第三十四話 その場所、危険…?
「…ん」
「あ!起きた!」
青年が軽い声と共に目を開ける。雛丸が嬉しそうに声を上げるとそれと同時に紅葉が安心したように息を吐いた。紅葉によって治療された青年のうちの一人は体中にあの痛みがないことに気付き、恐る恐る両手を顔の上に掲げた。怪我をする前の、傷がない手が自分の目にうつる。嗚呼、そうだ。ようやっと倒した敵の仲間だと思って、武器を振って、それで勘違いで、それで…それで!
「!千!っっっ!」
「まだ起き上がらない方が宜しいですよ。治療は終わっておりますが体はまだ慣れておりませんので」
「ごめんなさい!」
勢い良く起き上がった青年の体に凄まじい痛みが走る。体中を鋭いなにかで貫かれているような痛み。白桜の説明と共に紅葉が勢い良く頭を下げる。青年にはちんぷんかんぷんだったが、簡単に云えば紅葉は怪我を治した。しかし、紅葉の固有能力を一度も受けた事がなかったために体が治療の勢いに慣れず、痛みがまだ継続してある状態、と言うことだ。紅葉はそうなるのは自分の力不足だと感じているため謝ったのだ。青年は白桜に背中を支えられながらゆっくりと上体を起こす。そして名前を呼んだもう一人を探して視線をさ迷わせる。もう一人は片足を立てて座っている薙の近くに横たわっていた。もう一人は頭の怪我が大きく、紅葉が治療をしたにはしたが紅葉の希望で念には念を入れて頭に包帯を巻いていた。もう一人の方は体中に痛みをあまり感じない体質なのか、たまに軽く首を傾げるようにして眠っている。薙が大丈夫、と軽く笑う。それに青年はホッと胸を撫で下ろした。
「……助けてくれたんですか?…ありがとうございます」
「いいえ、私達が勝手にやった事ですから」
「大怪我を放って行くほど薄情じゃないもんね!」
青年がまだ痛む体で頭を下げると白桜と紅葉が言った。それに軽く目尻が熱くなるのを感じた。だが、と青年は痛む体を無理矢理動かして起き上がろうとする。慌てた様子で紅葉と白桜が青年を支え、無理はするなと腕を掴む。
「まだ動かない方が良いよ!」
「ですが……やm…同居人に怒られますし」
「…………怒られる?」
雛丸がまさかの答えに呆然とする。と背中を向けて震え出した。青年にとっては大変な事なのだろうが雛丸にとってはまさかの返答でツボだったらしい。それは白桜もで袖口で口元を隠しながら苦笑している。青年も分かっているのか苦笑する。
「同居人、と云うか私達のせいで居候しているんですが、その人に大怪我負ったなんて云えば怒られそうで」
「そりゃあ心配して怒るよな」
薙が笑って云えば、青年もそうですよねと悪戯っ子のように微笑んだ。そして、少し考え込み、紅葉が止めるのも聞かずに立ち上がろうとする。しかし、体中、軋んでいるかのように動かず、痛みで思うように動かない。
「っっ」
「あああああ、だからダメだってば!」
「しかし、君らに迷惑はかけられませんし」
「それでもさ!」
「そうさ」
青年の言い分に薙が言う。「薙ちゃん?」と紅葉が青年を支えながら彼女を振り返る。薙は雛丸が持っていた太刀を受け取り、また自分の傍らに置いていたもう一人が握っていた武器、大太刀を手に取った。それらを青年に見せるように言う。
「今、お主が太刀と大太刀を持って、んでもう一人をその体で担いで行くのは無謀だぜ?」
「………それでも、此処にいたら『眼』が来る可能性がっ…あ」
「え?」
『眼』、と云うのは此処での化け物だろう。青年達が心配で情報を確認していなかったが、思いがけず、化け物と思われる名前を聞いた。『眼』で気づいたのか青年は彼らを見渡し、うんと頷いた。
「こんな草原で野宿なんてのは自殺行為です。お礼も兼ねて、家に来ませんか?……迷惑ではなければですが」
その問いに紅葉達は顔を見合わせた。此処に来てから時間はずいぶん経ち、既に太陽は沈みかけている。此処での『眼』がどれほど狂暴なのかは、青年達にしかわからない。情報が欲しいし、なにより青年達が心配だった。満場一致。紅葉が立ち上がった青年の肩を自らの首に巻き付けながら支える。その行動一つで彼らが承諾したのがわかった。
「ちょうど良い。お邪魔してもいいか?」
「!もちろん、恩人ですから。歓迎します」
薙の問いに青年が安心したように笑った。自分達の二の舞に、助けてくれた恩人をしなくてすむ、と云う感情と同居人に迷惑かけるカモなーと云う複雑なものが混ざった。
「紅葉、そいつ頼んだ」
「了解!任せて~!」
「薙、太刀貸して。それくらいボク持てるし!」
「では私は彼を…背負いますかね。どちらか手助けをお願いしても?」
紅葉達がテキパキと準備を進めていく。暗くなる前にちゃっちゃと行きたいのは青年だけではなかったらしい。白桜が手助けを頼むと雛丸が薙から太刀をもらう前に、横になっているもう一人を背負おうとしている白桜を手伝おうと手を伸ばす。が雛丸の力では些か無理だったらしい。雛丸が薙に視線を向けると彼女は軽くため息をつきながら雛丸に太刀と大太刀を預けると白桜を手伝う。それを紅葉に支えてもらいながら見ていた青年が感心したように言う。
「…なんというか、連携が取れてるんですね…」
「うん、まぁね!僕達、仲良いから!」
「だよねー紅葉!」
二振りの武器を持った雛丸が紅葉と青年を見上げて言い、二人が「「イエーイ♪」」とハイタッチ。楽しそうだ。白桜の背にもう一人が背負われた。薙は雛丸から大太刀のみを受け取ると青年に問った。
「そういえば、家の場所は?」
「此処の草原を突っ切って、少し歩けば着きます。二十分くらいでしょうか…」
「じゃあ、多く見て三十分くらい?」
「そうですね。あ、言い忘れていました。私は京。宜しく」
そう言って紅葉に支えられた青年は軽く笑った。
京と云う青年は珊瑚朱色のセミロングで軽く一纏めにして少々短いポニーテールにし、藤色の瞳。首には十字架のついた黒のチョーカーをしている。白が多めの灰色のジャケットで中にはワイシャツ。ワイシャツの上に濃い紫のベストで、ベストの上にある十字架の留め金でジャケットを止めている。ワイシャツの端を出している。下は白のスーツのようなズボンに黒の革靴。
京に向かって全員が声をかけ、彼らの家に向かった進み出した。
………ペース落とすって言いましたけど、多分また一気に投稿する気がします…書き溜めが…




