表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第八陣 最終決戦
106/135

第百話 その時、訪れたのは


四十八時間が過ぎた。緊迫感が支配する空間で紅葉は大鎌を両手で握り締めた。そうすれば、緊張が少しほぐれる気がした。紅葉の隣には互いに武器の刃物の調子を確認する薙と雛丸、そして二扇を閉じたり開いたりして調子を整える白桜がいた。その周りには『アルカイド』以外も含めた『勇使』達とその相方が大勢集まっていた。これだけの人数に紅葉は息が一瞬苦しくなる感覚を覚えたが、それでも希望が沸き上がっていた。勝てる、と。そして、これだけ集まった事と人数に圧倒されていた。


世界中の『勇使』達を集め、『アルカイド』の住人の移動が終わったのは今から数時間前だった。それをまるで察したかのように青空が広がっていた空は曇り始め、冷たい風が吹き荒れ始めたのだ。まさに、帝の云う通り。本当に彼が味方で良かった…と他の国や都の『勇使』達は心底思ったらしい。彼の作戦を聞いて。また帝の作戦として全員の耳にインカムが入っている。これはもともと保管されていたものを共通能力の〈複製〉で大量生産し、最終決戦に関わる全員に配ったのだ。帝や最前線からの情報をスムーズに伝達し、すれ違いを防ぐためである。


また帝の作戦として後方支援部隊が『勇使』を集結するにあたり作られた。この部隊は名前の通りに後方から支援をすることを目的とし、主に武器が遠距離系に限られている。中には『勇使』も相方も両者共に後方支援に回っている者もいるし、片割れだけが後方支援と云う者もいる。その中には『ヴェーシーラ国』で出会った引退『勇使』スディも入っている。引退した『勇使』の中でも強者の部類に入ったらしく、主であるムーナにお暇をいただいてやって来たと云う。緊急事態と云うことで断る方が可笑しいと妖艶に笑っていた。また紅葉達が移動した後にムーナとなにか進展があったらしく、雛丸にとても感謝していた。彼女に至っては「どう云うことだ」と困惑していたようだが。そんなスディは後方支援部隊の隊長に任命され、紅葉達の背中を守っている。他にも何人か友人が要請されてやって来たようだが紅葉と白桜は残念ながら出会うことが出来なかった。誰が来ているのか、後で会えるのが楽しみである。最終決戦に勝てたらの話だが。


「来たようだな」


帝の低い声に全員が一斉に顔を上げた。途端、紅葉の背筋にあの気配がした。だが、いつも以上の殺気と悪寒が紅葉を襲った。思わず両腕で自分の体を抱き締めた。先程よりも冷たい風が吹き荒れ、空は重々しげに雷を響かせる。そして、その時は来た。全員が見守る中、前方の空間が大きく歪んだ。その歪みは薙の固有能力に似ても似つかないものだった。薙は五芒星を使用するが目の前の敵は何も使用せずに移動が出来るようだった。その空間の歪みは時折火花を散らし、こちらを警戒させる。そうしてその歪みから姿を現したのは多くの国や都に出現している異変、化け物達だった。その姿は国や都で違うように十人十色の姿をしていた。歪みから出てくるのもあれば、空を飛びながら出現するものもおり、明らかに遠くから姿を現す化け物もいた。その多さに誰かが息を呑んだ。まるで化け物の絨毯だ。欲しくはないけど。その時、目の前の歪みから原因であり首謀者であり犯人であり元凶が姿を現した。


