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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第八陣 最終決戦
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第百八話 自然の色が写し出す、その強さ



ハッと薙は我に返り、辺りを見渡した。そこは上下が鏡で、左右には水が流れ落ちていた。それはまるで小さな滝のようだった。薙はその空間に驚き、そして一度は繋いだ手を見つめた。雛丸と白桜が鏡に消えた後、慌てて紅葉に向かって手を伸ばした。離れてはいけない、そう思った瞬間にその手は簡単に離れ、鏡に消えてしまった。紅葉の事だから大丈夫だと云うことは知っている。けれど。一瞬、手に視線を送り、瞳を閉じる。ノエの能力は分からない。いや、恐らくだがおおよその検討はついている。だが、そこから先は不明だ。刀を抜き放ち、周囲を警戒する。すると水が流れ落ちている滝に目が行った。その滝は左側だ。ゆっくりと慎重に近寄る薙。ザァザァと流れる水に違和感を持ち、手を伸ばしたその時、()()が笑った。


「《恐れていては強くなれないと言っておきながら、お主こそがそれなのにな》」

「!?なんだ!?」


目の前の滝から自分と、いや、心の僅かな隙間にも侵入してくるような感覚を持つ声が響いてきた。一瞬にしてその滝から距離を取ると、その滝からある人物が現れた。その人物は薙だった。いや、(自分)であって(自分)ではない。薙が警戒し、刀の切っ先をもう一人の薙に向ける。彼女にそっくりで違うもう一人の薙はニヤニヤと彼女らしからぬ笑みを浮かべている。もう一人の薙は瞳が紫色でネックレスがアメジストをしていた。やはり、違うものは違う。敵か、そう判断した薙はもう一人の薙ー瞳が紫色をしているのでムラサキとしようーに向かって鋭い視線を向けるとムラサキは可笑しそうに笑った。


「《矛盾すぎだよなぁ?なのに何故そのままだ?恐れるくらいなら、壊せば良い…だろ?》」

「嗚呼そうだな。敵であるお主をな!」


薙が叫んだと同時に両者は飛び出した。ガキン、と刃物同士が勢い良く交差し、火花を散らせる。薙はムラサキの刀を弾き、蹴りを放つ。それを両腕を交差させて防ぐとムラサキは態勢を低くし、薙の足を刈ろうとした。がそれに気づいた薙は一旦後退し、鏡に手をつく。床なんだか下なんだか分からないそこに険しい表情の自分がうつりこむ。勢い良く駆け、懐に迫る薙。それを防ぐようにムラサキが刀を間に滑り込ませる。そして迫って来た薙に向けて刀を振った。間一髪、それを横にずれてかわすが前髪が少し切れた。そこから薙は刀を見ずに逆手持ちにするとお返しだと云うように突き上げた。ムラサキは後方に仰け反ってかわすと回し蹴りを放つ。ガッと片腕を立ててその一撃を防ぐ。ギリギリと足を振り切ろうとするムラサキと弾き返そうとする薙。嗚呼、似ている。


「本当に妾にそっくりだな。驚きだ」

「《弱すぎるよなぁ。誰のことを言っているのか、分からないはずないだろう?な、あ?》」


バッとムラサキが足を振り切った。途端、薙が一回転する。が薙はそれでも足で回転を避けると刀を振った。頭上で二人分の刃が交差する。相手の刀を弾き、素早く迫りながらその切っ先を突き刺すようにする。ムラサキはその一撃を頭上へ跳躍してかわすとそのまま薙に向かって刀を突き刺した。頭上からの一撃を右へ避けてかわすが着地した途端、ムラサキが刀を振ったため、薙の右腕に切り傷がついた。痛みに顔を歪めた薙は素早く刀を後退しながら振った。その奇妙な一撃を防ぎながら今度はムラサキが薙に向けて駆けて来る。来ると云うことが分かっていた薙は足を止め、ゆっくりと刀を構え、迫り来るムラサキを迎え撃つ。その時、彼女の視界からムラサキが一瞬消えた。驚く薙は四方八方に鋭い視線を向ける。そして、背筋が凍るような殺気を感じ、背後を振り返り様に振った。甲高い音と強い力が薙の思考を肯定する。薙はムラサキの刀を振り払うようにしながら半回転する。その時、足元に目が行き、目を見開いた。


