第十五話 異変との攻防戦
姫鞠は、態勢を低くしながら化け物の様子を窺う。体の右半分に刃物で刺されたかのような痛みが走り、思わず呻いた。自分の『影石』の部分が暴れている。血を求めて暴れようとしている。その事に苦笑を漏らしながら、鋭く伸ばした両の爪を巨体な化け物に向ける。蜘蛛の足を持った化け物もいるため、容易に攻撃できない。相手は、元街人は連携を取っているようだ。姫鞠の少し後ろには阿形が軽快なステップを踏みながら攻撃に備えている。姫鞠は、さっさとけりをつけようと思い、足に力を籠めた。その時だった。化け物に向かって紅葉が跳躍してきたのは。紅葉は大鎌を化け物に向かって振ったが、化け物は盛り上がった筋肉を利用してそれを防いだ。大鎌共々跳ね返されて紅葉は、地面に手を付いて後方へ後転しながら態勢を立て直す。その様子に姫鞠は唖然とした様子だった。阿形も唖然としていたが、次第にその顔は愉快そうに歪んでいった。
「も…紅葉ちゃん?!何してるの?!中に戻って!」
我に返った姫鞠が緊迫した声色で叫べば、彼を振り返って、紅葉は子供のように頬を膨らませた。
「なぁーんで姫鞠さん。僕がそんなに薄情に見えるの?まだ姫鞠さんにお菓子のお礼してないからね!あ、兄さんと雛丸が作戦あるんだって!」
「っ、ハハハハ!さっすが、吽形が提案して、連れて来ただけあるな!」
紅葉の答えに阿形が腹を抱えて愉快そうに笑う。するとそこに薙が化け物に刀を振った。化け物はやはり、その筋肉で防いでいたが、紅葉がそのタイミングで自身も跳躍し、今度は同時に屈強な化け物に刃物を突きつける。と、同時には化け物も防げなかったらしく、浅いながらも攻撃が通った。薙が後方に跳躍し、まだ呆然としている姫鞠に言った。
「雛丸と白桜が蜘蛛の奴を相手取りながら、一網打尽にしようとしてる。こいつらを救いたいなら、力を貸せ」
薙のその言葉に姫鞠は、暫しの躊躇の後、頷いた。その行動に薙は満足したように、ニヒルに笑った。その笑みがなんとも男らしくて一瞬、女である事を忘れそうになる。薙は紅葉に目配せし、叫ぶ。
「行くぞ紅葉!」
「了解薙ちゃん!」
紅葉がブンッと大鎌を振り、気合いの入りようを示す。姫鞠の背後で軽快なステップを踏んでいた阿形が雛丸と白桜の方へ助太刀に行こうと大きく跳躍していた。それを横目に紅葉が大きく跳躍した。トン、と化け物の少し手前でもう一回地面を蹴り、距離を伸ばす。目の前の化け物が紅葉に向かって屈強な腕を振り回す。それを空中で回転してかわし、無謀な図体に大鎌を突きつける。が、やはり固く、簡単に刃は入らない。逆に大鎌を通じて、ジーンとした痛みが紅葉の腕に伝う。その痛みに顔を歪めているともう片方の腕が紅葉に向かって振り下ろされた。それを態勢を低くしてかわすと今度は大鎌を足元に振った。予想的中、足元に筋肉はついておらず、簡単に刃が貫通した。そのまま大鎌を振り抜き、両足をなくす。が、やっとこさなくした両足は意図も簡単に生えて来た。紅葉の目の前に再び立派な足が生える。驚愕に目を見開く紅葉に向かって上段から重い拳の一撃が振り下ろされた。間一髪、後退してかわしたが、ツゥ…と紅葉が頬になにかを感じた。手の甲で思わず拭うと微かな紅いものがついた。頬に一線喰らったのだ。慌てて化け物を見ると振り下ろしたであろう腕に刃物が生えていた。恐らくそれだろう。紅葉は頬に出来た一線を拭い、ニィと笑う。
そしてそこでクルン、と一回転しながら大鎌を振る。と、回転する大鎌の上に薙が飛び乗り、回転の力を利用して、化け物に向かって大きく跳躍する。そして上段から刀を化け物の脳天目掛けて突き刺す。さすがに痛かったらしい、化け物が地響きのような悲鳴を上げる。頭に刺さる刀を抜こうと刃が生えた両腕を薙に向かって伸ばす。それらを突き刺した刀を軸に回転して弾き返すと、飛び降りながら容赦なく刀を引き抜く。痛みに呻く化け物の背後から刀を振り切るが、やはり固い。どんだけ筋肉があるんだと薙は顔を歪めた。その時、振り向き様に化け物が片腕の刃物を振った。それを辛うじて顔の真横で防ぐ。もう片腕が来る前に紅葉と姫鞠が跳躍してきたため、化け物は腕を前方に回した。それを逆手に取り、薙は素早く態勢を低くする。鋭く尖った両の爪を姫鞠が振り下ろす。が、運悪くそこは筋肉が盛り上がったところだった。だが、彼はこの化け物をよく知っている。姫鞠は襲いかかって来た片腕を鱗に覆われた右腕で防ぐと自分の後ろから跳躍しかけているであろう紅葉に向かって叫んだ。
「右肩よ!」
途端、ガクンと化け物の体が後方に倒れていく。化け物の足元から薙がスルリと抜け出してくる。彼女が先程の紅葉のように足を切り離したのだ。うっすらと笑う薙と入れ違いに紅葉が姫鞠に指示された通り、右肩を狙って大鎌を振った。姫鞠も慌てて後方する。と、ちょうどその時、化け物の右肩が宙を舞った。紅葉の攻撃によって足のように切り払われたのだ。化け物は顔を歪めながら、なくなった右肩を押さえる。しかし、右肩は足のように再生はしなかった。姫鞠が素早く化け物の懐に迫ると片足を軸にして回転し、回し蹴りをその首元に放つ。それを右肩を押さえていた片手で捕らえられる。ギッチリと掴んでおり、押しても引いても動かない。それにまだ腕には刃が生えている。刃が姫鞠の足に食い込む。その時、体の右半分が突然、熱を持ったかのように発熱し出し、暴れだした。もう片方の足で跳躍し、首に片足をかけ、そのまま勢いよく、前方に引く。ガキ、と嫌な音が化け物の首からした。途端、いつの間にか化け物に迫っていた薙が姫鞠の足を掴んでいた化け物の腕を切った。その痛みで姫鞠の足を離した化け物に再び紅葉が追撃を薙と共に行う。二つ同時に来た痛みに化け物は巨体を揺らしながら慌てて後退する。紅葉と薙も後退する。紅葉が横目で先に後退した姫鞠を覗き見るとやはり、右腕を押さえていた。血を求めて爪を伸び縮みさせる姫鞠の右腕。紅葉の視線に気づいたのか、姫鞠が苦笑した。その時、化け物が彼らに向かって突撃してきた。一斉に体を固くし、武器を構えた。
前作が偶数の日に投稿してたので、奇数って事をたまに忘れてしまいます。だめだっつぅの




