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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第七陣 真実の華
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第九十九話 帝と云う男と萊光と云う部下


紅葉は隠れ家となっている建物の屋上の縁に座りながら、眼下で住人の移動と『勇使』を集めている薙と雛丸を見下ろしていた。ブラブラと足を空に投げ出し、一つミスれば死んじゃうなーなんて、呑気に考えていた。雛丸の手にはあの分厚い紙、『世界地図』が握られている。多くいる『勇使』の中から特上の支援効果を持つ固有能力によって帝の言う通り、「最高の道標」と化した『世界地図』。それを操り、なおかつ保持者である雛丸ともう数人の『勇使』と共に薙は旅をしていた時と同じように移動を繰り返している。一瞬にして歪む空間とその空間から出入りを繰り返す多くの人々。全員、その顔は緊張感に溢れている。本来ならば、紅葉と白桜も一緒に大がかりな移動に加わっているはずだが、ついさっきの騒動で住人達が紅葉を攻撃するとも限らないため、紅葉はお留守番である。そのお守りとして、なおかつ多くの共通能力を保持し緊急事態の際に伝達を図るために白桜もお留守番となっている。


前髪を冷たい風が乱していく。『アルカイド』は紅の襲撃により見るも無惨な姿になってしまった。だが、それでも今までのように力強さを感じるのはこの都の象徴でもある帝がいるからだろうか。


「紅葉」

「兄さん」


屋上に白桜がやって来た。白桜は紅葉の隣に優雅に腰かけると彼と同じように眼下を見下ろした。そこではまた新たな『勇使』がこの最終決戦の地に舞い降りていた。


「ねぇ兄さん、僕ね、『勇使』全員を集めるって聞いたとき、驚いたけどそれと同時に嬉しかったんだ」

「何故?」

「ふふ、だって、またみんなに会えるじゃん!」


そう、あの時、紅葉の心中は複雑に絡み合っていた。恐怖と嬉しさ、とでもいえば良いのだろうか。そんな感じだった。世界中の『勇使』を集めるのならば、友人達とまた会える。黙っていた事もある。けれど、それ以上にまた会えるのが嬉しかった。嬉しそうに笑う紅葉の頭を優しく白桜が撫でる。そして、こう呟いた。


「大丈夫。きっと勝てますよ。わたくしが保証致します」


嗚呼、本当に兄さんに()勝てない。本当は、決意を決めたその時から何処かで最悪な結末を考えていた。考えれば考えるほど、現実になりそうで怖かった。あの気配も、それを教えてくるようで怖かった。けれど、それを見抜いてくれた。安心させてくれた。それがなによりも嬉しかった。恐怖が晴れていった。紅葉はうん、と嬉しそうに笑った。白桜も安心したように微笑む。その時、背後から別の気配がした。その気配は足音もたてずに兄弟達に近付く。白桜がクスリと笑って振り返った。それと同時に紅葉も振り返る。


「なにかご用ですか?萊光様」


そこにいたのは萊光だった。萊光は白桜の問いに答えず、彼の反対側に座ると兄弟達と同じように眼下を見下ろした。白桜は聞いても無駄だと思ったのか軽く紅葉に向かって肩を竦めた。


「帝のそばにいなくて良いの?」

「主殿はすでに次の準備を始めている。邪魔になりそうかどうかくらい、長年ずっと一緒にいたからわかる」

「そっか」


その一言にどれほどの信頼が詰まっているか。聞かなくても容易に理解できた。眼下では次々と『勇使』が増えている。この調子でいけば帝が推測した四十八時間以内に多くの『勇使』が集まる事だろう。と、そこで紅葉は萊光は『勇使』の原型になった事に気がついた。紅葉が生まれた時には既に『勇使』制度は存在していた。だが、制度が確定していたにしても帝は見る限り若く、三十代にまではいっていない。多く見積もっても二十代後半だろう。ならば、どう云うことだ?


「……ねぇ萊光」

「なんだ?」

「帝も萊光も何歳なの?『勇使』制度が出来たのって僕と同じくらいの時でしょ?だったら最低でも三十はいってるじゃん。でも二人共、二十くらいじゃん。なんで?」

「……紅葉…」

「だって気になるじゃん!兄さんは気にならないの!?」


不貞腐れたように頬を膨らませる紅葉。そりゃあ白桜だって気になった事はあった。帝の情報は『勇使』以外にはあまり知られていない。兄弟達でも知っているのは帝が男と云うことと『勇使』の産みの親であると云うこと、四十八代目と云う数だけだった。あとは『勇使』が知っているがその全てを知っているわけではない。四十七代目以前は『勇使』制度ではなく、国や都の最高権力者から情報を得ていたが、『勇使』ができたことで情報は以前よりも多く入るようになり、異変に早く気づく切っ掛けにもなった。

萊光は一瞬キョトンとするとクスリと笑った。そして刺し違えがない範囲でその問いに答え始めた。


「そうなるのは当然だがな。主殿が即位したのは九年前、十七の時」

「………えーと、つまり、九+十七で……二十六?!」

「……お若いですね」


まさかの実年齢に兄弟達は驚きを隠せなかった。その反応に満足そうに笑いながら萊光は続ける。


「主殿が『勇使』を作ったのは五歳の頃だ。そんくらいの頃には『勇使』はいた」

「…え、えーと兄さんより三歳年上と考えると…兄さんが二歳の時にはもう政治っていうか世界に干渉してたの!?」

「凄まじい頭脳ですね…そんな幼い頃に『勇使』を生んだのですか。と云うと萊光様はその時から帝と一緒だったのですか?原型になったくらいですし」

「嗚呼。主殿とは誕生月が一ヶ月違うだけの所謂幼馴染だしな」

「……お尋ねしますが、もしかしてそのくらいの年齢から…?」


白桜がそう問うと萊光はそうだと言いたげに頷いた。それに兄弟達は「恐ろしや…」と天を仰いだ。駄目だ、この二人には勝てない。いや、勝とうとも思わない。即位する前からその頭角を表し、『勇使』の生みの親となったのだから、本当にこの二人が敵じゃなくてよかったと心の底から思った。


そうこうして、時は過ぎて行く…


帝は頭脳チートですよ…

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