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 「ふわぁ」


 八時半開始の一限目の授業中、俺は眠気という強大な敵と壮絶な戦いを繰り広げていた。


 「ーであるからして~」

 「ZZZ」


 和平条約締結ソッコーでした。戦争イクナイ平和ダイジ。

 そんな感じで結果、授業終了のチャイムに俺は起こされ同時に疑問符を浮かべた。

 あれ?なんでみんなまだ席に座ってんの?


 【えー、惑星『地球』在住のニンゲン様方ぁ、大変残念な事ですがー、本日只今を持ちましてぇ、この世界の終了をお知らせいたします。破棄義務、委託処理等など…まぁ色々面倒くさいんで、テキトーに掃除機・・・出しときマ~ス】


 ポカンとした。


 「ぇなにえ?」

 「な、なんだ?」


 ザワザワ


 「・・・はぁ、ホラ静かにー!全く、誰だ授業中に放送室でいたz(ダーン!!」


 先生の言葉を遮る様に教室の扉が勢い開かれ、廊下からナニかが先生を横から押し倒した。

 ウチの教卓は横に広いタイプで先生の姿が丸っきり隠れてしまった。


 「「??」」


 俺も含め、皆早すぎてよく見えなかった。

 いや、違う。理解が追いついてないのだ。

 先程の悪戯放送はなんなのか?

 何故いきなり扉が開いたのか?

 何故先生は唐突に倒れたのか?

 何故・・黒板に(・・・)赤い模様が(・・・・・)突然現れたのか(・・・・・・・)


 「せ、センセ?」


 一番前の席のクラス委員長の女子が声をかける。同時に教卓の向こう側から赤い液体が広がって来るのが見えた。

 見て分かる液体の粘性。模様の赤も液体の赤も血液であることを本能的に悟ったと同時に、廊下から教室に入ってきたモノがあった。

 ざっと言うと上半身裸のムキムキ男。しかし黄緑色の肌が、首がなく胴から直接伸びている頭部が、だらし無く空き切っている口から垂れている黄色の唾液が、肩から足元まである長さの腕部が、縞々模様の目が、人間のそれでは無い事を示している。


 ・・・・・・・・・・・


 なんで、なんで皆何の反応もしないんだ?

 俺は疑問もそこそこに机の上の筆記入れを掴み、ポケットに入れつつ下半身に力を入れた。


 

 教室に入ってきたソレは始めにこちらに顔を向け、次にスタスタと教卓の方へと歩き、その長い腕で教卓の向こう側で何かを持ち上げた。

 槍だった。アニメや漫画、ゲームで見慣れ今一現実感に欠ける武器が目の前にあった。

 お察しというか、何というか、つい今さっきまで喋っていた先生だった物がその槍の先端に刺さっている。

 首から反対側の耳の当たりまで貫通しており、刺さる衝撃でアゴが外れたか砕けたか、歪な口の形、そこから舌は投げ出されており、両目の焦点は合っていない。


 ――――――!☓!ッ?「!:!◯?!!ッ!!★!!―――――――――


 そしてこの時初めてクラスが反応した。突発的で不可思議で意味不明な出来事の連続に、生々しい死体を目の前にしてようやく脳が活動を再開した。皆一斉に後ろ側の扉へと逃げる。

 俺もまた、悲鳴だか怒号だか分からないというか気にもならない物を背に反対側の扉に走る。

 俺の席は左右真ん中の後ろから二番目だった。

 扉までの距離は悪くないが、ベストとも言えない距離だった。それでも教室から二番目に出ることが出来たのはスタートダッシュの差であろう。因みに一番は一番席の近い奴だ。


 「なっなんだよありゃ!?!?」

 「知るかぁ!!」

 「先生が、頭っ、血、ってぇ!!!」


 皆混乱極まる中、それでも全力で走る。

 とにかく助けを呼ぶ。ほぼ全員が一致した考えを持っていた。

 階段を挟んだ隣のクラスに向かって走る。


 キャー!!!!


 「今度はなに!?」


 前方近くの目的のクラスから悲鳴が聞こえた。扉ごしの廊下にもハッキリ響き渡る、じゃれ合い等で出るものとは全く違うものだ。

 ドタバタと机や椅子をなぎ倒す様な音をたて、扉が開く。


 「イヤーーー!!助けてぇ!!」


 頭髪は薄く、骨と皮の痩せこけた躰、歯茎がむき出す程激しい顔面の欠損、ボロボロの小汚い服装。そんな今の時代誰もが共通のイメージを持っている『ゾンビ』。

 そんなゾンビに後ろから左手で無造作に胸を握り潰され、右手で髪を掴み引っ張られる様に抱きつかれ、耳に噛み付かれている女生徒が出てきた。

 無我夢中で出てきたのだろう、バランスを崩しゾンビに押される様に倒れた。すると、そのクラスから体のあちこちが欠損した人間がゾロゾロと出て来る。ゾンビだ。

 ゾンビたちは目の前で倒れ藻掻いている女生徒に一目散に群がった。

 大きめのエサを投げ込まれた水槽の中の魚の様な絵面だ。

 ギッ、ガッ、と恐らく女生徒が出したと思われる断末魔は直ぐに聞こえなくなる。

 俺は既に、後方へと引き返し階段方向へと走っていた。幾人か俺に釣られ走り出す。


 ギャーーーー!!!!!!キャーーーーーーー!!!!

 ◯◯☓☓△△―――!!!!@@@@――――――!!!


