第百二十七話 現状とその秘めた思い
薙ちゃんが、紅と逝って数十年が経った。
あの決戦の場には、帝の任で世界中をめぐった際に知り合った友人が全員来ていた。それが分かったのは、薙ちゃんのお葬式の時だったけれど。彼女の両親は既に他界していた。だから、知り合った雛丸とあの二人で住むには大きすぎる屋敷に住んでいたみたいだった。薙ちゃんの亡骸は両親と同じ、家の裏庭に埋められた。そして、僕達はごくごく普通な生活を取り戻した。けれど、僕は薙ちゃんを紅から解放するために使った固有能力、〈陰陽魔杯・陰〉のデメリットのせいで不老不死となってしまっていた。母さんが、僕がこの禁忌であり危ない固有能力を保持していると知った時、強く言っていた。
「その能力を、むやみに使ってはダメよ。本当に大切な時、一度だけ使いなさい」
あれは、まさしくその大切な時だった。でも、寂しいわけじゃない。そりゃまぁ、寂しい部分はあるけど。兄さんの共通能力によれば、どんな固有能力の効果でも打ち消す禁忌の固有能力が存在する可能性があるらしい。それがいつになって現れるのかわからない以上、僕はその日まで…不老不死じゃなくなって死んじゃう日まで自由気ままに生きようと思う……僕がこの固有能力を保持してしまうことを知っていたのかな、父さんは。だから……そんなわけないか!考え過ぎだよね!
本当は、僕だけが不老不死ってわけじゃなかった。兄さんも、お姉ちゃんの血筋が不老長寿の家系だったから兄さんも半分は僕と一緒。年齢は、あの時のまま、僕達の時は止まってしまった。
薙ちゃんがいなくなった数十年の間に、僕達兄弟が変わらない姿を保ちながら年齢を重ねて行った間に色んなことがあった。まぁ、年齢なんて途中から数えるのをやめちゃったけど。紅がいなくなったから異変は全てなくなり、平和な世界が戻ってきた。それでもまだ、用心で武器を手放せない人もいるし、異変がなくなったからって全てが元通りに、武器を持たなくても良いってわけじゃない。何処でも一緒、だよね?多分。
まず、『神妖界樂』。あそこは神様と妖怪が住む所だから、ほとんどの人がなにもない限り不老不死らしい。決戦に集結された双子の片割れ、吽形とその部下であり神様の八意思兼さんは『勇使』として代替わりをした帝に今でも情報を提供している。阿形と姫鞠さんはそんな彼らの力になりたいと決戦で共に赴いた際、『勇使』となった。どっちがどっちってのは聞いてないけど、何となくわかるよね。あの時、薙ちゃんと雛丸が言ってたみたいに!
『ヴェーシーラ国』の『シーナリィ』。
雛丸のマニキュアが縁を結んだらしくムーナさんとスディさんはめでたく結婚。
スディさんが最終決戦で呼び戻された時、雛丸に感謝していたのは互いの想いが通じ合うきっかけになったからだったんだって!凄いよね!二人の結婚式は街の人々にも王様である父親にも兄妹にも喜ばれ、今では三男二女の大家族。孫も生まれて、長男が領主としてムーナさんの跡を引き継いだよ。
『倭征之途』。京さんと千の兄さんと親友が僕達が行った後に無事に帰って来たって、大和さんと侑氷さんが言ってたよ。あの決戦の後、行方不明だった人の半数が無事に帰って来たんだって。もう半数は…本当に実験に使われて、その影響で化け物になっちゃったみたい…正式な『勇使』となった大和さんはね、侑氷さんを相方にして兄さんが言ってた前世の親友と兄弟を探しながら帝に情報を献上してるんだって。この間、「見つかった」って手紙が届いたんだ。良かったぁ。
『創造華』。 夜弥さん達が決戦に来てたよね。驚いたなぁ。あとで聞いてみたら、なんかあそこでの強者…って言うか予知された強者五人組だったんだって。関係ないって言ってたのに、関係あるじゃん!ねぇ!あの後、雨近と鶯、燈梨さんとアーク、五人で集団を壊滅させたんだって。それで今は復興にみんなで力をいれてる。一番、平和なところじゃないかな。
