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 「じゃあ行ってくるよ」

 「気をつけてね中安君」


 画架や小ぶりの椅子等振り回せそうな物を持ち、扉の前に数人が集まっている。

 結局待っても外部に連絡は取れず放送も無かったので、教師達の居るであろう職員室に何人かが助けを呼びに行く事となった。体を動かす事が得意な者達が集中しており、カースト上位陣にヤンキーポジメンバーもチラホラ、女子の陸上部員も二人ほど入っている。

 一応として、残ったここを取り仕切れるカースト上位と非常時用に力の強い者を数人残している。一見考えられている様に見えるが・・・。


 (うーん・・・せめてもうちょい厚着するとかさ)


 半袖のまま行くのかと。まぁ良いか。

 まだ暑いこの時期だ。考えがそこまで至らないのかもしれない。そんな思考もそこそこに、出発のために一時的にバリケードを退かす作業を手伝う。


 「先生達に必ずココの事を伝えるよ」

 「うん」

 「じゃあ南さん後は宜しくね」

 「任せて。そっちも頑張って」


 中安君らカースト上位の男子達は(主に女子達と)別れの言葉を交わし、残っている面子の期待と不安の眼差しを受けながら出発した。

 ゆっくりと扉を開け、回りを確認した後、音を立てない様に全員外に出た。うまく行く事を信じながら、同じく音を立てない様に扉を閉めバリケードを直していく。


 「ふぅ、後は待つだけだな」


 バリケードを直し終えた後、同じく横で作業していた久保が息を吐きながらボヤく様に話す。


 「・・・ふむ」


 そうだろうか。

 先程の休憩中、久保とはこれまでの事を話し合い考察してきた。武装したヤツ,ゾンビの様なヤツ,現状の情報から推測できる対策等々、久保はどうやらあの化け物たちへの考察を進めていた様だが。

 ・・・『世界の終了』ねぇ・・・あと『掃除機』だっけか・・・。

 思い返されるのはあの。耳などの器官で「聞こえる」ではなく、脳内で直接「響く」ようなあの異質な。そこから続いた事も含め、無関係ではないだろう。

 まぁ態々今この場で言うほどの意味はないが。


 「ちょっと!見てよコレ!!」


 座り込んでケータイを触っていた女子の一人が声上げた。

 その今出すべきではない声のボリュームに眉を顰めながらそちらを向くと他の奴らが群がっている。何やらただ事ではない様子だ。


 「マジかよ・・・」

 「ウソ・・・でしょ・・・」


 俺も訝しみながらもその群れに近づく。

 女子の手に乗せられた端末。その画面に視線は釘付けになった。否、正確にはその画面に映し出される動画に、である。

 それは恐らく個人の携帯で録画されたものだ。撮影が素人だとかそういう問題ではなく純粋に動きながら撮影していたのだろう。ブレッブレッの画面、ボヤケたピント、定まらない支点、そんな褒められたものではない動画。流石にマナーモードにしてるのか、音量はない。

 つまりその動く画のみの情報。しかしそれだけで十分だった。

 どこかの交差点。

 逃げる大勢の人達。

 追う異形のモノタチ。

 狩られる獲物。

 道路や建物等の壁には赤い染みが付いており、赤い塊のナニカが所々に置かれているのが見える。

 撮影主の必死にその場から逃げながらも出来る限り回りを撮ろうとしている動きがわかった。

 赤い液体をつけながら恐怖に顔を歪ませ走る人。走っているバイクや人を横から押し倒す様。私服、ビジネススーツ、オシャレな鞄、ベビーカー、ビジネスバック等、直前の行動がおよそ把握できる服装や持ち物。

 音等無くともその映像から悲鳴が、絶叫が、混乱が、手に取るように伝わってきた。


 「ふぅ・・・」


 未だ映像を見ながら言葉を失っている回りから一旦距離を取る。

 どうやら想定していた、かなりヤバイ方の状況らしい。

 公共機関へ連絡不能にはこれで合点がいった。

 と、


 ズドーーーーーーン!!!!!!


 爆発の様な、地震の様な、今まで聞いた事の無い爆音が聞こえた。学校等の近場ではなく、もっと遠くから聞こえてくる様な音。距離があり、多くの遮蔽物があるにも限らず遠くの此方にもハッキリ認識出来る様な音だ。地鳴りを伴ったソレに皆一時停止したかのように行動を止めた。


 「・・・な、何今の」

 「町の方から聞こえたような・・・」


 次第にざわつきを取り戻していく・・・否、それを通り越していく。


 「なんだよ!!本当に!!!」

 「もうイヤァ!!!」

 「落ち着」

 「なんなの!?一体何が起こってるの!?」

 「なぁ!!親に連絡が取れないんだけど!?!?」

 「クソッ!なんでこんな!」

 「意味分かんないよぉ!!!」


 声のボリュームは段々と上がっていく。

 不安の誤魔化しか・・・それにしても今はダメだ。喚き散らす者、頭を掻き回す者、周りに問いかける者、皆一応にして反応はそれぞれだが・・・ダメだ。


 「皆落ち着いて!」


 決して声が他より大きかった訳ではない。しかし自然と皆の耳に届いた。


 「皆落ち着いて」


 人差し指を立て口の前に持って行きながら再度言い聞かせる様発する。

 全員が言葉を発する事を止めた。

 南 美月

 全国模試は上位5位以内、バスケ部に所属し一年時からレギュラー且つ全国優勝へと導いた要、とびきりの容姿で地元にはファンクラブが存在し、アイドル事務所からのスカウトを断り続けているとか。

 要は、頭良くてスポーツ万能のどこぞの漫画に出てくる出来過ぎ美少女ちゃんである。

 彼女の認知度は、俺ですらフルネームを知っている事からも想像出来よう。


 「今は中安君達が先生達を探しに行ってくれてるから、静かに待とう?中安君達ならきっと大丈夫だよ」


 根拠の無い無責任な言葉。だがしかし今の状況に必要な言葉であった。

 言葉だけではない。他でもなく彼女が発する事にこそ意味がある。


 「それにあの動画みたいに大きな騒ぎがあったなら、警察とか絶体動いてるはずだから救助も直ぐだよ」


 彼女が喋るたびに周りの不安や焦りが沈殿していくようなそんな感覚だった。

 兎にも角にも彼女がいればココの制御は問題無さそうだ。


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