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異世界で脇役生活  作者: ヨトリ
森の中
2/12

楽しくない追いかけっこの後に女の子と遭遇。

只今、森の中で黒い獣から逃走中。

獣はというと…


私はちらりと背後に目を向ける。


お、追ってきてる…!!


物凄い勢いで、所謂全力疾走の状態。

獲物が逃げれば追いかけるのが獣の本能というものか。


私も負けてられないので…というか追いつかれたら生死にかかわるザ・エンドかもしれないので必死に手足を動かす。


走っている時に気付いたことだが、私はどうやら膝下ぐらいの裾の長いスカートを身に着けていた。

いや、半袖の上着と繋がっているからワンピースなのかな。

色はグレー。

焦げ茶の革靴を素足のまま穿いている。


全然、私の姿じゃないじゃん。


学校指定の青色セーラー服とはかけ離れた服装をしていた。

肌も若干白し。西洋欧米的なあの白さだ。


ただ、時折頬に掛かってくる邪魔な髪は黒色でほっとした。

私の髪より長くて腰ぐらいまでかかりそうだが。


…と自分語りしている場合じゃないか。

今、この状況をどうにかしないと。


獣から距離を離そうと必死こいているのに、逆に縮まっている気がする。

背後から迫っているのが気配でなんとなく把握できる。

空気がピリピリする。


全力で走っているため体が熱いし汗が流れて気持ち悪い。

膝元に掛かるスカートがとても邪魔だ。

あと長い髪の毛も邪魔。


暗い服装の黒髪女が全力で走っているなんて想像したら酷い絵面だな。


ふとそんな馬鹿なことを考えてしまった。

一瞬、生まれた油断と隙。

緊張していた手足が緩む。


近づく気配を感じるのもその間だけ放棄してしまった。

気付いた時には既に時遅し。



ガリっと鋭い爪がスカートを突き破った。


「な……!」


驚いて振り返る途中、体の動きに合わせてスカートが引っ張られる。

ビリッと音がして、引っかかった爪がそのまま裾まで降りてスカートを切り裂いた。


幸運なことに獣の爪は私の肌まで届かなかったようだ。

今のところ掠り傷ひとつもない。


だが、追いつかれてしまったことはどうしようもない事実だ。

一発目の攻撃を回避できただけで次の攻撃も回避できるとは限らない。


目の前の黒い獣を素早くチラ見する。

さっきの私の行動で体勢を崩したらしい。

向こうも一瞬の隙を見せる。

その隙を逃さずに私はまた地面を蹴って獣と距離を取った。


で、脇目も見ずに走った。


今度こそ追いつかれないようにと願いながら私は走る。

勿論、向こうも追いかけてきた。気配でわかる。


「影でもなんでもいいからあいつの動きを封じてよ…!」


昔読んでた小説か漫画で影を操る力をもつキャラがいたような気がする。

影で相手の手足を縛り動きを封じる魔法だった。


便利だな…今の私にも使えたら…


「せめて手足を封じて足止めでもしてくれたら…」


強く思いを込めて目を瞑る。

ふと迫る気配が止まった気がした。


だが振り返らない。油断もしない。

さっきのでもう懲り懲りだ。


そのまま足を止めずに走り続けて幾分か経った後、ようやく森の迷路から出ることができた。







森を抜けると野原を両脇に挟んで大きい道に出る。

道は真っ直ぐ向こうへ伸びていた。

空は森の中とは違い遮る木の葉もなく綺麗な青空がどこまでもに広がっている。


開放的な青空だな。

ずっと眺めていたい。


嵐の後の静けさを私は堪能する。


…けど、ちょっと太陽が眩しいかな


手で目元を遮りつつぼんやり空を見上げた。

辺りが蒸し暑く感じる。

さっきまで全力で走っていた所為もあるかもしれないけれど。


今着ている服が半袖で本当に良かった。

スカートの丈は長いがな。


教室にいた時の服装を思い出す。

長袖のセーラー服。そりゃそうだ、今は冬だもの。


…いや、待てよ。


この場所に来てからの違和感をもう一度振り返る。

一言で言うと…暑い。


森の中では蒸し暑い。

森から出ても上から降り注ぐ太陽光線が強くてと辺りの気温が高くてとても暑い。


「つまり今この場所は…夏……なのか?」


ちょっと意味がわからない。

混乱しそう…いや、もうしているか。


重い頭に手を当て溜め息をつく。


…駄目だ。

考え込むのも悩みこむのも苦手だから思考放棄しようかな。


ゆっくり頭を振ってさっきの考え事を後回しにする。

今はこの状況をどうにかしないと。


「…さて、どうしようかな」


腰に手を当て凸凹道の先を眺める。


向こうにあるのは…小さな家が立ち並ぶ集落。

勿論、見たこともないし知らない集落だ。


本格的に私は見知らぬ場所に来てしまったらしい。

教室からこんな訳のわからない場所へ。…夢かな?


夢ならさっさと覚めてほしいけどな。


目が覚めたら森の中で黒い獣に追っかけられて…逃れたと思ったら辺りは暑い炎天下。

色々諦めた薄笑いが零れる。


う―ん…家があるってことは人がいるかもしれないし行ってみた方がいいか。


それでも行くかどうか数分悩んでからようやく結論を出した。

ここで突っ立てても仕方ないので集落へ向かうことにした。


疲れ切った重い足を動かし大きな道を辿って行った。


私の体力はさっきの追いかけっこでほぼ消耗したらしい。

こんなしんどいことは二度とごめんだ。









集落へはそれ程遠くはなく十数分で着いた。

距離は森から2km以内ってところか。……多分。


集落の周りは木の棒の柵で囲まれている。

多分、ここまでが集落だという集落の範囲を示しているのかな。


入り口には門とかなくてすんなり入ることができた。

中は家が数件疎らに建っている。

茶色い屋根のレンガ造りの西洋風民家。


……明らか日本ではないよね?


いや、西洋風の家を建てて住む日本人もいるけどね?

こんな家は見たことないかな。

どちらかというと剣と魔法のファンタジーにでてくる村人が住んでいそうな簡素な家。

けれどどこか味のある家だ。


花をたくさん植えている家もあれば柵をこさえて鶏を飼っている家もある。

変な草を栽培している家もあった。


なんでだろう。ここにいると無意識にホッとする。


心が落ち着く。

実家に帰って来たような安心感がする。


集落の家を眺めていると視界の端に誰かいるのが見えた。


茶色い髪を左右に結んだ小さな女の子だ。

フリルが控えめの黄色いワンピースを着て両手にはたくさんの果物が入った大きな籠を抱えていた。


女の子は私を見るなり嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。


重そうな籠を持っていても体制を崩さずに走ってくる。


逞しすぎる女の子だな。

でも誰だ?

勿論、知り合いでもない。


私にとって彼女はこの場所で初めての第一発見者だし…。


どうすればいいのかわからず悩んでいる間に、女の子は私の元まで辿り着いた。

満面の笑みで困り顔の私を見上げる。




「セルマねーちゃん!」






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