第百三話 その二人、最強
萊光は目の前にいた化け物の心臓から武器を引っこ抜いた。武器と云うよりも自分の拳なのだが。少し不気味な色に染まった手を見ていると化け物は後方に倒れていった。服の袖で拳の血を拭いながら後方支援部隊からの情報に耳を傾ける。後方の敵は大方倒し終わったようで今は上空を飛んでいる化け物退治に精を出しているようだ。けれど、強化された化け物達に加え、光は失われているものの意志はしっかりと持った『勇使』の相方もいるのだ。仲間を倒す、もしくは殺すのだ。彼らに時間を食うのは仕方がない。情報によれば、音信不通の『勇使』の相方のうち、二割の片割れが気絶し、後方へ引っ張られていると云う。『隻眼の双璧』に関しては捕らえる方が難しいのでやむなく帝はあのような指示を出したが、もしかすると…
視界の端に自分に迫った化け物を捕らえ、萊光はストレートで拳を振った。その一撃にノックダウンされたようで化け物が仰向けに倒れていく。トドメと称して懐からナイフを取り出して首筋を掻き切った。事切れた化け物を見下ろし、口でナイフを持ちながら次の迫って来た化け物に狙いを定める。萊光の両手にはナックルが嵌められている。威力を高めるために毒が塗られており、ナイフにも毒が塗られているのでどっちにしろ打撲と毒でノックアウトである。まぁ強化された化け物達には毒は効いていないようだが。ナックルを嵌めた拳を化け物の狼のような顔に叩き込む。だが、その化け物はスライムだったようで狼の顔が歪み、萊光の拳を包み込んだ。スライムは驚く萊光の体をも取り込もうとしてくるが、彼は冷静に片手に口に持っていたナイフを持ち、切りかかった。沈み込んだ拳のほぼ右横を通って、顔が真っ二つに歪む。一旦後退し、態勢を立て直すようにステップを踏む。その時、その化け物が背後から弾け飛んだ。弾け飛んだ拍子にスライムが頬に飛んで来たがそれを払う。しかし、スライムなためかその体はすぐに再生を始めていた。萊光は誰が攻撃したのか、すぐに分かった。伊達に長年一緒にいるわけではない。
「俺達を舐めんじゃねぇぞ!」
「主殿、口が悪い」
トン、と萊光の隣に誰かがやって来た。帝だ。帝はただただ玉座にふんぞり返っているわけではなく、戦う。それは萊光との鍛練の成果とも言えるし、「多少の防衛は基本」だと言った帝自身でもある。ともあれ、帝も最終決戦に参戦中である。いつもならば荒げない口調の帝をそう嗜めると彼は口角を上げて、悪戯っ子のように笑った。
「もう良いだろう?本性出してくぞ。〈十二星座の落とし子〉」
そう言うとパチン、と指を鳴らした。そして片手を横に突き出した。とその片手を包むように小さな二重の円が現れた。中の小さな円と外の大きな円の間に文字が刻まれており、帝はその文字を見ずに指先で優しくなぞった。途端、その円は少し大きくなると帝の隣へ移動し、上から下へとまるでなにかを形作るかのようにゆっくりと上下した。その間にも帝はもう片方の手にも同じようなものを出現させ、指先でなぞった。帝の隣で形作られたのは、一人は地面に立つ少年ともう一人は足を組んで空中に浮いている少年だった。二人の顔はよく似ており、美少年である。仲良く片手を繋ぎ、その繋いだ手には剣と杖が複雑に絡み合った武器を手にしている。時折、絡み合った武器は分離しているようだったが、ほとんどは融合している。
「「《《主さまーなにかご用ー?》》」」
その双子は仲良くハモりながら帝を見上げる。ハモってはいるが、片方は高く、もう片方は低い声だ。帝はその問いに答えず、前方に固まりつつある化け物の群れを顎で示した。それに双子はなるほどと云うように頷いた。
「「《《なるほど~今回は大量だねー全部、ぶっ壊しても良いの?》》」」
「嗚呼、全部殺れ。間に合わなければ他も出す」
「「《《大丈夫!》》」」
双子は帝にそう笑いかけると、同時に大きく跳躍し、化け物の群れに突撃して行った。その表情が狂喜的に歪んでいたのを知っているのは恐らく帝と萊光ぐらいだろう。帝はもう片方の手に舞い降りた美しくも清らかな装飾に飾られた弓矢を手に取り、萊光に行くぞと声なき声で言う。
「……本当に主殿は」
「なんだ、今さらか。どれくらい一緒にいたと思ってる」
「ハハ、そうだな」
前方で暴れ回る能力での双子を眺めながら二人は武器を構えた。
「他は出さないのか?」
「〈双子座の犯罪〉が大丈夫っつってんだ。今んとこ大丈夫だろ。あいつら、横取りされるの嫌いなんだ。萊光、もう一個の団体殺るぞ。俺が〈射手座の探求者〉で援護する」
ギリリ、と弓を限界いっぱいに引き絞り、そこに矢を数本セットする帝。萊光はなにも言わずに肩を竦め、帝が言ってた化け物ご一行様を見つめた。その奥の方には紅がおり、三つに分離する鎌と能力を使いながら数名の『勇使』を翻弄している。早く、交戦した方が良いだろう。だが相手もそうそうバカではない。それを表すように狙っていたご一行様がこちらを向いた。途端、萊光は大きく跳躍した。それと同時に弓から凄まじい勢いで矢が放たれた。
「外すなよ」
「上等」
相手を労るような、おちょくるような声が響き渡った。
題名の通り!




