第九十八話 集合
大広間に戻ると『勇使』達が武器を手にざわざわとしていた。その光景に紅葉は驚いたようで白桜の背に身を潜めた。が、扉付近に立っていた『勇使』の少女が「大丈夫ー」と言いながら大笑いしていた。さっ、と素早く紅葉が隠れたのが面白かったらしい。それに紅葉が不貞腐れてプクゥと両頬を膨らませた。白桜が苦笑しながら紅葉の頭を撫でた。
そうこうして、中に入ると多くの『勇使』達が安心したように微笑んでいた。帝も分かっていたと云うように口角を上げていた。
「さて、全員集まったな」
「帝、紅が再び襲撃する可能性があると聞いたが」
萊光がいつもの定位置である帝の傍らに侍ると、それが合図となって帝が薙の質問に答える。
「嗚呼。紅は"またね"と言っていた。それに使役していたのは異変の化け物がほとんど。その大半は『勇使』達が殲滅したが、また来ると云うような捨て台詞を残した事から戦力を補充し、再びこの地に戻ってくる可能性が高い」
「なるほど。そのために作戦をお考えに?」
白桜が帝の説明を聞いて問いかけると彼は神妙な面持ちで頷いた。ピリッとした緊迫と緊張が大広間、いや、そこにいる全ての人間に襲いかかる。まるで首筋に刃物を添えられているかのような錯覚だ。全員が全員、真剣な表情をしていた。だが帝はグニャリと表情を歪ませた。
「だが、異空間から来た侵入者だ。化け物を強化し、引き連れて来る可能性が高い。それにいまだに音信不通の『勇使』がいることからその相方を連れて来る可能性も考えられる。紅の能力は存在しない能力だろうしな、異空間からだし。そうなると、私達だけの戦力では完全に敗北する。対策をせずに、のうのうとあぐらを掻いていたらの話だがな」
そのもったいぶるような言い方に全員が首を傾げた。此処にいる全員、闘う意志がある。闘えないと云う輩は既に住人達と共にこの部屋から退出しているだろう。帝の話を聞いて紅葉達は周りの『勇使』達を見渡した。化け物を倒したと云うことで多少の掠り傷はあるものの、大きな怪我をしている者はいなかった。それほどまでに帝がいる『アルカイド』を拠点にする『勇使』達が強いと云うことだろう。だがそれでも紅が戦力を増やして来た場合、今まで勝利していた戦いは敗北に塗り替えられる。なにしろ相手は異空間からの来訪者だ。どんな手を持っていても可笑しくはない。それに能力の効果も紅葉と同じとは限らない。何せ、異空間、未来からやって来ているのだから。それに相方には『隻眼の双璧』たる者がいるのだ。音信不通になった『勇使』の相方の中に強者がいないとも限らない。
帝は肘置きに肘を置き、頬杖を軽く付く。
「なにか策があるの?」
雛丸が首を傾げながら聞くと帝はニヤリと笑い、背筋を伸ばした。
「その前に此処にいる者達全員に問う。敵を返り討ちに出来るか」
「できるに決まってるじゃないですか帝!」
「そうよ!此処にいるのが誰だと思ってるの?」
「できないならもう此処から逃げてるしぃー」
「頑張りますよー勝ちますから!」
「アンタに着いて行くって決めたからな!」
帝の問いに即答で雄叫びが飛ぶ。大広間に響き渡る雄叫びで足元から地響きがしているかのような音量、そして熱量。それに帝はさすがだと満足そうに笑った。その声とその意義、意志がなんとも頼もしい。萊光もその気だと云うように帝に向かって軽く頭を下げた。スッと帝が片手を挙げ、その声を静める。シーン、と少しずつ静まり返る空間に帝の低い声が響き渡る。
「ならば、問題ない。だが、相手は私達の上を行く。貴様らを信用していないわけではない。むしろ、誇らしい」
帝に誉められ、彼らは嬉しそうに頬を綻ばせた。一応主である帝に誉められ、そしてなにより絶対王にそう言われて喜ばない方が可笑しい。それは紅葉達もそうだった。紅葉と雛丸が照れたように軽く微笑み、薙が誇らしげに胸を張る。白桜も照れているらしく頬を軽く染めながら袖口で口元を隠している。よく見れば薙の頬も仄かにピンク色に染まっている。だが本題が此処からと云うことに全員、気がついていた。惚けていた空間が一変、キリッと真剣な空間に早変わりする。
「相手の上を行くためには、相手の裏を読まねばならない。そこでだ」