 階段目前で止まる。

 あちこちから、すぐ下の方からも聞こえてくる尋常ではない悲鳴の数々。

 数秒間全員が止まった。


 「うっ、上に行こう!」


 だれか男子がそう言った。

 今いるのは二階で、一階二階が職員室や主な教室、三階は特別教室階層となっていた。確かに聞こえた悲鳴の殆どはここか下の階からだった。

 呑気に悩んでいられる余裕等ない、階段を駆け上がりそこから二つ隣の美術室に入った。

 

 「マジでなんなんだよ!?」


 中の安全を確認してから、美術室に入るや否や頭を掻きむしりながら怒鳴り散らす男子がいた。

 たしかヤンキーポジの・・・なんとかって奴だったか。

 他にも取り乱しているのが多い。

 全力疾走もあるだろうが、何よりも精神的なものだろう。避難してきた半数以上がその場に座り込み息を整える。

 俺も心臓がさっきからバクバクだ。あの悲鳴からして学校の全体があんな状況だと思って良いだろう。


 「けっ警察呼ばなきゃ!」


 女子の一人が声を上げ携帯を取り出す。それにつられ皆次々と自分の携帯を持ち外部に連絡を取ろうと試みた。その連絡先の半分以上は110であった。

 ・・・いっぺんに掛けても意味無いだろ。

 俺も携帯を取り、119へと掛けてみる。


 「そ、そんな」

 「ウソ・・・繋がらない・・・?」

 「どうして!?」


 繋がらない。公共機関代表のこれらに電話が繋がらないという事自体一般的にまずあり得ない。


 「・・・」


 脇腹に手を当て息が整えながら、取り敢えず近くの椅子を持ち運ぶ事にした。


 「なにしてるんだ?」


 四つほど椅子と机を扉の前に持って来たところで、カースト上位の中安君が話しかけてきた。会話などあまりしたことはないが名前はしっかりと覚えている。


 「何って、見ての通りバリケードの用意だけど」

 「そ、そうか。手伝うよ」


 鍵閉めてハイ万全な訳がない。頭が混乱から抜けきっていない様だ。


 「取り敢えず机と椅子だな。じゃんじゃん持ってきてくれ」

 「作り方知ってるのか?」

 「いや?要は通れない様にと、押し退かされない様にすりゃいいんじゃねぇの?」


 納得したのか、ゆっくりできないと焦っているのか、早速椅子と机を持ってくるよう他の人にも頼んでいた。

 流石はカースト上位。あっという間に教室の全部の机や椅子が集まった。もし仮に俺なら頼み事どころか会話自体『は?』で返され終了。そのまま一人で作業していた事だろう。


 「あ、テープとかなかった?ヒモでも良いけど」


 しかしカースト上位たる所以だろうか。俺ですら軽く話しかけられる、というか話しかけたくなる雰囲気。ちょっとで良いから分けて欲しい。


 「あぁセロハンテープならあったはず」

 「ナイス!」


 セロハンはガムテープなどよりも用途によっては頑丈になる。

 それから扉の前で机を上下で重ね、椅子を絡ませ、テープで所々繋げ、積み重ねてバリケードが出来た。中安君らカースト上位者が仕切って行っていたから意外と時間はかからなかった。

 バリケードを目に暫定的な安全を感じたのか、座り込んで休憩を取りこれからの方針を話していた。未だ混乱真っ只中な様子だが、どうにかカースト上位を中心に固められているらしい。

 因みに俺は物色中である。


 「う~ん」


 まぁ美術室であって工作室とは別物で絵を描く道具くらいしかない。目についたのは折れて短くなったカッターや空のペットボトル、後はなんか金属製の細い棒くらいだった。


 「計測棒・・・だっけ」


 こう腕を伸ばして握ったやつを片目で見るアレ。細い上、用途を考えれば耐久性には期待できそうにない。束ねればマシになるだろうか。一応拝借。


 「まぁ絵の具の匂いするよねぇー」


 二八〇mLのペットボトルを開け匂いを嗅いでみると案の定な匂いがした。

 まぁこればっかりはしょうがない。元々そのためのものだろうし。

 無いよりマシな精神で、洗浄した後、水道水で満たしポッケに突っ込んでおいた。

 

 「じゃあもう少し様子を見てから、先生達のところへ向かうって事で」


 話が纏まったらしい。


 「湊」


 名前を呼ばれた。俺のことを名前で呼ぶ人間はこの学校で一人しかいない。


 「久保」


 メガネ男子が寄ってくる。久保太郎。名前で呼ばれる事を嫌っている奴で、休日一緒に遊んだりするわけではないが、偶に休み時間に2chやフニャフニャ動画等のネット関係の話題で盛り上がる関係だ。友達とまで言う程烏滸(おこ)がましくはないが、悪くない関係だと思っている。


 「少し休んで、その間に連絡が取れたり先生から放送がなければ、何人かで職員室に向かう話になってる」

 「そうか」

 「なんか大変な事になったな」


 見れば顔色がかなり悪い。髪が額に張り付いており、汗もそれなりに掻いた様子だった。

 まぁ当たり前か。


 「大丈夫か?」

 「ん?あぁ」

 「ホラ」


 久保がハンカチを取り出し俺に突き出して来た。


 「??」

 「汗。拭けよ」


 顔に触れてみると手がびちゃりと濡れた。思ったより汗を掻いていたらしい。


 「サンキュ」


 ハンカチを持ち歩かない派だったので有難く借りることにした。

 汗を拭きながら見回すと、座り込んで下を向いている者と尚も携帯で連絡を掛け続けている者がおり、ボソボソとした少量の会話しか聞こえてこない。二十人近くの人間が居るとはとても思えない。


 「ふぅ」


 俺も一息就こうと座り込むと久保も俺の隣に座り込んで来た。

 それから未だに外から聞こえる「騒ぎ」の音を聞きながら十数分程待ったが、現状に進展は特になかった。

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