第三十一話 繋がった想い
「ありがと。とても助かったわ」
日傘をいつものようにさしながらムーナが笑顔で言った。犯人が化け物と分かり、討伐に成功した二日後。紅葉達一行は手助けが終わったので次の場所へと行くことにした。結局、あの化け物は『勇使』ではなく、姿を利用されただけの被害者だった。だがその肝心の『勇使』がいまだに行方不明なせいで、完全に容疑者から外れたわけではなかった。襲撃を繰り返していた化け物は殲滅出来たが、化け物が全ていなくなったわけではないので、情報網を駆使しながらそこは解決を目指すらしい。そして、帝からの任も達成はできていない。犯人が『勇使』と仮定して情報を得ようとしていたためもあるが、スディからの情報提供でも欲しいものは上がらなかった。化け物の原因。此処では名前すらないその異常は、気づいたらいたと云うような現状でこれ以上、情報は望めないとして彼らは次へと移動を決意したのだ。それを聞き付けたムーナがお礼も兼ねて挨拶に訪れていた。
「いや、なにも力になれんかった。だから、悪いな」
「イイエ!とても助かったのよ。感謝しかないわ!ナギさん達のおかげでどれほどの人達が救われたか!兄妹も犯人討伐に感謝しているわ」
薙の言葉にムーナがそう返すと、薙は安心したように笑った。王族に感謝されて嫌なわけがない。紅葉がその隣にいるスディに言う。
「色々、ありがとうスディさん」
「いいや。『勇使』同士なんだ、助け合って当然だろ?」
そう言いながらスディが蛇のような瞳を細め、紅葉の肩を叩く。「痛い!」とからかうように紅葉が叫べば、スディは声を上げて笑った。その笑い方がなんともスディらしくなくて、紅葉は少し面食らった。此処数日でこんなにも打ち解けたのだと感じ、紅葉は嬉しくなった。頬にある蛇がある方向に動いたように見えた。実際は彼の瞳が動いていたのが。その方向に紅葉も目を向け、小さく笑う。
「雛丸ーまだそのままなのー?」
「良いじゃん!ボクの勝手だもん!」
紅葉のからかうような言葉に雛丸がプクウと頬を膨らませて怒った。雛丸は白桜の腕に自身の両腕を絡ませるようにしており、白桜はその雛丸の様子に苦笑を少々もらしている。この間の事がよほどだったのか、ずっとこうである。まぁいつもこんな風に保護者である白桜に甘えているので普通と云ったら普通なのだが。白桜は大丈夫ですよと雛丸の頭を撫でる。と雛丸はその手に頭を甘えるように擦りつけると腕を離した。そして女子トークを繰り広げている薙とムーナの元へ駆けて行く。
「これからは街の女の子達に暇な時にでもおしゃれについて聞いてみようと思うの」
「おっ、良い事じゃねぇか」
「ふふっ、今から楽しみだわぁ」
両の指先を合わせながらムーナが目を細める。よほど楽しみらしい。
「ムーナさん」
「あら、ヒナさん、どうしたの?」
雛丸と視線を合わせてしゃがみこむムーナ。雛丸は懐からある小瓶を取り出した。その小瓶はマニキュアのようでラメが入っているのかキラキラと星のように輝いている。物珍しさにムーナはその小瓶を凝視している。
「それはなに?」
「これ?これはムーナさんに!はいっ!」
そう言って笑顔でムーナにその小瓶、容器を彼女の手に置いた。ムーナは動揺しており、その容器を両手で持って、本当に貰って良いのかと視線をあっちこっちに向け、その視線は雛丸を捉えた。
「お礼!」
「!ありがとうヒナさん!」
笑って雛丸がそう云うとムーナは嬉しそうに容器を握りしめながら笑った。薙も微笑ましそうに笑う。その瞳はマニキュアと同じ柑子色に光輝いていた。
「成長したな、お嬢」
そんな彼女達を見て腕を組みながらスディが言う。その声色には嬉しさと少しの寂しさが滲んでいた。
「ムーナ様はまだまだ子供です。スディ様が見守って差し上げてください。なんて、偉そうな事は言えないのですが」
「うんん!兄さんの云う通りだよ!」
「ハハッ、言われたな」
白桜の助言にスディはそうだなと笑う。そして唐突に目を伏せて、小さな声で呟くように言った。
「…君達の任が達成される事を願っている」
「!うん、ありがと!」
心から彼らの行く末を気にかけているようだった。その心意気に紅葉は満面の笑みで答えた。白桜も軽く頭を下げて答えた。そこへ薙と雛丸、ムーナがやって来た。
「スディ、見て見て!ヒナさんからもらったの!今度着けるの!」
「それはそれは。良かったですね」
嬉しそうに、興奮したように雛丸からもらった容器をスディに見せるムーナ。その年相応のはしゃぎようにスディは眩しそうに目を細める。ムーナはハッと我に返り、紅葉達を振り返った。そして、軽く頭を下げた。
「ありがとうございました。元気でね」
コテン、と首を傾げるように言う。その瞳が少し潤んでいるように見えたのはきっと気のせいではないのだろう。雛丸が大きく手を挙げ、言う。
「ムーナさんもね!ボクたち、友達だよ!」
「!ええ!」
まさかの友達発言にムーナは本当に嬉しそうに笑った。
「スディ様もムーナ様と末永くお元気で」
「君達もな」
クスリと笑うスディ。そして彼らは別れた。ムーナとスディが見えなくなるまで紅葉と雛丸は手を振り続けた。それはムーナもだった。小さく手を掲げながら手を振り続けていた。彼らが見えなくなり、ムーナは雛丸にもらった容器を開けるとスディの手を取った。何をしているのだろうとスディが首を傾げているとムーナは自分の瞳と同じ色をしたマニキュアをスディの左手の薬指に塗った。なんだが結婚指輪のようだと思ってしまい、カッ!とスディの頬に熱が走った。一方ムーナはそんな事などお構い無しに今度は自分の左手の薬指にマニキュアを塗っていく。そこ以外の指には雛丸に塗ってもらった牡丹色のマニキュアが光っている。
「お、お嬢?」
ムーナはよしっと満足したようで、容器を片手に持ち、スディの手を再び取り、
「これからもよろしくねスディ。ネイルは証よ。再出発の」
「証?ちょっ、お嬢!?」
その手に自身の手を絡ませてスディがなにか言うよりも早く引っ張りながら歩き始めた。スディは驚いたようだったがムーナの歩みに身を委ねながら、彼女を見るとムーナの耳が紅く染まっていた。再出発、その意味が自分と同じであれば……そう考えるとスディは嬉しくなって目の前の主を愛おしそうに見つめるのだった。今日は、晴天だ。
ある意味これフラ(ryげふんげふんなんでもありません!