「…固有能力…」


ムラサキの右足に展開された五色の光を伴った五芒星。それは薙の固有能力だった。彼女の固有能力は移動専門。戦闘に使えるものではない。つまり、そんなの妾は知らない。少々驚きながらもそれを顔に出すことなく薙は刀を振り払った。少し後退するムラサキがニヤリと嗤う。そんなムラサキに刀の柄の部分を突き刺し、一気に迫る。そして、刀を通常の持ち方に直し、勢い良く突き刺した。嗚呼、空を切ったか。そう感じた瞬間、薙に向かって上段切りが落ちてきた。それを刀を横にして防ぎ、弾き、攻撃する。そのまま激しい攻防戦が繰り広げられる。ジリジリと相手を探るするように回転する二人。その時、グイッとムラサキが薙に顔を近づけて来た。なにか来ると思った薙は刀からそっと片手を外すと拳を作った。


「《アハハ、ハ。本当に馬鹿らしいなぁ。そんなに怖い思いをするくらいなら、妾に譲ってくれよ?そうすれば、弱くなるぜ?》」

「馬鹿げた事を!」


薙が大きく叫び、拳を突き出した。ムラサキの言葉が、まるで刃のように突き刺さる。すぐに取られるとムラサキの動きで察するとその方向を変えた。顎に向けて放ったのだ。だがその渾身の一撃をムラサキは片手で掴み取ると刀を持った手で薙の腕を掴み、振り回すと投げ飛ばした。空中で態勢を整えながら薙は飛ばされた場所、滝に足をつく。パシャン、と音が響くのも気に止めずにムラサキに向かって跳躍する。ムラサキも薙に向かって跳躍してきており、空中で二人は火花を散らす。と、またムラサキの姿が消えた。途端に前のめりになってしまう薙を逃さず、背後に素早く回ったムラサキは無防備な薙の背中に向けて回し蹴りを放った。辛うじて腕でダメージを軽減したが、薙は勢いよく飛んで行く。バシャン!と滝近くに叩き付けられ、体が勢い余ってバウンドする。口元から微かに血が流れ落ち、足を使って跳躍しようとするのをムラサキが手を伸ばしながら迫り、防いだ。掴まれた首に指先が食い込んで行き、息が苦しくなる。


「っ、がっ」

「《苦しい?苦しいか?それがお主が弱い発端だよ。他人との差に恐れて、矛盾を生み出す発端だ。なら、強さなんて捨てちまえ。そうすれば、恐怖はない》」


嗚呼、そんな事分かってる。でも


「強きが全てとは限らないように、恐怖が全てとも限らねぇ。矛盾だって、誰もが持ってるもんだろ。妾は、負けない」

「《ハハ、それが負け犬の遠吠えだって気づいて言ってんのか?素直になれよ…?》」


ムラサキがそう嗤いながら薙の首を絞めていく。五月蝿い、煩い。分かってるんだ、本当は。強くなっていくたびに誰かとの差を思い知らされる。恐怖と云うか恐れと云うか、強くなると同時に出てくる矛盾。でもそれを認めなければ、受け入れなければ、強くもなれない。それに気づいたのは、恐れずに立ち向かう紅葉を見た時だった。妾との差なんて知ったことかと、立ち向かう姿に勇気をもらった。恐怖があるからこそ、強くなる。妾は、上を目指す。そう決めた、決めたんだ。


「妾はすでにそれを認めた。代償だとしても構わない。それを乗り越えてこそ、先が見えるのだからな」

「《……なに言ってんだ?》」

「お主には分からないだろうな」


刀を持った手を塞いでいないので簡単に動く。作戦は既に頭の中に存在している。固有能力は使えないが、それでも妾は、勝てる。

お主が妾を()()()()鏡なら、うつっているのは、


「お主が言ってる事なんてただの後付け恐怖でしかねぇんだよ!既に妾は、克服し、その先の光を見出だした。何度言おうが妾は、乗り越えた!」


恐怖していた妾自身!

力強く叫んだ薙にムラサキは驚いたようで首を絞めていた手を少し浮かせた。その隙、もらった。薙は刀をムラサキの腕に向けて容赦なく突き上げた。痛みに呻きながら手を離し、降下していくムラサキを追うように薙も滝を蹴り、素早く降下しながらムラサキの刀を叩き落とす。落ちてくるムラサキが固有能力を発動させる前にクルンと半回転しながら、大きく跳躍した。頭から落ちてくるムラサキの大きく見開いた瞳に薙がうつりこんでいた。すれ違い様に切りかかりそして背中から叩き落とした。

パキン、と薙は鏡の床に着地すると刀を杖代わりに片膝をついた。横目で背後を窺えば、ムラサキが鏡にめり込んでいた。その笑みは何処か嬉しそうで優しかった。そしてゆっくりと目を閉じた。薙は軽く荒い息を整えた。


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