『Realistic darkNess』もあの組織が壊滅して、今は復興に力をいれてる。革命軍の指導者だった神子さんを筆頭に着々と元の生活に戻りつつあるみたい。花白さんは神子さんの守り人を一人で担いながらも右腕として活躍中。群青は正式な『勇使』となって『隻眼の双璧』と共に神子さんの指示のもと、都中を駆け巡っているんだって。リンとミオも、笑顔で、あの時みたいに暮らしてる。
『アルカイド』も、あの壊滅から怖いくらいの復活を遂げた。もう、あんなこと本当に起きたの?って首を傾げちゃうくらいに!帝は、あのあと十四年居続けた後、次の代に位を渡して萊光と一緒にどっか行っちゃった。行方は誰にもわかっていない。でも、帝は結婚をしなかったから、彼の血を使ったクローンが四十九代目。帝の血を使っているからほとんど一緒。容姿と性格、固有能力が所々違うくらいで。いなくなっちゃった帝を「お父さん」って呼んで、彼みたいになろうと、平和な世界を見守ろうとしてる。
……何十年も経った中で、嬉しいこともあった。でも、何人もの友人が死んで逝った。今話した中の半数は、もういない。この前は雛丸が死んだ。寿命は百歳。普通の人よりは長生きしたと思うよ。あのあと綺麗な女性に成長した雛丸は恋人も作らず、ずっと兄さんと一緒にいた。多分、結婚とか恋愛とかとはまた違うものがあったんだね。僕も一緒に過ごしたんだよ。薙ちゃんに連れられて行ったあの屋敷で。そんな雛丸も兄さんの腕の中で生き絶えた。彼女は、薙ちゃんや薙ちゃんの両親と同じ裏庭に埋葬された。雛丸のお願いだったしね。
容姿も変わらない、歳も取らない僕達兄弟。薙ちゃんと雛丸、みんながいなくなってしまったあとの世界は、色んな出来事があったよ。全て、『白紙の歴史』で、必然で偶然。楽しい事もあったし当然嫌な事もあった。でも、これが普通の日常だって思うと、なんだか全てが愛おしい。あの時、以上に。
ねぇ、もしも……なんて、あるわけないよね。ごめん。でも、またいつか、兄さんと雛丸と薙ちゃんと僕、四人で笑い合いたいんだ。
だから……だから、いつかまた、会えると良いね。
なんて
紅葉のデメリットも出ましたので此処で主人公勢のプロフィールをドーン!紅葉を主人公に設定してはいますが、この話もいつかの物語のように主人公「勢」と云うような、そんな関係性だったような気がします。……いやまさか、自分で云うのも何ですが欠けさせたかウチィ……まぁでも、分かりますよね?あと、初陣と終陣はある意味、対になるようにしています。
主人公・紅葉
『勇使』になれるほどの実力を持っていながら、薙の下についた青年。陰陽師としての力も持つ。固有能力は珍しく、〈陰陽魔杯〉(二つ)で〈陰陽魔杯・陰〉(絶望系・破壊系)、〈陰陽魔杯・陽〉(治療系)。呼び方は薙ちゃん(たまに主)。明るく元気な性格。女子力が高いとも云う。母親は陰陽師の家系。白桜とは腹違いの兄弟。
武器は大鎌。
175cm、20歳
第一人称・僕 第二人称・君
薙
紅葉の主人であり相棒の『勇使』。男のような言葉遣いで女の人称言葉を使い、女のようで男、男のようで女と云う不思議な人物。性別は女。男前であり、優しい性格。これと決めた事は必ずやり遂げる、意思の強い女性。固有能力は〈瞬間的位置召喚〉(固定移動系)。
武器は刀。
160cm(+5cm)、18歳
第一人称・妾 第二人称・お主
雛丸
白桜の主人であり、保護者を頼んでいる相棒の『勇使』。白桜は雛丸のお父さん。中性的な容姿で無邪気な元気っ子、甘えん坊でもある。性別は女。薙以上に頭が良く、その頭脳と情報収集能力で『世界地図』を作り上げた。固有能力は〈乱舞・双〉(超攻撃系)。
武器はナイフと短刀。
159cm、17歳
第一人称・ボク 第二人称・キミ
白桜
紅葉の腹違いの兄。『勇使』であり主人、相棒である雛丸の保護者的立場。呼び方は普段は雛様、ある時は主人。帝の指示で彼らに着いて行く事に。四人の中で唯一固有能力を持っていない。代わりに共通能力を多数有する。優しく、穏やかな性格で女性のような包容力と敬語を使う。母親は不老長寿の家系。
武器は扇(二つ)と共通能力。
182cm(+2cm)、23歳
第一人称・私 第二人称・貴方




