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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第八陣 最終決戦
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第百六話 白き愛情、何処へ行くか



ハッと目を大きく見開いた時、そこは先程までいた決戦の場ではなかった。上下左右、四方八方鏡の空間だった。上下にも左右にも驚いている自分の、白桜がうつっている。それがなんだが不気味で白桜は口元を袖口で隠した。周囲を警戒しながら、雛丸はどうなったのだろうかと不安を募らせる。恐らく、ノエの特殊能力で鏡に()()()()()()のは理解できる。だが、効果は分からない。白桜は雛丸と一瞬でも触れ合った手を見つめる。取れなかった。後悔ではない。彼女が強い事は知っている。それでも。その時、白桜の足元で()()が笑った。


「《全てが遅すぎるのですよ》」

「!?」


自分と同じ声が鏡の空間に響き渡った。驚愕し、扇を構えながら周囲を警戒する。その声はまるで白桜の心の奥に染み込んでいくような麻薬のようなものがあった。すると、白桜がいるところから少し離れた場所に()()が舞い降りた。その姿に白桜は面食らった。そこに降り立ったのは、もう一人の白桜だった。いや、正確に云えば、色々違っており、瞳の白目のところと黒目のところが逆転し、扇が真っ黒である。白桜(自分)であって白桜(自分)ではない。漂うオーラも雰囲気も何もかもが違っていた。敵か、そう思うよりも早く扇を構えていた。それにもう一人の白桜は嘲笑う。


「なにを笑っているのです?」

「《ふふふ…アホらしいと思いましてね。気づいているのにそれに蓋をする…貴方の弱さの象徴ですね》」

「……は?」

「《懺悔をしても、全ては同じなのですよ!》」


バッともう一人の白桜ー真っ黒な扇を持っているのでクロとするーは黒い二扇を構えながら白桜に向かって跳躍してくる。一踏みしただけでクロは白桜の目の前に迫っていた。振り下ろされた扇を自分の扇で防ぎ、弾き返すと片方の扇を顔目掛けて突き上げた。クスクスと、クスクスと自分を嘲笑うクロの笑みが癪に障る。顔を後方に引いてかわし、そのまま後方へ後転する。態勢を立て直し、手首を軽く回す。そこへ今度は白桜が接近する。舞うように振った二扇をくるりとかわすクロ。追撃が来ないと踏んだのか、かわしていた扇を引き返し、横に一線。片方の扇で間一髪防ぐと白桜はもう片方の扇に桜の花びらを微かにまとわせる。共通能力を発動させるが、その名前を云う前に違和感に気付き、後退した。目の前の敵は、自分とほとんど同じだ。だとしたら。


「《気づくのが遅いですねぇ。〈虹色のステータスレインボー・ステータス〉》」


クスリと笑ったクロの扇に虹色の布が付く。嗚呼、やっぱり。その事実に白桜は冷や汗を垂らした。


「……なるほど、本当に自分ですね」


苦笑しながら先程の共通能力を完全に発動させる。名前を言わずに発動させれば、白桜の扇に桜が舞う。そして今度は白桜から接近した。自分と同じ共通能力を持つのならば、その効果から先回りが出来る!素早く接近し、クロに向かって二扇を振る。その一撃が例え空を切ったとしても花びらが刃物のように鋭くなり、クロの体に少量でも傷をつけていく。クロがそれに驚いたように目を見開いたがすぐさま嗤った。そして、スピードも攻撃力も増した二扇を白桜に振りかぶった。動きが速すぎて目が追い付かない。それでも効果は全て知っている。白桜はピッと右頬にかすった一線をものとこせずに懐に迫ってきたクロの一撃を辛うじて防ぐ。間髪いれずに追撃が襲ってくるがそれを慎重に見極め、片足を回し振り回された手首を空中で固定する。


「〈吹雪の槍(ブリザード・ランス)〉!」


片足を振り切り、そのまま花びらの刃物がついた扇をクロに向けた。途端、氷のように鋭く尖った無数の槍が吹雪のように現れ、刃物と共にクロを攻撃する。空中に跳躍し、その凄まじい一撃を微かに受けながら回避すると白桜が後方を振り返るよりも早く、背中と脇腹に向かって回し蹴りを放った。怪我を負っているにも関わらず素早い動きに白桜は翻弄される。振り返り様に扇を振るがすでにそこにクロは居らず、肩に微かに残った痛みから上空を見上げた。恐らく、白桜の肩を踏み台に跳躍したのだろう。そしてそのついでに切った。白桜は血が滲み、痛みが走る左肩を庇いながら足に力を入れ、跳躍した。ピシリ、と足元がなにかを叫ぶかのように音を立てた。本当は、知っていた。自分にそっくりな効果(相手)が言っていることなんて。


「〈空を飛ぶ(フライジャンプ)〉」


白桜を柔らかな羽のようなものが一瞬包んだかと思うと消えた。空中に浮かんだ白桜が落下してくるように扇を振り回すクロに向ける。その時、白桜に向かってクロが逆転した瞳を歪めつつ、手を伸ばしながら言った。


「《いくら懺悔したって、変えられないのです。弱い弱い貴方のその心、成り代われば、全ては清算されるのです。ね?素晴らしい懺悔でしょう?〈第神の電撃(サンダー・タイプシン)〉》」

