第九十四話 その者、絶対王、帝なり
「これで満足か」
青年が最初に発言をした男性を睨み付けるように言うと、他の人々は「やっちまったー」と反省の色を見せているのに対し、男性は手をワナワナとさせて納得が行っていない様子だった。
「っ、でも!」
「この能力は主殿の血筋が代々受け継ぐ正真正銘、真実と嘘を判断するもの。能力効果は違うものの、嘘発見器となっている固有能力保持者及び凄腕の裁判官等によって能力の信憑性は証明されている。書類もあるぞ?古いのから新しいのまで」
萊光が軽く手を振りながら言う。その間に能力は役目は終わったと言わんばかりに消滅していた。納得していない男性はキッと紅葉を睨み付け、刃物を突き刺すように指差しながら叫ぶ。
「しかし、そっくりではないですか!それがしょうk「容姿だけで犯人と断定するのか。そっくりと言うことは、別人の可能性もあるということだ。それとも貴様は、それほどまでに彼を犯人としたい理由でもあるのか。なんなら彼女達が巡った国や都の『勇使』全員に事情聴取しても良いが……その間に此処は本来の敵によって陥落するだろうな」……っ」
まるでムーナとスディが遭遇していた事件のようだった。彼らも容姿が合い行方不明となっていた『勇使』を犯人ではないかと疑っていたが、それは容疑者と云う仮だった。証拠は、捕らえなければ分からないと云うことで自ら動いていた。証拠を集めていた。真実を追い求めていた。疑いから導き出された答えは、残酷なまでに白紙になってしまったけれど。まぁ、まだ完全に外れたわけではないが。それでもすぐさま断罪するよりは断然マシだった。あそこは化け物の被害も多かったため、それに行方不明であったために出現したら捕縛と云う手段を取っていたが、化け物がなければ地道に調査し、真相を明らかにしていたであろうことは間違いなかった。
何も言えなくなった男性から視線を外さず、青年は続ける。その声は、酷く、低かった。
「貴様らがやっていたのは、ただの偽善だ。誰でも良いから目の前の奴を犯人として、元凶を排除しようとしたにすぎない。歪んだ正義感が何を生み出すのか…全ては分からない。だが、今、貴様らは罪もない者をよってたかって糾弾した。もし、誰かがそれを真実だと言い、罪を与えたところで復讐の輪廻が生まれるだけだ。『勇使』でさえ、気づいていたぞ。守られているからと云って傲慢にあぐらをかくな。次は、自分の番かもしれないのだと、考えろ!」
「「「「…………」」」」
青年は扉付近にいる『勇使』達に視線を移すと命じた。
「全ての住民をもう一つの大広間に移せ」
「「はい」」
『勇使』達が青年の命令に従い、両開きの扉を開き、もう一つの部屋へと促す。そうされる事実に人々は一瞬驚いていたようだったが、無理もない。帝が信頼する『勇使』を真実ではなく、目の前の光景だけで糾弾したのだ。怒るのは無理もないし、いてほしくないと云うのも分かる。青年は視線で「頭を冷やせ」と人々に言う。人々は項垂れるようにして頭を下げ、視界に入った被害者にも神妙な面持ちで頭を下げた。そこに先程までの怒りも憎悪も宿っていない。ただただ、謝罪の意志が宿っていた。そして此処にいるのは邪魔だろうと『勇使』に促されるままに移動していく。暫くしてバタンと扉が閉められ、移動が完了する。途端、紅葉はホッと安心したようで足に力が入らなくなった。白桜が「少しずつで良い」と笑うのでそれに甘えるように身を委ねた。薙と雛丸が紅葉を心配して彼に駆け寄る。
「大丈夫か紅葉」
「うん…みんながいたからね」
光を宿すその瞳に彼らもホッと一安心した。その光景を見ていた青年は微笑ましそうに笑うと紅葉達に向けて頭を下げた。
「私の都の者達が申し訳ないことをした。心より謝罪する」
「!み、帝、頭を上げてくれ!」
「そうだよ!誰にでも間違いはあるものじゃん!?……まぁ、許しはしないかもだけどねぇ」
「雛様」
突然の彼の行動に薙と雛丸が驚愕し、頭をあげるよう頼む。まさか青年が自ら頭を下げるとは思ってもみなかったのだ。まぁ彼の性格を考えれば、そのような行動に移したのは納得できた。傍らに侍っていた萊光も主と共に頭を下げていた。雛丸が妖艶に笑い、悪戯っ子のように笑うので白桜が軽く嗜めた。それに雛丸がペロッと舌を出した。青年はクスリと笑いながら頭を上げた。
「その心に感謝しよう。では、報告を聞かせてくれないか。そのあとに、こちらが分かっている事実を提示しよう」
青年が場の空気を変えるように手を叩きながら言った。青年のその顔は、まさにこの世界の絶対王に相応しい表情だった。
青年、帝は藍色と淡藤色のグラデーションのショートとセミロングの中間ら辺の長さで、左が黒、右が銀色のオッドアイ。首にシンプルなチョーカーをしている。青藍色の着物を着用し、袖口や裾には太陽と月が描かれている。両腕に黒のアームウォーマーをし、甲手のようになっている。素足を少し見せるようにして少しはみ出る黒のニーハイソックスと黒の編み込みブーツ。
薙が少しふらつきながらも懸命に立つ紅葉を振り返ると彼は大丈夫と笑った。その笑みに元気つけられるように薙は頷いた。
「『Realistic darkNess』っつうとこで『隻眼の双璧』と再び戦闘。帝の命により、殺られると考え、間一髪返り撃ちにした」
「『隻眼の双璧』は"力を得るため"って言ってボクたちを殺そうとしてきた。双璧の主である『勇使』はもう死んでる可能性が高いよ。双璧は"また会える"、とか言ってたから元凶でもある犯人に"生き返らせてあげる"とかなんとか言って、仕向けた可能性も高いよ」
「そこの神子から帝に伝えてくれと伝言を預かってる。"異変の真の原因は紅だ"」
穴に落ちる直前、紅葉達も耳にした名前らしき事実。『隻眼の双璧』をタブらかした犯人の可能性が断然高いが、真の原因と云うのがよく分からない。彼女達の報告に帝は玉座に身を委ねながら「そうか…やっぱりか」と改めて確認するかのように呟き、口元に組んだ両手を当てた。それに紅葉達を含めた『勇使』達が怪訝そうに首を傾げた。なんだ?彼は、何処まで見えている?
「先程、元凶は紅葉と容姿がそっくりと聞きましたが、どういうことでしょうか…?」
誰もなにも言わないので代表と云うように白桜が躊躇気味に問う。ちょうどその頃には紅葉の足に力が戻って来、しっかりと立てるようになっていた。そう、白桜の言う通り、それも気になっていた。紅葉と見間違うほどに似ていたと云うのだろうか。そうであるならば、紅葉を犯人と疑ってしまうのも無理はない…か?帝は委ねていた身を起き上がらせると真剣な面持ちで座る。そして、萊光に視線を移し、彼が頷いたのを見て、言った。
百行ってしまったぁあああ。此処まで読んでくださり感謝しかないです!あともう少しなのでお付き合いくだされば嬉しいです。




