く酒が飲めるようになりてぇがな」

「何故?」


怪訝そうに顔をしかめた薙の言葉に京が問う。薙はグラスを持った手の肘を立てた足に乗せ、当たり前だろと云うように彼に言う。京の持つ盃に羨ましそうに、楽しみだと云うような眼差しが注がれていた。


「紅葉と酒を飲み交わせれるじゃねぇか」


薙はそう言って「内緒だぜ」とはにかんだ。その笑みに京は顔を俯かせ、盃に酒をゆっくりと注いだ。彼の様子が変わった事に違和感を持った薙は彼の方を向きながら、どうした?と首を傾げた。それが京にも見えたのか、彼は盃を持ちながら、少し悲しそうに言い放つ。


「……兄さんも、私達とお酒を飲めるのを楽しみにしていました」

「…兄…お主らにはもう一人、兄弟がいるのか」


薙がそう問うと京は軽く目を伏せ、酒を飲む。背中を軽く壁につけ、吐き出すように告げる。


「ええ、もう長いこと、()()()()ですがね。()の親友と『眼』討伐の部隊へ入隊を希望して出て行ったきり。死体が出ていないのがせめてもの救いですかね」

「お主の兄と親友はどんな奴だったんだ?」


雛丸の情報から行方不明者は両手以上だろう。つまり、その中に『勇使』がいたとしても既にいない可能性が高いし、行方不明と云う京達の兄と親友が『勇使』である確証もないし、行方不明者が多すぎるために可能性は低かった。薙は一瞬でそう思考し、それらを弾いて、京に問う。吐き出せと言わんばかりに。その好意と酒の勢いを京は利用する。救ってくれた、見ず知らずの恩人に。本当は、羨ましかったんだ。


「兄さんは、優しくていつも私達の悪戯を笑ってくれた。()の親友も、男らしくて優しくて……二人はいつも背中合わせで信頼し合っていました。だからこそ、『眼』を倒せるほどの実力を身につけた…」

「お主もだろ。お主だって、信頼してんだろ」


薙がそう言いながら、炭酸ジュースを飲み干した。京はそんな彼女を見ながらクスリと笑った。薙が不思議そうに彼を見やる。


「はは、本当に薙の男らしいところ、そっくりです。兄さんは、白桜に似ていますかね」

「はっ、光栄だぜ。そこまで京が云うんならそいつと妾で勝負してみてぇもんだな」


京が薙の台詞に愉快そうに笑う。薙も釣られて笑う。二人はふと、視線を交差させ、グラスと盃を少々乱暴にぶつけ合った。カツン!と甲高い音がした。


「薙!そっちにお酒ある!?」

「おいおい雛丸。未成年飲酒だぞ」

「違うもん!侑氷さんが全部飲んじゃったの!」


雛丸の問いかけに薙は悪戯っ子のように笑いながら答えた。からかわれた雛丸はプクゥと両頬を膨らませた。そんな雛丸の頭を侑氷が愉快そうに叩く。と痛かったのか両腕を上げて「うがー!」と雛丸が侑氷を振り返る。酒が入ったためか侑氷の動きは少しぎこちない。雛丸が侑氷の両手首の紐を掴んだ。途端に軽く前のめりになる侑氷に雛丸が突撃する。まるで猫のじゃれあいのような光景に薙と京は顔を見合せ、笑った。


「相変わらずの酒豪ですね侑氷」

「くっ、ははは!これだけ美味なつまみと面白い話があるのじゃから、いつも以上に飲むのは当たり前じゃろうて!」

「……酔ってるな」

「酔ってますね」


侑氷の言い分に薙と京はよいしょと重たい腰を上げた。


今日は続けて休息も上げます。

んで雛丸は女の子です。なんかこの頃、物語で一人は中性的な子作ってその子が女の子って云うのが多い気が……(小声)

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