第三話 決断せし、強者達よ
「答えは決まっているでしょう、紅葉。私は雛様の意見に従う所存です」
「それに、白桜にはボクの保護者みたいなことも頼んであるしね!頼んだよ白桜」
その者が男性を振り返って真剣な表情と声色で言う。そこには男性に向けての絶対的信頼があった。いや、なければ成立などしない。男性は柔らかい笑みを返した。
「はい、何処までもお供致します、主人」
そう言って頭を軽く下げた。その行為にはその者に向けての絶対的信頼、そして敬意、忠誠があった。紅葉はふーん、と拗ねたような口振りで云う。
「弟の心配じゃないんだーふーん」
「おや、紅葉も心配ですよ?薙様に何か粗相をしないかどうか」
「は!?僕はそんな事しないもん!薙ちゃんに迷惑なんかかけてないし、これからもかけるつもりはないもん!だよね薙ちゃん?!」
「…………」
「薙ちゃんー!」
男性からのまさかの返答にそう返す紅葉だが、薙には取り合ってもらえない。紅葉が悲しそうに表情を歪める。と、薙の口元が可笑しそうに笑っていることに紅葉は気づいた。笑っているところから、分かっているのに敢えて答えなかったのだろう。紅葉が悲しそうな表情から一変、むーっと頬を膨らませると、薙が吹き出した。それにつられるようにその者も笑い出し、男性も小さく笑う。一人残った紅葉は仕方なさそうに、それでいて楽しそうに笑った。暫く笑い合って、真剣な表情で薙が紅葉を見つめる。その何もかもを見透かすような眼差しに紅葉は一瞬ドキリ、とした。そして、流れるような動作で彼女の前に片膝を付いた。
「何も言わなくても良いよ薙ちゃん。僕は、薙ちゃんにちゃんと連れ添うよ………薙ちゃんの、仲間として友人として相棒として、部下として」
そう言って紅葉は薙の手を優しく取り、その手の甲に軽く口付けを落とした。彼なりの、忠誠の、信頼の表し方だった。
帝の部下のような者である『勇使』。彼らにはある特徴がある。
一つ、固有能力を持ち合わせている事。固有能力に関しては、普通であれば固有能力は持たないので珍しい。固有能力よりも持つ可能性が高いのは共通能力である。
二つ、唯一無二の相棒または主従関係を持っている事。人によっては主従関係であり相棒、相棒であり主従関係と云うような複雑なものもあれば、ただ単に主従関係のみのものやただの相棒と云うのもある。人それぞれだとしても、そこには必ず互いが互いを強く繋ぎ止める、強い絆が存在する。
それら二つが『勇使』としての特徴であり、『勇使』を求める、認める上での形だった。ちなみに『勇使』かどうかの判別は、『勇使』同士が見ただけで分かると云う。が正直、不明である。
つまり、此処にいる全員、少なからずそういう関係なのだ。紅葉と薙の儀式染みたものを見てその者がクスクスと笑った。
「ホント、薙と紅葉って最高の関係だよねぇ。嫉妬しちゃうくらい」
「むふふ、薙ちゃんはあげないからね!」
「そういうことじゃないし」
紅葉が立ち上がりつつ言うとその者は真顔でそう答えた。薙は立ち上がった紅葉を見ながら、彼の表し方に自分も自分なりの返し方をする。身長の高い紅葉の肩に軽く手を置いて言うのだ。
「頼んだよ、紅葉」
「ふふっ」
それに紅葉は心の底から嬉しそうに笑い、クルンと半回転した。そして、薙を振り返ってニッコリと笑う。
「任せなよ!薙ちゃん!」
「はいはい。雛丸、帝の機嫌を損ねる前にさっさと準備して行くぞ」
「了解、薙。白桜、ボクの部屋行って準備しよっ」
薙がその者に指示を飛ばすとその者は男性の元に歩いて行く。と、彼の手を引いて、「早く早く」と言うようにぐいぐい引っ張る。男性は「待ってください」と言うように柔らかく微笑みながらゆっくりと立ち上がった。
「そのように急がなくても既に準備は整っております」
「さすが白桜!ボクの保護者!」
「僕の兄さんです~!」
その者に対抗するように紅葉が叫んだ。それに男性は嬉しそうに笑いながら、紅葉の頭を撫でた。




