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あおきそらしたがえしもの-B


オレの名前は九住辰也(くずみたつや)

今年で13になる中学生。

趣味はゲームとサーフィン(ネット)。特にゲームは体感型アクションゲーム『竜擊のエクス=ペリオーン』に嵌まってる。ゲームのランクはB+だけど、同ランク帯相手は意図してでない限り負ける気がしないくらいにはやり込んでると自負してる。




そんなオレなの、だが。



「――……え?……何コレ」


ビュービューと物凄い音を立てて頬を撫でる風を受けながら、オレは思わず、呟いた。


視界一杯に広がる森。都会のど真中、東京じゃあ中々味わえない光景だ。

が、そんな事に意識を向けてる場合ではない。その間にも、オレの身体は引力に引かれ地面に向け落下し続けるのだから。


そう、オレは何故か、落下していた。


「な、なっ、ななななんでオレ落ちてんのぉぅうわあああああぁっ!?」


ついさっきまでゲームセンターの筐体の中にいたのに、何故大空高くに居るのか。

そんな疑問も浮かびはしたが、何よりも先ず、オレは泣き叫んだ。


「いやだ~~っ!!落ちる落ちる落ちてるヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!!うわうわうわうわっ!!」


手に掴んでいた何かを抱き寄せ、丸くなりながら落下する。もちろんそんな事しても落下速度は変わらない。いやむしろ増した気がする。


「……はっ!そうかっ、モモンガみたいに身体を広げれば……って意味無ぁーいっ!!」


名案とばかりに身体を広げてみたものの、これまた落下する速度は代わらない。


「ぎゃあああああぁっ!!」


叫びながら落下する。

眼下に広がる森がどんどんと近づき、木々の一つ一つが大きく見えてきた。


「もーダメだぁぁっ!!うわあああああぁぁーーっっ!!」


十数年の短い人生だったがそれでも走馬灯は見れるようで、幼稚園から小学校卒業、そして中学校中学までの十数年が頭の中で映像として流れて行く。

嗚呼、なんて短いオレの人生。つかまだ中学は卒業してなかった。妄想が入り交じった走馬灯とか走馬灯って言えるのだろうか。



しかし、あわや地面に激突と言う瞬間、


「『浮遊(グラビィテ)』!!」


一瞬だけ、ふわり、と無重力空間のように少しだけ身体が浮かび上がった。


「あいだっ!?」

たった一瞬だけではあったものの落下速度はリセットされ、俺は数メートルの高さから落下する程度で済んだ。

尻を強打したもののそれ以外に大きなダメージは無い。


「あいたたた……くっそぉ、なんなんだよもー……漏れるかと思ったじゃ……ん?」


尻を擦りながら立ち上がった俺だったが、


「グルルルルゥ……」

大玉転がしで使う大玉と同じくらいデカい化け物の顔にドアップに迫られ、


「ぎぃやああああああぁぁっ!!」

落下時と同じくらいの絶叫してしまった。


「グルルガアアアアァァァッッ!!」

「ひぃいいいいぃぃっ!?」

絶叫を威嚇と捉えたのか化け物が怒りの形相で牙を向く。

目の前でそんな形相を見せられたオレはまたしても絶叫をあげる。


漏れる!――……じゃなくて、食われる!