「……ホントに、紅葉にそっくり…」

「そりゃあ紅葉の未来なんだろ。外面は似てるだろーよ」


雛丸が少し驚いたように呟くと刀を担いだ薙がそう言った。当の本人である紅葉は二人よりも驚いていた。自分と()()だ。そりゃあ同じ人間なのだから当たり前なのだが、同じでも全くもって違った。原因である未来の紅葉、紅は紅葉と同じ髪色に瞳の色をしている。服装もほとんど同じで住人が紅葉と間違えてしまうのも納得してしまう。だが、違うのだ。紅は長髪をポニーテールにし、アクアマリンのネックレスをしている。上の狩衣の裾が少し長かったりと探せば探すほど、紅葉とは全くもって違う。アクアマリンは薙の物に似ているがその中心には目のようなひび割れがある。紅の背後には音信不通となった『勇使』の相方であろう数人が付き従っている。その瞳は『隻眼の双璧』のように虚ろで光など皆無であった。恐らく、彼らの相方もこの世にはもういないのだろう。紅が出てきた歪みはお役目ごめんと云うようにすぐに消えてしまった。


「久しぶりだね帝。君が此処まで考えるなんて、ちょっと想定外だったよ」


紅葉よりも少し低い声が帝にかけられる。関心しているようには聞こえず、逆におちょくっているように聞こえる。それを鼻で笑い飛ばしながら帝が言う。


「そのくらい予想つくだろ?心にもない言葉はやめろ。質問だが、良いか?」

「ん?なんだい?これから死ぬかもしれないってのに余裕なもんだね、帝」

「解決出来ていない謎があると気になる性分でな……『勇使』を殺し、その片割れを洗脳したな」


帝の言葉にピクリと紅葉達が反応した。『隻眼の双璧』に狙われ、同じ絶望を経験した兄弟達にとって何故彼らが嗚呼なったのか疑問だったのだ。ただ単にこの世からいなくなってしまった『勇使』を生き返らせると云うことを言われただけで瞳から光が失われるだろうか?絶望した直前に群青の言っていた悪魔の囁きをしたのならば別かもしれないが。もしかして、それが「生き返らせる」か?そう考えていると紅は背後の虚ろな瞳を持つ片割れ達を流し目で見ると笑って言った。


「嗚呼、殺したよ。大切な人を目の前で亡くした時、感情は消え去る。絶望に打ちひがれてね。そこに復讐相手がいたなんて忘れてしまうくらいのお願い事を教えただけ。そうしたらみんな、簡単にあの人は生き返る、そのためにはって張り切っちゃってさ!……二度と戻って来ないってのに、一縷の希望にすがる。洗脳は簡単だったよ。無意識の罪悪感に偽りを刷り込めば良いんだから」

「……お、主は…!」


クスクスと人を嘲笑うように紅が言う。その事に我慢が出来なかったようで薙は拳を握り締めていた。それを紅葉が「押さえて押さえて!」と促すと紅がその二人を見つけて射ぬかさんばかりの視線を向けた。その視線は刃物で心臓を貫くような鋭さがあった。つまり、紅は『勇使』を殺し、片割れが絶望したところを狙って蜘蛛の糸を垂らし、洗脳していたのだ。守れなかった罪悪感、失ってしまった絶望、その隙をタイミング良く漬け込んだのだ。どう唆したのかはわからない。けれど、仲間を殺した事に怒りを覚えないわけはなかった。


「何故?」

「何故って、同じ絶望を味わって欲しかったから」

「………は?」


悦に入ったような笑みで放たれた言葉に声を失った。「同じ絶望を味わって欲しかった」?そのためだけに?この世界に来て、『勇使』を殺して相方を洗脳したって云うのか?なにに絶望したかは知らない。けれど、そんな理由で?


「同じ絶望を味わって欲しいって……ボクたちを巻き込まないでよ!それは紅の、個人の勝手でしょ?!個人のその無責任な感情に何人もの人が……!」

「その通りだな。お主のそれは"絶望を与えたい"と云う目的の一つでしかねぇ。お主は、人の感情も命もなんだと思ってやがる!」


雛丸と薙が怒りに任せて叫ぶ。それは怒りを抑え、拳を握り締める他の『勇使』達も同様だった。帝は、まさかと思いながらその口を開いた。


「貴様の本当の目的は、なんだ。まさか…」


帝の問いかけに紅は、にっこりと()()()


さーて、ラスボス?とご対面です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