第百十二話 その友人、仲間、『勇使』なり
紅葉達は襲い来る化け物の群れを倒してながら道を進んでいく。化け物の数は『勇使』達によってほとんど倒し終わっているようだが、洗脳された『勇使』の片割れが多すぎるらしく、彼らの対処でこちらの人数が削られている。紅葉は目の前に突然現れた化け物を大鎌で一刀両断した。それでも倒れなかった化け物を後方から駆けて来た薙が刀で再び真っ二つに切り捨てる。二人のその一撃に化け物は倒れていく。雛丸が目の前に押し出されるようにして現れた化け物の頭上へ跳躍するとナイフと短刀を振りかざした。化け物の後方に降り立った雛丸が振り返ると化け物はいまだに立っていた。そこへ白桜が二扇で攻撃し、最後の一撃を与えていく。
「薙ちゃん、このまま進むのは難しいよ!敵が多すぎる!」
「んなこと知ってるわ!」
再び集まりつつある化け物を倒しながら紅葉が叫ぶと薙も叫ぶ。紅のところへ行こうにも化け物達がそれを邪魔する。化け物達の隙間からは紅と交戦している『勇使』が見える。何人かで攻撃しているにも関わらず、紅は余裕綽々と云った様子である。その近くに帝と萊光が別の化け物の集団と交戦しているからだろうか。最終決戦の結末は近いとでも云うのだろうか。紅葉は接近してきた化け物の鋭い爪を大鎌で防ぐ。がそれでも化け物はギリギリと首を締める勢いで紅葉に迫ってくる。苦痛の声をあげつつも自身も押し返そうとする紅葉。そこへ白桜が応戦し、化け物を切り伏せる。首を締めるものがなくなり、大きく息を吸い込んだ。白桜が心配そうに紅葉を見ていたが、彼は大丈夫だと笑ってみせた。
「紅葉ーまた式神出せないのー?」
白桜の背中に抱きつくような感じで雛丸が突進してくる。雛丸の案は良いと云えば良いのだが…紅葉は懐や袖口の中を勢いよく探る。それで出て来たのは数枚の式神のみ。ノエとの対戦前、十二枚の式神を放出したため数が少ないのだ。十二枚分と鏡の中での対戦にも式神に与えた力を今ここで使ってしまえば、今度は自分がばたんきゅーしてしまう。万事休す、この表現が合う場面すぎる。
「んー…無理」
「えー!?」
「私の共通能力も紅との戦いで使用すると云うのでしたら、あまり使用しない方が宜しいかと」
「……八方ふさがりか」
いつの間にか、三人の元にやって来ていた薙が眉をひそめて言った。化け物達は紅葉達にターゲットを絞り出したらしく、どんどん集まって来ている。この量を倒してから行くにしてもどれほどの時間がかかるかわかったもんじゃない。運が悪ければ、倒している最中に帝が倒されてしまう可能性もある。まぁ、彼が倒されるはずなど皆無なのだが、自分達でさえも分からなかった未来を見据えていた彼のことだ。そこまで見据えて攻撃する可能性もある。
「強硬突破する?少しくらいなら我慢できるし」
「そうした方が良いのかな?」
「まだ、何か策があるはずだ。強硬突破は最終手段にしておいた方が良い」
「薙様に同意です。何か策があると思いますが…」
『おい、僕達を忘れてないか?』
背中合わせで、策を出し合う紅葉達の耳に聞き慣れた声が響き渡った。その声は後方支援部隊となった、引退『勇使』スディである。えっと声をあげかけたその瞬間、スパン!と聞き慣れた音が耳元で響いた。その音と共に化け物が次々と倒れて行く。何事だと化け物達が混乱している。紅葉がまさかと後方を振り返る。後方支援部隊の大半がいるのは決戦前に隠れ家として使用されていた建物である。その屋上、化け物の標的になるのではないかと心配してしまうほどに何にも潜むことなく仁王立ちしている影があった。目をよく凝らすとその背後には無数の銃器が浮かんでいるのが分かる。
「スディさん?!」
『嗚呼、他にもたくさんいるのに、その存在を忘れているようだね』
「それは同感」
「「「「?!」」」」
インカムから流れてきたその言葉に同意を示したその声は紅葉達の後方から聞こえて来た。まさかと振り返れば、自分の後方に不気味な空間を展開させた男性が仁王立ちしていた。不気味な空間からは無数の刃物が針山のように浮き出ていた。その男性を紅葉達はよく知っている。男性の背後からこれまたよく知っている人物達が疾風の如く飛び出して行く。その人物達が紅葉達ににっこりと笑いかけた。大丈夫、任せろと。仁王立ちしていた男性も彼らを追うように脇をすり抜けて行った。
「ん?え、あ、え?」
驚きの声しか出なかった。以前よりも全ての行動が早くなった?なんで全員いるの?薙や雛丸でさえも目を丸くしていた。彼女達が移動をしている時はいなかったのか?そういえば彼女達の話に彼らは出てこなかった。それは先程の双璧も同じだった。彼女達が知らない間に移動?まさか……嗚呼、考えていたってなにも始まらないし分からない。そう思った途端、口角が上がった。それは、そこにいる全員も同じだった。嗚呼、友人全てが集まっている。此処には、本当に最強が集まっている。
「行こう薙ちゃん!」
「嗚呼、紅葉!」
紅葉が真剣な表情で彼女を振り返りながら手を伸ばす。その手に薙は強く自身の手を叩きつける。白桜がその二人の様子に微笑ましそうに笑った。と、雛丸に軽く手を掴まれた。白桜は彼女を見下ろし、二人はクスリと笑い合う。瞳の色を互いに塗った指が絡め合う。
「行きましょうか雛様」
「うん!白桜!」
彼らは、友人達の頼もしい背を横目に強く地面を蹴った。背後で半透明の黒い膜が広がっていた。
いるっちゃいるけどちゃんと出ないって云う。




