第十話 新たな人物、新たな事実
阿形と共に現れた人物は一言で言えば、神々しかった。あとスタイル抜群。人物は見た目から言っても明らかに女性だった。神々しいその雰囲気から阿形吽形兄弟や男性とは違い、神ではないかと思われた。女性は阿形の頭を軽く叩いた。それに阿形が「イテェよ!」と言いながら文句を垂れる。
「我慢なさい。この人達に連絡なく告げたんだからこれでチャラ。まったく…」
女性はアルトの声でそうぶつぶつと言いながら薙と紅葉に歩み寄って来た。紅葉が警戒して薙の前に歩み出ると女性はクスクスと柔らかく笑った。それに薙はなにやら共感できるというかなんというか、何かを感じ取った。それに気づいたのか否や、女性は続ける。
「初めまして、この家の者です。話は阿形から聞いた。だから、どうぞごゆっくり」
そう言いながら、薙に向かって手を差し伸べる女性。突然現れた人物に薙は警戒している様子で、彼女を値定めするように注意深く観察する。先程感じたのは、なんだ?とそこへ吽形が女性にドン、と体当たりするように抱きついた。女性は「痛い痛い」と軽く笑いながら吽形を受け止める。軽く笑ったからか、それとも吽形が来たからか薙が女性に抱いていたものが突然消え去った。何故?驚愕を隠しながら薙は考える。紅葉はその様子を見て、いまだに差し伸べられている女性の手を代わりに取った。それに驚いたのは何故か吽形だった。
「よろしくね!」
「……ええ、よろしく」
ギュッと握手をかわす二人。だがそこには異様な雰囲気、緊迫感が漂っていた。先程まで男性の手を取っていた雛丸もなにやら感じ取り、白桜の元へと撤退していた。そこにはぁとため息がした、かと思うとパン!と手を叩く音が響いた。何事かとその方向を見やるとあの男性がニッコリと笑いながらーそれでも何故か笑みに威圧があるー言った。男性の表情に阿形は呆れたと云うように息を吐き、笑っていた。
「なーに辛気くさい雰囲気になってるのよ。此処は仲良くするところでしょう?」
男性が尻尾を優雅に揺らしながら言う。
「余所者も街人も友人も、家に入った時から家族同然、仲良くしましょう!あたしは姫鞠って云うの。そこの、紅葉さん…だったかしら?の近くにいるのは八意思兼。八意って呼んであげて」
「……なんで姫鞠が説明してるの?」
「だって、あなたたちがこんなくらぁ~い空気になってるんだもの。あたしはイヤよこんなの。あ、八意ってね、今日はたまたま女体なのよ」
「だって相手側に女性いたし……って姫鞠!!少し黙って!!」
男性と女性の会話に雛丸がクスクスと笑い出した。暗い空気をどうにかしようとしているのは明らかで、雛丸が笑った事でその空気は変わった。雛丸に釣られて紅葉が腹を抱えて小刻みに震え出す。そしてとうとう二人が声をあげて笑い出した。薙が紅葉を止め、白桜が雛丸を宥めるが二人の楽しそうな笑い声が響く。その楽しそうな声に男性が笑い、吽形が口元に両手を当てて楽しそうに小さく微笑む。それに呆れたように女性と阿形が肩を竦めて小さく笑った。諦めたのか薙と白桜が顔を見合せた。そして笑った。暗かった空気、空間に楽しそうな笑いがしばらく響いた。
「あー、あー笑ったわーんじゃ、いい空気になったところで、あなたたちのお話聞きましょうか」
ね、と男性がニッコリと笑いながら言った。
姫鞠と名乗った男性は勿忘草色のセミロングで瞳は若草色。両耳に粒子のようなイヤリングをしている。顔の右側、体の右側を覆うルビーの鱗。服は右側のみ露出が多い青色の和服で着物の間からは鱗に覆われた右足と猫の刺青が入った左足が見えている。が、白い長めの足袋がほとんどそれらを覆っており、少ししか見えない。靴は室内なので不明だが恐らく下駄だろう。そして、猫耳と二つの猫尻尾。
八意思兼と呼ばれた女性ーたまたま女体だと云うが…ーは薄紫色のセミロングで左側に髪を一纏めにして結んでいる。瞳も同じく薄紫色。服は白い軍服で左肩から美しい模様があしらわれた着物を羽織っている。下は膝上のスカートで少し腹出し、ベルト部分からは左肩から羽織っている着物と同じ柄の布を垂らしている。靴は室内なので不明だが恐らく…ブーツだろう。
