第二話 頼まれ事
紙には固い挨拶などなく、簡潔に内容が述べられていた。内容は以下の通りである。
〈近頃、数名の『勇使』からの連絡が途絶えている。世界各地で起こっている異変ー狂暴な化け物の出現ーのせいかと思っていたが、どうやらその異変と関係がある可能性が微かにある模様。
世界は個々に文明を発展させているため、壁などが出来、移動は困難を極めている。容易に別の『勇使』に情報と状況を求めに移動させる事も出来ない。
そこで移動できる固有能力を持つ貴殿に任を与える。
世界各地で起きている異変の原因を解明せよ。そして、音信不通となった同胞の痕跡を微かでも良い、発見せよ。
報告の仕方はいつものように。 帝〉
紅葉は全てを読み終えて、紙を丸めながらふと、考える。この任が与えられた、と云うことは少なからず此処を離れると云うことだ。紅葉は紙を人物に返しながら聞く。
「行くの?」
「行くもなにも。帝に言われたんだから行くしかないだろ。それに」
人物は紙を受け取り、それを懐にしまいながら、フッと笑う。その笑みはとても男らしい。
「せっかくの機会だ。国やら都やら見て回ろうじゃないか。お主の成長にも繋がるだろうしな」
「なっ、むー!僕はそんなに子供じゃないよ!」
「妾に一回も勝ったことがないくせに」
「うっ!」
気にしているところを突かれ、紅葉は表情を歪めた。人物はカラカラと楽しそうに笑う。ふと、紅葉は楽しそうに笑う人物の傍らに武器である刀が置かれていることに気づいた。人物は紅葉に言うまでもなく、行く気だったのだと気付き、なんだが一瞬悩んだ自分が馬鹿らしく思えた。だから紅葉もクスクスと笑った。暫く二人で笑い合い、紅葉は立ち上がった。立ち上がった紅葉を見上げ、人物が云う。
「何処行く気だ?」
「兄さん達に教えてくる」
「………言わなくても良いと思うぞ」
少しの間を置いてそう答えた人物に紅葉は首を傾げた。何かあったのだろうか?
「どうして薙ちゃん?」
「いや、な」
クスリと楽しそうに人物、少女が笑う。薙と呼ばれていた少女は翡翠色のセミロングで瞳は水色。服は青碧色のタートルネックに、小さなアクアマリンがついたネックレスをしている。その上には藍鼠色のロングコートを着ている。交差した二つのベルトに紺色のズボン、靴は室内なので脱いでいるが黒のヒールが高いブーツを履いている。
薙は紅葉の背後にある障子を指差した。紅葉はえ、と背後を振り返ろうとしたその時、スッパーンッ!と良い音を立てて障子が開いた。紅葉がビックゥと大きく驚き、振り返った。そこにいたのは仁王立ちをしている少年だった。少年の向こう側、縁側には先程の男性がこちらを向いて座っている。
「話は聞かせてもらったよ~お姉さん?」
声変わりが終わっていない高い声を響かせながら少年が中に入って来た。紅葉は少年の妖艶な微笑に、思わずゆっくりと後退る。そこに薙もやって来、呆れたように少年…いや、正確に云えば少年ではないかもしれない性別不明なその者を見る。
「こんな事だろうと思った。着いて行く気だろ?」
「え?!」
「さっすが薙。よくできました」
パチパチと無邪気に手を叩くその者。その者はふっと真剣な表情になると懐から薙が持っていた紙と同じ物を取り出すと腰に手を当て、彼女に向かって挑戦的に言い放つ。
「ボクたちにも軽いけど下りたよ任。薙たちの手伝いだってさ。帝、本当に凄いよねぇ。一緒に居ることだって分かる」
その者はクスリ、と笑って、薙の口元にペチンと持っている紙を軽く当てた。薙はそれを煩わしそうに払う。
「まぁ、こんなのがなくてもボクは着いて行く気だったけどね」
愉快そうに笑いながらその者は紙を仕舞う。紅葉が困惑した表情で薙を見つめると彼女は軽く、呆れたように肩を落とした。
帝、とは、この世界の絶対王である。だが帝が見守り、統治しているのは「世界の均衡を保つ事」のみ。よって世界は帝に敬意と尊敬を持っているものの、好き勝手に動いている。そのため、様々な都や国が様々な文明を持って発展している。そして、帝には部下のような者達が世界各地に散らばっている。ちなみに帝は地上ではなく、地下にある都に住んでいる。
紅葉は呆れた様子の薙とその者を横目に見た後、縁側に座っている男性に問った。
「兄さんは良いの?」
紅葉の問いかけに男性は一瞬、キョトン…とした後、何を聞いているの?と言いたげな怪訝そうな表情を紅葉に返した。
とりあえず、今日は第一陣全てを終わらせようと思います!




