第百二十三話 再登場、再戦
雛丸は大きく吹っ飛ばされ、そのまま後方にいた白桜に抱き留められた。ズザザ、と吹っ飛ばされた勢いがすさまじかったらしく、白桜が足を懸命にコンクリートにつけて吹っ飛ばされないようにする。そして、心配そうに雛丸を見下ろし、彼女が大丈夫だと微かに笑う。二人が武器を構え、前方を睨み付ける。大鎌を操りながら紅は余裕綽々と云った様子でニヤニヤと笑っている。紅葉が既に参戦不可能とわかっているからだろうか。二人だけなら行けるとでも思っているのだろうか。恐らく、両方だろうが。それでも、負けるわけにはいかない。
バッと雛丸と白桜が同時に駆け出す。それを紅は動かずに傍観している。雛丸はそれにギリリと歯を食い縛った。素早く、滑るように紅に接近する。恐らく、使えていた能力も薙の体で使える。瞬間移動は気をつけなければいけない。素早く移動する紅を捕獲するには、相手に隙を与えてはいけない。ダン、と片足でコンクリートを強く踏み込み、一気に紅の懐に攻め込み、短刀を掬い上げるように紅に振った。その一撃をなんなくかわした紅に追撃としてナイフを腹を狙って振りかざす。だがその間に大鎌を滑り込まされてしまった。しかし、これで終わりではない。雛丸は滑り込まされてきた大鎌に両足をつけ、そのまま後転。雛丸と入れ違いになって今度は白桜が接近し、片足で蹴りを放つ。大鎌で防がれた蹴り。紅は容赦なく大鎌をグルンと回す。白桜はそれに抗い、態勢を整えると小さく跳躍。二扇を上段から斜めに切り下ろす。それを後退してかわす紅。タンタンッとステップを踏むと一気に駆け出した。
「〈槍の雨〉!」
突き出した扇から槍のように鋭い雨が容赦なく紅に向かって降り注ぐ。まるで槍の雨だ。その雨と共に後退していた雛丸も駆ける。紅が槍の雨に臆する事なく突っ込んで行くと大鎌を両手で持つと大きく振った。その一振りだけで槍が一気に姿を消した。切り刻んだと言うよりも風圧で吹き飛ばしたと云う方がしっくり来た。それでも雛丸の勢いは止まらない。紅に接近する前に固有能力を発動させ、瞬発力を大幅にあげていた。トン、と一踏みで紅と同時に接近する。そして両者、思いっきり武器を振り回し、交差させた。あまりの勢いに衝撃が風圧となって襲うかかる。雛丸はナイフを大鎌にあえて自分から絡ませ、柄を思いっきり手のひらで上へ押し出した。たたらを踏むようなステップをした紅の懐に短刀を食い込ませる。スッと首筋に刻まれた浅い一線では彼を倒せやしない。素早く態勢を低くし、足の間から背後へ滑り込む。雛丸のあとを追って大鎌を分離させる。やはり、薙の体に入ったからと云って使えないと云うわけではないようだ。流し目でそれを確認し、背後に回り込むと頭上から落ちてきたナイフの柄を回し蹴りに放ち、凄まじい勢いで磯つぶてのような攻撃を放つ。紙一重でかわした紅の顔にズイッと顔を近づける。途端、違和感を感じた。慌てて引く雛丸の手首を捻りあげ、頭上に持ち上げる。痛みに顔を歪める。が
「ボクを舐めないでよ、ね!」
手首を持ち上げている手に向かって、肩を狙って勢いをつけて蹴りを放つ。左右に揺れて反動で手から手首が抜けた。その勢いを利用して紅の肩に飛び乗る。飛び乗った雛丸を捕らえようと腕を伸ばす紅の手を掻い潜り、クルンとその場で回る。雛丸が空いている片手を伸ばすと何処からともなく先程投げたナイフが彼女の手中に収まる。それを合図に白桜が再び飛ぶ。
「〈桜吹雪〉!」
バッと扇を振ったその道筋を現すように刃物のように尖った桜吹雪が紅を襲う。その間に雛丸は後退する。ガン、と扇と大鎌が交差する。片方の扇を閉じ、分離した大鎌二つを同時に防ぎ、残りの一つを弾く。が、紅はそれを予測していたかのような動きを見せる。弾かれたと思ったその瞬間に、回し蹴りを放ち、よろめいた白桜に一気に迫る。ガッと迫った紅に向けて横から扇を素早く振り回す。大鎌で弾かれ、それでも扇を振り回す。何度か繰り返された攻防戦。腕を交差させ、共通能力を相手に意識させると紅はニヤリと勝利の笑みを浮かべながら一旦後退し、姿を消した。分離した三つの鎌は彼の居場所を察知できぬよう、雛丸と白桜の周りをぐるぐると回る。
「くっそーどうする白桜?」
「お口が悪いですよ雛様。そうですねぇ…」
周囲に視線と警戒を巡らせながら二人は考える。恐らくだが、紅は分離した鎌に自分達の意識を集中させている間に瞬間移動で攻撃してくる気なのだろう。しかし、そんな簡単な分かりやすいことを紅がするか?深読みをすれば、違う作戦が脳裏を通りすぎて行く。圧倒的に攻撃力が足りたない雛丸が武器を握り締めながら、歯を食い縛る。此処で、負けるわけにはいかないんだ!それは白桜も同じであった。
「共通能力で突破でも致しましょうか」
「ううん、ダメ。何かあった時に備えて取っておいた方が良いよ」
雛丸の考えに白桜はなるほど、と納得し頷いた。だとすれば、どうするか。あの時のように頑張って桜龍と天女を召喚するか?紅葉に至っては式神でもあるため、容易であるがそれとは少し違う。たかぶらない感情で召喚できるのかどうか……前途多難だ。と、その時、白桜はよく知る気配を感じ取り、思わず笑ってしまった。それを見た雛丸がどうしたの?と首を傾げる。
「白桜?」
「ふふ…ふふふ。嗚呼、やはり、そうですか。ええ…雛様、強力な助っ人のお出ましですよ」
白桜のその言葉で思い付く人物は、たった一人しかいない。パァと笑顔を浮かべた雛丸の背後で分離していた鎌が集まり、大鎌を作り上げて行く。それと同時に空間が歪み、あの紋様が大きく展開される。白桜はニヤリとその紋様に向かって嗤いながら、雛丸の手を引いた。
兄弟だから分かったとも云うー




