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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第二陣 新たな意味
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第十二話 新たな真実を求めて



「眠ったか?」


紅葉は薙の優しい声に視線を少し上げ、すぐに視線を元に、下に戻した。座る紅葉の膝の上にはマスクをつけていない状態の吽形が気持ち良さそうに、安心したように眠っている。頬には薄くなった涙の筋が目立ち、紅葉はそんな彼が安心できるようにと優しい手付きで頭を撫でる。白桜()がいつも自分にしてくれるように。そんな白桜は紅葉の隣におり、その左側には彼の腕に顔を埋めるようにして阿形が眠っている。薙と雛丸は二人の前に楽な姿勢で座っている。


あの後、部屋に薙達が慌てた様子で入って来た後、すぐさま事情を察したのは八意だった。八意は姫鞠を別室に連れて行き、紅葉達には客間を使うよう指示した。阿形は怯えた様子の吽形に近寄り、心配そうだったが、紅葉から一向に離れる様子もないので心配ながらも少し不満げにしながら、客間に案内してくれた。その後、吽形は落ち着いたのか紅葉の膝の上で眠ってしまい、阿形も釣られるように眠ってしまったのだ。白桜紅葉兄弟の近くは安心するのか、初めて会った時とはうって代わり、なんとも愛くるしい子供の表情だ。双子が眠ってしまった後に、得た情報をいなかった二人に教えた。


「それにしても、『神妖界樂ここ』での化け物の原因が分かったね」


雛丸が双子を起こさないように言う。だが、薙は難しい表情で腕を組んでいる。


「その原因が奇病だとして、奇病の原因はなんなんだ?堂々巡りだ」

「奇病と化け物が分かっただけでも良かったのでは?」


薙の言い分はもっともだ。奇病がどこからやって来たのか、それが分からなければ帝の憂いは晴れないし、任を達成したことにはならない。白桜が身を乗り出すようにして薙に言うと彼の腕に顔を埋めるようにして眠っていた阿形が小さく呻いた。それに慌てたように白桜は姿勢を元に戻す。


「まぁ、そうだよね。薙ちゃん、とりあえずそれだけでも帝に報告したら?」

「何言ってんの紅葉。『勇使』もまだなんだよ?」

「……此処で『勇使』は()()()()()()()()()()()()


何故か薙がそう断言した。一斉に薙の顔を驚いた様子で振り返る。彼らの様子に薙は肩を竦める。そして双子が眠っているのを確認して言う。


「国や都に必ず一人は『勇使』がいる。此処の『勇使』は恐らく無事だ。阿形か八意思兼やごころおもいかねが『勇使』だと思う……確信はないけどな」

「ふーん、そっか。薙がそう言うならそうなんだろうね。ボクもあの二人のどっちかがそんな気はしてた」


薙に雛丸が同意する。紅葉と白桜には分からないが、二人には二人なりに感じるものがあったらしい。それに紅葉は少し不機嫌になりながらも、隣の白桜の肩に頭をぶつけた。自分がわからなくて薙が分かるのが納得いかない、悔しい!と云うオーラが出ていたのか、白桜はクスクスと笑った。紅葉が寄りかかってきた方の腕を少し動かして彼の頭を撫でた。そんな兄弟の光景を見た後、「さて」と声をあげながら薙が立ち上がった。


「部屋の隅で報告してくる。雛丸、あの二人が来ないか見ててもらっても良いか」

「うん、はーい」


雛丸が手をあげて、眠っている双子に配慮して小さく返事をした。紅葉は何故、二人が来ないかなんて気にするのだろうと思った。もしかすると、別の場所から来たとバレるからだろうか?いや、普通ならば、別のところから来たなんて思い付かないし、ただ単に『勇使』として出迎えてくれるのではないだろうか?帝が一応、『勇使』の存在を公表しているのだから。まぁ、さすがに個人情報は公表していないが。


「あの二人に言っちゃった方が良くない?情報早く集まるんじゃない?」


その発言に雛丸は同意したように頷いていたが、薙や白桜は苦々しい表情だ。ん?と首を傾げる紅葉に薙が仕方ない、と隅に行こうとしていた体ごと振り返る。


「『勇使』の名を騙る輩がたまにいるんだ。それを言って、相手が嘘だと勘違いした場合、妾達はどうなると思う?恐らく血祭りだ」


血祭り、その言葉に紅葉と雛丸が震え上がり、顔色が悪くなる。帝に敬意等を持っている彼らだ。忠誠とまでもいかなくても、崇めているような者達がいないとも限らない。帝がいる都には結構いる。「だが」と薙は続ける。


「まぁ紅葉の言いたいことも分かるけどな。情報を早く手に入れたいのは分かる。けど、自分達が危険な目に陥ってしまっては意味がねぇ。あの二人は信頼できる。けど、一人は化け物になりつつあるんだぞ?これからもこんなことが多いだろう。それに、あいつらにとって妾達は未知の生物と云っても良い存在なんだぜ?共通能力や帝がいるにしても、未知のものに遭遇した時、恐怖するものに遭遇した時、妾達人間は敵と判断してしまう。なら、同じ出身だと思わせて情報を共有した方が良い……分かったか紅葉」

「う、うん……」


信頼しているからこその安全策。紅葉は何も言えなくなってしまった。それが顔に出ていたのか、紅葉は小さくため息をつくと笑った。紅葉がえっと顔をあげる。


「妾も自分の正体を正直に告げればどんなに良いか……妾達の安全のためだ」

「……うん、分かった薙ちゃん。でもさ!」

「ん?なんだ」

「………吽形には、言っても良いでしょ?」


紅葉は不安そうに言いながら自分の膝の上で眠っている吽形の頭を撫でる。髪の中に紅葉が指を入れると、さらさらと落ちていく。何故、吽形になら真実を言っても良いのか。それはきっと吽形が声を出せないからではない。紅葉には何故か彼に言っても大丈夫なような感覚があるのだ。それが吽形の不思議な雰囲気でもなければ、彼自身の人格なのだろう。薙は軽く肩を竦め、やれやれと云うポーズを取りながら彼らに背中を向け、部屋の隅へと移動して行った。その行為の意図が紅葉には分からず、首を傾げていた。雛丸がゆっくりと立ち上がり、開け放たれている客間の入り口へと歩いていく。そして廊下に出て、さも「暇で廊下にいました」と言うように壁に寄りかかって足を軽くぶらぶらさせながら、視線を左右に配る。薙は掛け軸の前に立つと首にかけているネックレスを包むように両手をかざした。その動きは帝への報告方法だ。紅葉はなんとなく、見るのを憚られ、視線を外した。


「兄さん」

「はい?なんです?」


俯いたまま、白桜の肩に頭を凭れながら紅葉は言う。その表情は寂しそうであり、少し複雑だった。


「もし、壁がなかったら僕達は仲良くなってたかな?余所者とか関係なく」

「………さあ、どうでしょうねぇ」


そんな答え、誰にも分かるはずないって、分かっているのに。もしも、それは誰もが一度は考えた事があるだろう。しかし、それぞれが文明を発展させた時点でそれはもう()()()()()のだ。紅葉は唯一、客間にある窓に視線を向けた。いつの間にかオレンジ色が黒く染まっていた。夜になっているのだ。此処でも、いや空も共通なんだなと紅葉は思いながら、静かな空間に身を委ねた。


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