「っ」


知っている。いくら懺悔したって変わらないことくらい。でも、わたくしは…。その手が頬の傷に優しく触れた途端、白桜の体に電撃が走った。そんな共通能力、わたくしは持っていない!その事実に驚愕しつつも自分の体の中から先程かけた共通能力が解けていくのを感じる。効果が継続する時間を攻撃と同時に早められたのだろう。白桜はまっ逆さまに落ちていき、鏡の床に軽く手をついてバク転し、態勢を立て直そうとするが体に電撃が走り、ビリビリと痺れ、思うように動いてくれない。そこへ頭上からクロが凄まじい勢いで真っ黒な扇を向けながら落ちてくる。着地する際、足を捻ったらしく痛みを感じた。しょうがない、このまま。白桜は扇を持つ腕を交差させ、その切っ先を落下してくるクロに向ける。


「〈桜雲おううん〉!」


二扇から桜の花びらがバァと広がり、一面に桜が咲く。それは白桜をクロから覆い隠してしまう。だが、クロはそれでも構わないと言いたげに桜に埋もれて行く白桜に向かって効果がまだ継続している扇を振った。桜の雲のような守りに少しずつ切れ目ができていることに白桜は目を疑った。クロからの攻撃に降下している勢いが加わっているにしても切れるはずがないのだ。これは危険だ。驚愕しつつも脳をフル回転させ、この状況を脱出出来る共通能力を探す。片足を捻っているため、素早く移動することはできない。ブワッと花が晴れた瞬間、クロが落っこちて来る。バッと扇を交差させ、弾き返すと無事な方の足で腹を蹴りあげる。クロはその一撃を片腕で防ぐ。その拍子に真っ黒な扇が一つ片手から飛んでいった。だがクロは効果が継続しているもう片方の扇をすぐさま後退する白桜に振った。その一撃は素早く、かわしきれず、白桜の片腕に刻まれた。そして容赦なく捻った足を刈った。倒れて行くのを感じながら、態勢を素早く立て直そうとするがそれよりも早かったのはクロだった。倒れ込んだ胸元に起き上がれぬように勢いよく足を振り下ろした。胸元に来る鈍い痛みに白桜が呻いた。そんな彼の首筋に残っている扇を当て、動きを制限することも忘れずに。


「うっ」

「《ふふ…苦しいですか?貴方は変われない。懺悔は全てを払拭はできない。遅いのですよ、だから弱くなる》」


嗚呼、そんな事わかっている。けれど、


「けれど、わたくしにとっては、次への一歩なのですよ。その経験が、わたくしを強くする」

「《そうは言っても、再びあの時を取り戻せはしない》」


クロが怪訝そうに、バカらしいとでも云うように鼻で笑う。確かに、懺悔したってお母様とお姉様、紅葉と笑い合っていたあの時には戻ることはできない。それは知っている。いや、紅葉に再会するまで実感がなかった。紅葉と再会した時、あの日々が戻ってきたと思った。それはある意味正解である意味不正解だった。弱くて守れなかったあの日々を、今度は守ってみせる。心の何処かで()()は懺悔だと思っていた。いや、思い込んでいた。これは、きっと違う。それを、雛様に教えて頂いた。支え合っていたからこそ、気づけた。


「確かにそれは正論です。ですが、わたくしのは、懺悔であって懺悔ではない」

「《……はぁ?》」

「こうすれば良かった嗚呼すれば良かった。後悔はつきませんし懺悔だって遅いのはわかっています。けれど」


両手は動く。そして、()()()近くにはクロが落とした真っ黒な扇。計三扇。

貴方がわたくし()()()()鏡ならば、うつっているのは、


「これは次への一歩。抗う事を示してくれる、強くなるための道筋です。過去を悔やんでいたって、未来をうやんでいたって、今此処にあるのは、わたくし自身です!〈秘術・桜吹雪さくらふぶき扇華おうか〉!」


弱いわたくし自身!

白桜が力強く叫ぶとクロは一瞬怯んだようだった。その一瞬の隙を見逃しはしない。白桜は後退しようとするクロの足を掴み、自分が立ち上がるのを利用して自分の方へ引き寄せ、倒れ込ませた。立ち上がろうとするのを阻むように黒い扇を拾い上げる。そして、上へ放った。途端、その黒い扇は多くの桜吹雪となり、白桜を包み込む。ハラリと白桜が二扇を振れば、まるで桜を編み込んでいるようだ。跳ねるように立ち上がったクロに向けて白桜は捻った片足を庇いながら跳躍した。跳躍する白桜の周りに持っている二扇以外の扇がまるで彼を守るかのように舞う。桜吹雪は刃物のように尖り、扇と同じように守るように、そして、攻撃の意思を持ちながら、クロに切っ先を向ける。目を見開くクロに向かって白桜はそれら全てで攻撃した。

攻撃し、クロの背後に舞い降りた白桜は共通能力をすぐさま解きーいや、解かれてしまったの方が正しいー片膝をついた。鏡の床に疲労した自分がうつった。けれど、背後でクロが倒れた音がした。横目で見ると顔にひび割れが入ったクロが白桜を優しそうな笑みで見、目を閉じた。それに白桜は大きく息を吐いた。


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