第二十六話 水と月
カンカンカン、と屋根を駆ける音が夜の空間に響き渡る。彼らの先頭をスディが勤めている。そのスディの腕にはムーナが横抱きにされている。ムーナがギュッと彼の首に抱きつくように力を籠める。早く移動するためのやむを得ない行動である。二人の先にはムーナの能力ー固有能力と云う事を紅葉達は知らないが、能力性質から見て固有能力であると白桜が言っていたーである水が舞いを踊りながら、古城への道を教えている。二人の後ろには紅葉、薙、雛丸、白桜が続いている。全員、全速力疾走だ。時折、慣れない屋根の上での疾走に足がもたついたが。
「!見えて来たわ」
「あっちゃーもう始まってる」
先頭を走るムーナが声をあげた。その声に前方を見れば、様々なところが崩れ落ちている古城で化け物と闘える者達が戦闘していた。古城から雄叫びやら甲高い音が響いている。古城の頭上にはやはり飛ぶ化け物がいるらしく、化け物も連携を取っているようだ。前方のムーナが険しい声色で言う。
「行くわよ。スディ!」
「承知しました、お嬢。っ!行くぞ!」
古城の崩れ落ちた門を越えた瞬間、スディはムーナを頭上へ放り投げた。驚く彼らを振り返ってスディが銃器を引き抜く。化け物と戦闘していた者達の遥か頭上に到達したムーナはスカートを押さえながら、素早く古城を見渡す。いた、第一容疑者である犯人は紅葉達からも見える位置に悠然と立っていた。その姿を紅葉達も目撃していた。スディが『勇使』だろう?と彼らを振り返った。嗚呼、そうだな、感じない。薙と雛丸が武器を握り締め、その動きが紅葉と白桜に伝わる。誰もその犯人が見えていないかのように、ただただ一人立っていた。ムーナは思わず顔をしかめ、口角を上げた。
「〈運命神の水〉、此処周辺を囲みなさい!」
ムーナを包んでいた水が大きな薄い膜となって古城周辺全てを覆い隠す。それに気づいた化け物が逃げようと慌てるが、もう遅い。頭上までを覆い隠した水の膜は月光に反射してキラキラと輝き、地面には逆になった月が勝利の女神のようにうつりこんでいる。ムーナは古城の最上階だったであろう場所にうまく着地すると、水を手元に引き寄せる。彼女の手元で水が美しく舞う。ムーナが紅葉達といるスディに視線を向けた。それにスディは軽く頭を下げた。それを確認したようにムーナは踵を返して攻撃に参加しに駆けて行った。武器を構えていた紅葉達もこちらに向かって襲いかかって来た化け物に攻撃しようとして跳躍した。その時、雛丸が突然止まった。その行動に目を疑いながら動きを止めた彼らの背後に幾数もの銃器が突如現れた。これほどまでの多くの銃器を出現させる事が出来るのは、恐らく武器が銃器であるスディのみ。思わず一斉にスディを振り返れば、紅く充血した蛇のような瞳を化け物に向け、興奮したように微笑していた。初めて出会った時の親しみ深い笑みでは決してなかった。多くの銃器が向かって来た化け物に乱射される。すぐさま化け物達が蜂の巣になって倒れ込んだ、が第一容疑者、指揮官がなにかしたのか蜂の巣だった化け物達の体は再生され、襲って来た時と同じように完全復活した。そんな化け物達を見て、スディは口角をさらに上げた。化け物達はスディの背後の銃器を警戒し、動きを止めた。
「それがお主の固有能力か?」
「嗚呼、諸事情については秘密だがな。此処にいるのは僕が『勇使』時代の相方。僕の固有能力は〈意志疎通〉……擬人化ができるんだ」
そう言って、スディは一つの銃器を優しく撫でた。「元々、銃器が僕の相棒であり信頼していた部下だったが、『勇使』を引退してこの姿になったんだ」、その意味は固有能力で擬人化していた元人間と云う事だった。疑心暗鬼ではあったものの予想していたにも関わらず、目の前の真実に驚愕を隠せない。その驚愕を表すように紅葉と雛丸の瞳が飛び出さんばかりに見開かれている。スディは軽く肩を竦めて言う。二匹の蛇が彼らを捉えて笑った、ように見えた。
「まぁ今でもこいつは僕の相棒だ。能力の効果はなくなってしまったけれどもな。君達も『勇使』なら、さっさと仕事しようぜ?」
『勇使』、と云う言葉と共に向けられた視線に薙と紅葉が顔を見合わせ、笑った。嗚呼、そうだ。第一容疑者を確認し、此処での原因を聞き出さなければ、帝の憂いは晴れない。真剣な表情で武器を握りしめた彼らを見て、スディは口角を上げた。
「そう来なくっちゃ」
「『勇使』だったキミがこっち側ってある意味、心強いよね!」
「あ、雛丸さっすがー!」
「緊張しろ」
雛丸が場をなごませるようにそう言えばそれに紅葉がノり、薙に怒られる。はい、和みました。と云うように雛丸が頬を膨らませた。軽く白桜が口元を隠して笑う。こんな状況で待っていた化け物達と視線を交わす。さあ、一戦交えよう。誰かがそう叫んだのかもしれない。両者、大きく相手に向かって跳躍した。
さあ、バトルじゃー!