姫鞠の言葉に促されて紅葉達は奥の部屋に案内された。奥の部屋は先程までいた部屋と同じ和室でほぼ間取りも小物も同じだった。違うところと云えば、部屋の中央を陣取るように置かれた背の低いローテーブルくらいだろうか。そのテーブルの上には既に飲み物が置かれており、湯気が立っていたであろう湯呑みからはなにも立っていない。紅葉達は姫鞠に促されるまま壁側に座り、反対側、障子の方に双子達が座った。八意が膝立ちで冷めた湯呑みを配る。それを受け取り、雛丸が喉が渇いていたらしく、ゴクゴクと音を立てて飲み干した。それを優しい眼差しで眺めていた姫鞠の隣に座る阿形がぶっきらぼうに言う。
「で、話ってなんなわけ?」
「その前にありがとうでしょー?阿形。ねぇ、吽形?」
姫鞠がそう言いながら吽形を振り返ると八意の隣に座った彼がニッコリと笑った。その表情の意味を読み取ったのは阿形だけだったようで、彼は「言ったし」と不満げに答えた。紅葉が湯呑みを両手で持とうとしながら横目で薙に視線を送る。薙もわかっているらしく、湯呑みを手に取らず、彼らを見据えている。
「話を聞いてくれる事に感謝する。妾達は旅をしているんだ」
「旅?その理由は?」
八意がお茶を新たに注ぎながら速攻で聞く。考える隙を与えぬように、ハキハキ答えさせるように。どうやらこの国では旅人設定で行くらしい。紅葉や雛丸ではポロッと本当の理由、帝からの任を言ってしまいそうなので二人はお茶を飲む行為に集中する事にした。紅葉が伏せ目で白桜に合図を送る。
「奇病の治療法を探しておりまして。雛様は奇病をご覧になるのが初めてでして、ご迷惑をおかけしました」
白桜は何か聞かれる前に先手を打った。雛丸があんなに興奮していたのだ。見た事がない、と云う言い訳は既に効かないためだ。雛丸が何か反論しようとしたが、素直に黙った。そして「お代わりちょうだい」と要求した。すると姫鞠が立ち上がり、雛丸の方へと行きながら肩を竦めた。
「難しい話になりそうね。雛丸さん、あっちでお菓子食べない?」
「お菓子!?食べるぅ!」
「僕も僕も!」
「………紅葉…」
雛丸に聞いたのに紅葉も挙手した。食べたい食べたいと右手を挙げながら目をキラキラさせる紅葉。その様子に姫鞠はクスリと笑い、片目を閉じて「良いわよ」と答えた。それに紅葉が「やった!」と叫びながら立ち上がった。勢い良く立ち上がったためにテーブルに足をぶつけ、紅葉が痛みに軽くもがいていたが。隣の薙が呆れ顔で彼を見上げている。紅葉が苦笑する。
「ふふふ、紅葉さんって云うよりも紅葉ちゃんね。良いわよ、行きましょう…吽形もいらっしゃい」
「わーい!白桜、行ってくるね!」
「行ってらっしゃいませ」
雛丸が嬉しそうに立ち上がりながら白桜の両肩に手を置いて、楽しそうに言う。そして痛みに軽くもがいている紅葉の手を無理矢理引っ張り、先に別の部屋に消えて行った姫鞠を追って行った。別の部屋から紅葉と雛丸の「「美味しそーーー!!」」と云う楽しそうで、嬉しそう、興味津々な声が響いた。その叫び声に興味をそそられたのか、誘われていた吽形はゆっくりと立ち上がり阿形にアイコンタクトをした。阿形が頷いた。それを確認して彼は彼らを追って早足に別の部屋へと消えて行った。新たに注いだ暖かなお茶を喉へと流し込みながら八意が尋ねる。
「治療法は見つかった?」
「いや、今のところは一切。あそこまで重症なのは始めて見たな」
「そりゃあ、閉鎖的空間なんだからな」
ピンと張り詰めた糸がこの空間を支配する。別の部屋から聞こえる楽しそうな黄色い声だけがこの空間を遮断する。白桜がお茶を軽く飲み、言う。その瞳は薙と同じように相手を探っている。それは相手、余所者が何をしに来たか探るもの。大切な身内を守るために。
「単刀直入にお聞きします。あの化け物は奇病が深刻化したものですね?」
「「!?」」
白桜が勝負に出た。可能性として上がっていた唯一の説を目の前の二人に叩きつけたのだ。ピリピリとした緊迫空間。その空間にふっと小さな笑い声が漏れる。途端に緊迫していた空間がほぐれた。恐らくだが、阿形と八意のどちらかが『勇使』だと考えていた二人は一瞬面食らった。八意がお茶を一気に飲み干しながら、突きつけるように言い放つ。
「嗚呼、恐らくね……いや、確定だね」
「そうか……」
その事実が聞ければ良い。あとはその証拠だけ。この国の住人である彼らの証言は事実であろうが、念には念を入れた方が良い。その念が通じたのか、その仮説は事実だと知る。
なんかオネエさん書こうとしたらいつもウチのはこうなる…なぜぇ…