そう思ったオレの目の前を、


「『疾駆稲妻ライトニングボルト』」

紫色の雷が走った。


「グガアアアァッッ!!」

雷がバチィッ!と、かなり痛そうな音を立てながら化け物に纏わりつく。

雷に纏わりつかれた化け物は見た目通りやっぱり痛そうに叫び、身体を抱くようにもがき暴れる。


「君!早く逃げるんだ!!」

「お、お姉さんだれ!?」

突然の事に驚いていたオレの目の前に降り立ったのは、金髪碧眼でえらく美人で長身のお姉さん。

うちの父ちゃんが170前半くらいだけどそれと同じか少し高いくらい。モデル体型と言うやつだろう。


「今はそんな問答を――ッ!!」

「えっ、ちょっ、お姉さん!?」

「ちぃッ!」

「どひゃぁっ!?」

美人のお姉さんに襟首を引っ張られ持ち上げられると、一瞬前までいた場所に大木かと見紛うほど巨大な足が轟音を立てて振り落とされた。

十メートルはあろうかというあの化け物が降り下ろした足が地面に叩きつけられたのだ。


「い、命綱無しでの空中バンジーが終わったと思いきや難易度ハードなジャックと豆の樹をリアル体験とかもうなんなんだよもー!!」

「君!あまり騒がないでくれ!オーガの気を引いてしまう!!」

「もがもがっ」

両手で口を押さえて頷く。


「陛下を援護せよ!!」

「「「応っ!!」」」

オレと美人なお姉さんに標的を合わしていた化け物に向け、鎧を纏った集団が投げ槍とか弓矢やら剣から斬撃を放つ。


何か不思議パワーでも働いているのか赤とか青とか様々な色のオーラを纏ったそれらは物理法則をかなり無視した動きで化け物に降り注ぐ。

致命傷を与えるには至らぬものの、かなり痛いらしく化け物はターゲットを騎士達へ向けて襲いかかった。


「すっげ……魔法か超能力かわからんが」

「あれは強化魔法で……ん?」

オレを抱えながら化け物との距離をとったお姉さんが答えてくれた。

すげぇ、薄々感づいてたけどオレは剣と魔法の異世界に来ちゃったのか。

……って何だよ異世界って!なんでゲーセンと異世界が繋がってんだよ!

せめて異世界なら異世界でやってたゲームと関連した世界へ飛ばせよ!

なんでファンタジーなんだよ!オレがやってたのリアルロボット物なんだけど!そこは銃と硝煙のロボット世界じゃないの!?


「君の持っているソレは……まさか、『竜召器ドラグライザー』!?」

一人ツッコミを頭の中でしているとオレを抱えたままのお姉さんが驚いたような声をあげた。

「は?どら……え?」

お姉さんの視線を辿ると……そう言えばいつの間にやら何か持ってたな……なんだこれ?先が尖って長くなった鉄のうちわ?いや、これ……剣か?

オレがいつの間にか持っていたのはやたら機械的でSFチックな剣だった。刃にあたる部分は鋭くなく、およそ切れ味と言うものが無さそうに見える。実際だき抱えたりしたけど手とか切れてないし、切れ味0だな。


「すまない。今は緊急事態だ!その『竜召器』を私に貸してくれ!」

「えっ、あっはい」

身に覚えのないアイテムに愛着と言ったものはこれとなく、別に困らないので柄の部分を向けて渡すと長身のお姉さんはありがとう、と言ってオレを降ろしてからその機械チックな剣を振り上げた。



「スゥゥゥ……『召喚ライザー』ァァッッ!!」

何かを呼び出すように叫んだお姉さんだったが、凛とした声は森に響くだけで特にこれといった事は起こらなかった。


10mはある化け物の気を引こうと攻め立てる騎士達と鬱陶しい蝿を払うように手を振るう化け物達の攻防が続くだけ。


「こ、れは、……『竜召器ドラグライザー』ではないのか!?いや、込められた魔力から間違いはないはずだ……」

なんか思ったのとは違ったらしい。お姉さんは焦った様子でぶつぶつと呟く。


「君!この『竜装機ドラグアーマー』はどう呼ぶんだ!?」

ドラ、なんだって?

と言うかさっき言ってたのと微妙に違う気がする。


「オレ、気がついたら空から落ちてて、これもいつの間にか持ってたんです」

「気がついてって……それじゃあ、これは君の『竜召器ドラグライザー』じゃないの?」

「多分。少なくともオレはこんなの知らないっす」


「……勝手に勘違いしたのは私だが……ぬか喜びとはまさに……っ」

「なんかその……すんません」

なんだか申し訳なくって頭を下げた。


「くそっ、化け物め!体格のわりに素早いぞ!」

「囲むんだ!四方より攻め立てろ!!」

騎士の人たちが声を張り上げながら戦っている。

懸命に戦ってはいるが戦力差は明らかでじり貧だ。

その様子を見たお姉さんは苦虫を噛んだような顔をし、オレに振り向いた。


「……君にお願い事が一つある。ここから西の方へ逃げろ。少し遠いが村があり、そこには我々の仲間の騎士達が居る。彼らにこの件を伝えて欲しい」

「えっ……お、お姉さんは?」

「私はこれでも騎士の端くれ、戦うさ」

ニコっ、と笑うお姉さんだがその表情は曇ったまま。

勝機があったとしても、辛く険しい戦いになると覚悟しているのだろう。


「……わ、わかった。気を付けてね!」

正直あんな化け物からは一秒でも離れたい。

だが踏み潰されそうになったのを助けて貰った恩がある。

お姉さんの提案はオレが逃げれてしかも恩も返せる方法だ。

やらない手はない。隠された力も先祖より続く強く気高い血統とかそんなもん無さそうなオレがいても役に立ったもんじゃないしな。オレができるのは、出来るだけ早く援軍を呼ぶことだけだ。