帝は両手を組み、それを口元に当てながら言う。それが最善だと云うように。
「住人を此処から別の場所へ移動させ、なおかつ世界中の『勇使』を集結させる」
『(ザワッ)』
それは驚きと実現出来るのかと云う困惑だった。『アルカイド』は地下に存在すする都だ。そこからどう移動させるのと云うのか?それと同時にどうやって『勇使』を呼び寄せると云うのだ?文明の発展により壁等で分断されている。裏のルートが存在らしいが今はそれを探している時間はない。そう考えるのは当然の事だと帝は頷き、そして薙を見つめた。彼女は驚いたように自分を指差し、自分の固有能力効果に気がついた。それに紅葉も気づいたらしく、大声で叫んだ。その声が大きかったらしく薙が片耳を一瞬塞いでいた。
「薙ちゃんの固有能力!!」
「そう」
ビシッと発言した紅葉を指差す帝。その瞳は関心したように、嬉しそうに微笑んでいた。帝は薙の固有能力を知って最重要任務を彼女達に託した。つまり、その固有能力を使用すれば、誰かを移動させる事も可能と云うことだ。全員の視線が紅葉達を一斉に見やる。一斉に見られたのでギョッと雛丸が自分ではないのに驚いていた。薙は自分自身でも驚きながら帝に問う。
「妾の能力を使うのは分かるが、移動場所は指定出来ないんだぞ?それをどうつk」
「気づいたか?薙。貴様の隣にいるだろう?それを支援出来る者が」
薙の言葉が途切れた。白桜の視線がまさかとその人物を示す。懐からあの、どちらが不思議なのか検討もつかない紙の束を取り出す。それに周りも以前の紅葉のように驚いていた。その行動で帝の云う人物だと勘違いしたようだったが、白桜の視線に気付き、考えを改めた。彼が視線を注ぐその先にいるのが誰なのか、紅葉も薙もよく知っている。それは
「雛様、ですか?」
「嗚呼、御名答。雛丸の情報収集能力は『勇使』の中でずば抜けている。知り合いの『勇使』からの情報により作成されたのが、白桜の持つ『世界地図』。行く先々ですぐに場所を特定出来たのは『世界地図』を作ったから。『世界地図』に共通能力でも固有能力でも適応するものをかければ、最高の道標になる」
「なぁーんだ。帝知ってたんだ」
「私は貴様が候補になった頃から気づいていたさ。いずれ『世界地図』が鍵となる、と」
ニィと勝利したように微笑む帝に雛丸は肩を竦めた。そうして白桜から紙の束、『世界地図』を受け取った。紅葉と白桜は軽く驚いていた。まさか自分達が仕える『勇使』がこれほどまでに優秀とは思わなかったからだ。もちろん、『勇使』の中でもずば抜けている存在である事は背中を、命を預ける関係になった時から知ってはいたが、此処までとは到底思えない。まぁそれは、その上を行く帝もだろうが。雛丸は白桜から受け取った『世界地図』を胸に抱き締める。帝は自分が思い付いた対策を話す。
「作戦はこうだ。まず最初に『世界地図』に共通及び固有能力を付与し、最高の道標とする。それを使い、薙には住人を全員移動させてもらう。その傍ら世界中に散らばる『勇使』達を集めてもらいたい。全員を集結させれば、もしこの策を読んでいた紅によって化け物が暴走する可能性もあるため、数人は残ってもらい、他は全員、『アルカイド』に集結してもらう。数年前までの個人情報から特に強かった引退者も緊急時と云うことで加わってもらおう。そして、最大限の攻撃で敵を迎え撃つ」
真剣な声が、視線が、息づかいが響き渡る。此処にいるのは、誰だ?それすらもわからないほどに、我らは落ちぶれてなどいない。
「今の考えに反論する者はいるか」
帝の問いかけに誰も声を発しず、腕を挙げないのは彼を信頼し、尊敬しているからだ。その事実に帝は我知らず微笑んだ。嗚呼、それでこそ。
「最終決戦は今からおよそ四十八時間後と推測。それまでに全ての準備を整え、追って範囲を知らせる。さあ、強者も弱者も見分けがつかない愚か者共に私達の力を見せつけてやろうじゃないか!」
『『『おぉーー!!!』』』
拳を高く高く突き上げると共に、地震のような雄叫びが響き渡った。その拳に秘められたのは、
帝はある意味チートですよ。頭の作りからして違うっていうか見通しているみたいな……多分、作ったキャラクターの中でもある意味チートキャラだと思っています。




