第百十一話 新『隻眼の双璧』
「あなたたちが負ければ、きーちゃんが、きーちゃんが、きーちゃんがぁああああああ!!!!」
狂ったようにノエが喚き散らす。その様子がまるで以前の自分達のようだと思ってしまい、思わずリンとミオは笑ってしまった。以前のように、彼女も紅に紅葉達を殺せば生き返るとでも云われたのだろう。能力で体力が瀕死状態から回復したとしても、死亡からは決してない。
「あ、ノエも洗脳中だった!」
「どうするの?」
「…任せ、て」
紅葉と雛丸が叫ぶと花白が脇差を抜き放ちながら告げた。えっと目を丸くした紅葉達の答えなどお構い無しに花白が飛び出して行く。そのあとに目を閉じ、深呼吸をした神子がゆっくりと続く。神子が歩く道を作るように、彼が足を踏み出したところからは瑞々しいほどの草花が生え、神子のお通りだと叫ぶ。ノエは虚ろな瞳を見えない怒りの色に染め、こちらを睨み付けている。群青の前に刃を交差させて双璧が立つ。まるで王を守る守護人のようだ。
「償いにはならないかもしれない。でも…アタシたちは、主様を忘れずに心に秘めて生きていく」
「それが、この意味をくれた主君の望みなら。世界を滅ぼそうとする敵は誰だかはっきりと今、理解できた」
ノエは自分の方へ跳躍してくる花白に向けて近くにいた化け物を行かせ、神子に至っては特殊能力を発動させている。しかし、予知と云う特殊能力を持つ彼には効いていないらしく、神子に向かって行った鏡が全て彼が腕を振った途端に破壊されていく。これには紅葉達もノエも目を丸くするしかない。神子にこのような攻撃能力があったとは驚きである。まぁ白桜の顔が少し納得しているようだったので、特殊以外にも能力を持っている可能性もあるが。群青は双璧の真剣な表情に満足そうに笑った。双璧の言葉から、いや、群青達が此処にいるという現実に何処かその考えがよぎっていた。
「……群青を新しい『勇使』として、生まれ変わったんだね…」
「嗚呼、群青が…大将が全てを裏切り、復讐をした『隻眼の双璧』に手を差し伸べてくれた。大丈夫だと笑ってくれた」
紅葉の嬉しそうな、安心したような声色にリンは心底感謝するように笑い、言った。その言葉には洗脳されていた時のような冷たさが何処にもなかった。それよりも鮮やかで暖かかった。ミオもそうだよ、と言わんばかりに狂喜していた時が嘘のように優しく言葉を紡ぐ。
「アタシたちを生まれ変わらせてくれた。命ある限り、主様が愛した世界のために、存在意義のために生きれば良いって言ってくれた」
「「だから」」
双璧の刃物の切っ先がノエに向けられる。ノエは一瞬、狼狽えた後、「なーに?」と無邪気に笑った。だから、第二の自分達を出さないためにも、決めたんだ。
「「新しく生まれ変わったこの姿で、大将/大将様の意思と我が『隻眼の双璧』の名の意思の元、生きていく!」」
嗚呼、その姿こそ、『隻眼の双璧』だ。その姿に紅葉達は最終決戦中であるにも関わらず眩しそうに目を細めた。紅葉と雛丸に至っては拍手までしている。リンとミオは新たな『勇使』にこうべを垂れる。
「「さあ、ご命令を」」
「勝て」
その一言にどれ程の思いと信頼が詰まっているか。聞かなくても手に取るように分かってしまうのは、双璧と一度でも交戦したからだろうか。それとも、群青達と云う強い絆で繋がった幼馴染を見たからだろうか。どれが正解かなんて、分からないのだ。群青の言葉にリンとミオは、新しい『隻眼の双璧』は満足そうに笑い、神子と交戦を開始したノエと化け物と交戦を開始した花白に向かって大きく跳躍した。そこに洗脳時の虚ろな瞳なんてなかった。美しくも力強く輝く瞳がそこにはあった。そしてその背中が、なんと大きく見える事か。
「オレらがノエとそこらの化け物を食い止める。アンタらは、進め。此処には、最強が揃ってんだからな!」
「…ふ、ははは!嗚呼そうだな群青。紅葉、雛丸、白桜、進むぞ」
群青の力強い言葉に薙が愉快そうに笑い、彼らを振り返った。その瞳に宿るは信頼と意志のみ。嗚呼、全く持ってその通りだ。
「うん、行こう!」
「お供致しましょう?」
「真実を、勝利のためにも、ね!」
武器を構え、叫ぶ紅葉達。そして大きく、まるで彼らのためにとでも云うようにあいた道に向かって跳躍した。その背中を眺めながら群青は二振りの短刀を構え、大きく跳躍した。
誰が!こんなの!予想した!あ、予想できるか!
リンとミオは亡くなってしまった相方を思って、群青との呼び方を変えています。二人にとっての最初の相方は彼らだけで、群青はもう一度救ってくれた、新しい人生をくれた相方という意味で呼び名を変えています…もう少しで物語も終わります…長文失礼しました。




