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異世界で脇役生活  作者: ヨトリ
大きなお家
3/12

第一発見者の女の子は私のことを知っているようです。

「セルマおねーちゃん!この村に来てくれたんだ、嬉しい!」


女の子は何故か私のことをセルマと呼ぶ。


断じて言おう。

私はそんな欧米チックな名前ではない。

苗字も名前も漢字で書けるバリバリ日本人の名前だ。


けれど女の子の純粋無垢な笑みと眼差しに気後れして言い返すことはできなかった。


「う…うん。そうだね」


状況整理に追いつかない頭がヒートバックして真っ白になる。

その結果、なんて意味もない言葉を連ねることしかできなかった。


「おねーちゃんこれから私達の大きなお家に行くの?」


大きなお家?私達?


意味不明の単語に出くわしちょっと困惑する。


「シスターもおねーちゃんのこと心配してた。おねーちゃん最近元気ないって。

ねえ、これから会いに行こうよ!シスターも喜ぶよ!」


「う、うん…」


シスター?

教会にいる修道女のことかな?

勿論、そんな知り合いはいない。


混乱の最中にある私の横で女の子は食い付くかのようにせがんでくる。


「ほら見て!ライジクの実、リリナがたくさん摂ったの!

お家に持ち帰ってみんなでライジクのパイを作るからおねーちゃんも一緒にいこう!」


「え……えっと、それは……」


応えに詰まって私は考え込む。


知らない人について行ってはいけませんとよく言うが相手は小さな女の子だ。

女の子はどうやら私のことを知っているらしいし、シスターや大きなお家のことも気になる。


シスターということは大人の女性の可能性が高い。

大人の人ならこの場所のことをよく知っているに違いない。


女の子の言葉からシスターも私のことを知っているみたいだし、セルマのことや何か情報を聞き出せるかもしれない。


……兎に角落ち着け、私。

これまでの出来事を整理しよう。


私の外見とはひと欠片も一致しない身体と服装。

…多分、私は今誰かの身体の中にいるのかもしれない。


その誰かは恐らく『セルマ』という少女。


身体つきが私とあまり変わらないことから彼女も同じ十代半ばぐらいだろう。


そして森で見たあの縄。

首元と木に結び付けられた縄から恐らく彼女は…


自殺。


それで私と入れ替わった…?

それこそ摩訶不思議のファンタジーそのものじゃないか。


でもその可能性も考慮する必要がある。

後は……


口元に手を当てて更に考え込もうとしたその時、


「セルマおねーちゃん、早く行こうよ!」


元気いっぱいの女の子の声に遮られた。

考え事をしている間に女の子はもう数歩先を歩いていた。


「え…でも」


「早く行かないと置いて行っちゃうよ!」


頬膨らませて怒り顔を見せるが全然怖くない。

むしろ微笑ましくて可愛い。


まあ、置いて行かれるのは……ちょっと困る。

せっかくの情報源が逃げてしまうかもしれないから。


少し悩んでから私は「……わかったよ」と女の子に同意すると彼女はにっこりと嬉しそうに笑った。


何故か彼女の笑顔が見れて嬉しく感じた。





女の子と一緒に集落内を歩き回る。

辺り閑散としているが人が全くいないわけではない。

周囲に数人、高齢のひとが殆どだが。若くても50代ぐらいか。


皆簡素な衣服を身にまとっている。

どう見ても西洋ファンタジーにでてきそうな、いかにも村人って感じの服装だ。


時折、女の子に声をかけたりしている。


「リリナちゃんじゃないかい。シスターのお手伝いかい?えらいねえ」


今度は杖を突いた老婆が女の子に話しかけてきた。

女の子は私の横で嬉しそうに笑う。


「えへへ…帰ったらみんなでライジクのパイを作るの!」


「ライジクのパイかい。それは美味しそうなご馳走だねえ」


……知り合いなのかな?

小さな集落みたいだし全員が知り合いなのかもしれない。

日本にもそういう村があるからなあ。


女の子と老婆の会話から置いてきぼりの私は二人の楽しそうな様子を指咥えて見ているしかなかった。

いや、指は咥えていないけど。

コミュ力高いなこの女の子とだけ思っておこう。


女の子は老婆と一言二言話してから「じゃあね、お婆ちゃん!」と手を振る。

老婆も女の子に手を振りかえしてから杖をついて去って行った。


「おねーちゃん、お話終わったから行こう」


また嬉しそうに私の方を見る。


少しむず痒くなって私は女の子に手を差し伸ばした。


「その籠、持ってあげる。重たいでしょ」


本当はこういう時優しく言うべきかもしれないが、出てきた声音は低くて随分と暗いものだった。

愛想の欠片は一つもなくて無愛想の一言だ。

顔の筋肉が一つも動いていなかったので多分、表情も無表情なのだろう。


なんて酷い対応の仕方だ。


それでも女の子はそれまで以上に嬉しそうに笑った。


「うん!ありがとう、おねーちゃん!とても重かったの」


と私に果物が入った籠を手渡す。


……遠慮ないんかい! でもその分素直なんだろうな。


両手で受け取った途端、ズシッとした重さに支えきれず体が前に傾く。


…重っ!

思った以上に重い、手が千切れそう!

こんな重たいものをこの女の子は平気な顔で持っていたのか…!

恐るべし女の子。


「おねーちゃん、だいじょーぶ?やっぱり重たい?」


横で女の子が心配そうに私の顔を窺っている。


やっぱり素直で優しい子だな。

心配……させたくないな。


弱音を吐きたいところだったが私は敢えて無理矢理笑うことにした。

口の端を引っ張り上げれば多少笑い顔に見えるだろう。


ぎこちない満載の笑い顔になるが。


「大丈夫。重くはない。早く大きなお家へ行こう、リリナ」


女の子の言葉や彼女と集落の人達との会話から名前はもう把握済み。

目の前にいる女の子の名前はどうやらリリナというらしい。


リリナは私の言葉に「うん!」と元気よく頷いて歩き出した。

私は重い籠を必死に抱えながらリリナの後に続いた。











大きなお家は高い木々に囲まれた場所に建っていた。


名の通り大きな家だ。

今まで見てきた集落の家よりも一番高い。


窓の数を見るに三階はあるだろう。

また家の壁は汚れが目立つものの白い塗り壁でリッチさが目立つ。

屋根は集落の家と同じ茶色レンガだが。


玄関の扉まで階段があるのを見てちょっと気落ちしてしまう。

私の今の状態は疲れ果てた体で重い籠を両手で抱えているから。


「セルマおねーちゃん、早く入ろうよー」


リリナが元気に階段を駆け上がる。


4,5段はある石の階段かあ。

見るだけでも気が滅入る……。


一息ついてから私は気合を入れて階段を登った。


登りきるとリリナが待っていましたと言わんばかりに玄関の扉に両手を当てる。

扉は両開きでリリナは両方の扉を同時に力強く押し開けた。


「ただいまー、みんな!シスターはどこー!」


大きな声で叫ぶとリリナは部屋の奥へ走って行ってしまった。






「え……ちょ……待って」


勿論、私は籠を持ったまま置いてきぼり。

もう両手が限界なので籠を床に降ろした。


「はあ……疲れた」


本当に疲れた。





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