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異世界で脇役生活  作者: ヨトリ
大きなお家
8/12

『セルマ』の日記と私の細やかなイメチェン(着替え)。

食堂で私は子供達とシスターと一緒にライジクのパイを食べる。


皆で作った手作りのパイ。

味は林檎パイそのものでとても美味しい。

サクサクのパイの生地と甘くてしっとりした餡子の組み合わせが絶妙だ。


ティーカップにを口元に運び喉を潤す。

甘味のある紅茶だ。どんな種類のものかはわからないけど。

温かくてホッと心が落ち着く。




食べ終わった後、子供達は各々どこかへ散らばって行った。

外へ遊びに出る子もいれば部屋に残って何かする子もいた。


皆自由だな。


リリナは遊ぶと張り切って子供達と一緒に外へ、ミルトスは勉強があるからと自室へ向かった。

私はシスターと調理部屋へ。

使った器材や食器の後片付けをする。




「ありがとう、手伝ってくれて。とても助かるわ。」


私が最後の食器を洗い終えてところで後ろからシスターが声をかけてきた。


「私はこれぐらいしかできることないし…。」


濡れた手をタオルで拭く。

指先を見つめながらさっきのパイのことを思い返した。


「あと、パイとても美味しかったです。」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。セラムは昔からライジクのパイが好物だものね。」


シスターは頬に手を当て昔のことを懐かしむように微笑んだ。


「いつだったか、一日中パイを食べたいってせがみ続けた時もあったわね。その年の歳のお誕生日はケーキではなくライジクのパイでお祝いしたわね。」


どんだけ好きなんだ、セルマは。

結構、食い意地張ってたんだな…。気持ちはわからなくもないけどさ。


「そ、そんなことも…ありましたね。」


あははと取り繕うように誤魔化し笑いをする。

俗っぽいところに私は少し親近感が湧いた。


「そうだ、折角だからあなたに渡したいものがあるの。ちょっと待っててね。」


思い出したようにシスターは言って調理部屋から出て行ってしまった。


ひとり残された「何だろう。」と私は首を傾げる。

取り合えず部屋を出て長廊下へ。


程なくしてシスターが何か抱えて戻ってきた。


「ワンピースよ。私のお古だけれど、まだ状態がいいからあなたにあげるわ。」


綺麗に畳まれた淡い水色のワンピースが一着。

シスターと衣服を見比べ私は戸惑う。


「でも…私にはその、勿体ないです。」


「いいのよ。私が着るより若いあなたの方が似合うわ。」


「シスターも十分若くて綺麗ですよ…?」


「ふふ、お世辞はいいわよ。それに、スカートの後ろの裾が少しだけ敗れているわ。」


「うっ」


冷や汗をかく。

そういえば、森の中で黒い獣から逃げる最中に引っかかれたんだっけ。

誰にも指摘されなかったからすっかり忘れていた。


それでも、衣服を受け取るのは気が引けた。


「でも、私は何も返せていない。貰ってばかりだ。だから…」


「私は見返りがほしいわけでわないのよ、セルマ。」


シスターが私の目の高さに合わせて背をやや屈める。

優しく諭すように私の顔を見た。


「折角の人の好意なのだから素直に貰っておきなさいな。お返しはいつだってできるのだから。今は気持ちだけで十分よ。」


「シスター…」


私は差し出された衣服をじっと見つめる。

一度、シスターを見てから決心して受け取った。


「ありがとうございあます。お返しはいづれ必ずします。」


「着替えはあなたが昔使っていた部屋でするといいわ。三階の右側の一番奥の部屋ね。」


ご丁寧に部屋の場所まで教えてもらった。

私としては都合よく手に入れられて助かった。

早速、衣服を持って部屋へ向かう。








ギシギシと鳴る木造の階段を登り三階へ。

部屋に辿り着くと、四角い扉には木のプレートが掛かっていた。

絵の具で絵と文字がかかれている。

明らかに小さな子供が描いたよな拙くで可愛らしい文字だ。


『セルマおねーちゃんの部屋』


文字の周りには黄色やピンクのお花が描かれている。


……誰が描いたのかわかったような気がする。


脳裏に浮かぶのは笑顔一杯のリリナ。

セルマはリリナとすごく仲が良かったのだろうか。

それともリリナが特別セルマに懐いていたとか。


ドアノブに手をかけて部屋の中へ入る。

こじんまりとした小部屋にはベッド、小さな机に椅子、タンス等必要最低限のものが揃っていた。

タンスの上には丸い形の置き鏡が一つ。掛かっていた布を取って覗き込んだ。


そこに映っていたのは私が初めて見る『セルマ』の姿。

顔立ちは欧米系の少女。白い肌は美白というには程遠くて、どちらかというと不健康そうな貧弱な印象を与える。

目元には薄く隈ができていて、死んだ魚のような目のような黒い瞳は不幸さが滲み出ている。

長い前髪を真ん中で二つに分け、垂れる長髪は少し痛んでいるもののストレートな黒髪だ。


美人…とまではいえないけれど、私よりも綺麗な顔立ちじゃないかな。多分。


セルマの顔を確認した後、私はベッドの上に衣服を置いて水色のワンピースに着替える。

相変わらずスカートの丈は膝下だが、デザインは清楚で気に入った。


「…よし。」とグレーのワンピースを畳んでから、窓の傍にある机に目を向ける。


折角、セルマの部屋へ来たのだから色々物色をしないとね。

昔使っていたと言っていたから、きっと何か残っているはず。

情報収集は大事大事っと。


机の上には何も置いていなかったので机の引き出しを開ける。

中には数冊の本が入っていた。

それぞれ手に取って表紙を見る。


どれも魔法書ばかり。

セルマは私と違って真面目だったのかな。


もう一度引き出しの中を見る。


「…ん?」


奥の方、机と引き出しの間に何か挟まっているのが見えた。

手を突っ込んで引っ張りだすと手の平サイズの小さなノートが一冊出てきた。


表紙には手書きの綺麗な文字で『日記』と記されている。


「…ビンゴ、かな。」


私はノートをペラペラめくり中を確認する。

ページそれぞれに日付とその下にその日の出来事が書き綴られている。


『春の月、10日。今日から私は日記を書こうと思う。』という文から日記が始まっていた。


『私には両親がいない。でも、孤児院の大きなお家でシスターやみんなと暮らしている。シスターは優しくて毎日が楽しい。』


…おっと、思っていたよりもシリアスな境遇だ。

大きなお家はやはり孤児院なのか。ということは、この家の子供達は皆身寄りのない子供ってことか。


続きは荷馬車に乗っている時にゆっくり読もう。


私は日記のノートをスカートのポケットにしまう。

ついでに魔法書も念の為に持っていく。

魔法ついてまだ知らないことが多いからね。


ふと机の横に手提げの布カバンを見つける。

使い古されてボロくなっているが、まだまだ使えそうだった。


「ちょうどいいところに。」


ニヤリと笑う。

ちょっとした悪役怪盗になった気分。


「本、借りるね。セルマ。」


私はカバンに魔法書を数冊詰め込んで部屋を出た。













下へ降りると外からベルの音が響いてきた。

何事かなと急いで玄関へ向かうとシスターが立っていた。


「あら、セルマ。ちょうどよかった。荷馬車が来たところみたいよ。」


私は頷き、シスターに促されるまま外へ出る。

家の前には一台の荷馬車が止まっていて、荷馬車の前に座っている男の周りに子供達が群がっていた。



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