そうして直ぐ様逃げようと踵を返したオレを、


「――……えっ?」

巨駆の化け物、オーガが見下ろしていた。


何故、あの化け物がオレ達の背後から現れたのだ?

騎士達と戦っていた筈の、あの巨駆の化け物が、いつの間に?


否、怒号と剣戟は鳴り止んでいない。騎士達はいまだに化け物と死闘を繰り広げていた。

では、こいつはいったい?


「に、二体目?」

オレの呟きに答えるように、目の前の、オレを見下ろす化け物は、口元を、確かにニヤリと吊り上げて嗤った。


「――逃げ……っ!!」

いち早く異変に気づき振り返ったお姉さんが声を張り上げるが、間に合わない。


化け物は丸太をそれこそテニスラケットでも振るうように易々と振り回し、その丸太はオレめがけ――



「っ!?…………えっ?」


衝撃は、ミンチのように潰されると思っていた割に、とても軽い物だった。

そう、人に突き飛ばされるような、そんな程度の衝撃だった。


地面につんのめり、呆気に取られたオレのすぐ後ろを吹き飛んでいったのが金髪碧眼の、長身のお姉さんだと理解するのに数秒もいらなかった。


「お姉さんっ!?」

振り返ったオレの目に映ったのは吹き飛んだお姉さんの姿と、お姉さんにぶつかった衝撃で粉々になり宙を舞う丸太の破片。


「殿下あぁァァッッ!!」

鎧を纏った初老の男が叫ぶ。あのお姉さんの仲間なのだろう。

その悲痛な叫びは騎士達にも動揺を誘い、ギリギリで保たれていた均衡は脆くも崩れ去った。


「う、嘘だろ……?」

優に20mは吹っ飛び、仰向けに倒れ込んだお姉さんは地面に転がったままピクリとも動かない。


死んだのだろうか?いや、あんなもの食らって無事であるはずが――


「!?」

否、否だった。

僅かに胸が上下するのを俺の目は拾ってくれた。


「……良かったっ、まだ、まだ生きてるっ!」

駆け寄ってみると、最早死に体に近い。だが、まだ命の炎は灯っている。とても小さいが呼吸をしてくれていた。

丸太の直撃を受けて原形を保っているだけでも驚きだったが、この女性の生命力と言うか耐久力には脱帽だ。


「…………よかっ、たぁ……」

未だに安心を許さない状態だが、死んだと思っていただけに、一息つけるだけの余裕は生まれた。


そして、その僅かな余裕を埋めるように、ぶつけようのない怒りが芽生え始めた。


ふざけんなよ。


何でこんなわけわからない状況に追い込まれているんだ。

中学校の夏休みに毎日ゲーセン通いしていただけの一般人だぞオレ!

何でゲームしてたら空中落下してんのさ!助かったと思ったらこんなバカデカい化け物に殺されかけなくちゃならんのだ!!


何で目の前で女の人が殺されかけるシーンを見せつけられなきゃならんのよ!!!!


内に広がる怒りが、出口を求めて暴れだす。




そしてそれは唐突に、その怒りに呼び起こされたように現れた。


「(憎いか?)」


「え?」

気づけば周囲には何もなかった。森も、オーガも、死に体の女も。


いや、ただ一つ。俺を見下ろす存在がそこには在った。


「(憎いのなら、怒りを持って俺の名を呼べば良い)」


竜だ。四肢を持ち、蝙蝠の翼を広げた赤い鱗の、山のようにデカイ西洋竜が、俺を見下ろしていた。

デカイといってもあのオーガでさえ小さく見えるほどデカイ竜だ。

高層ビル一つと相対しているかのような感覚を覚えるほどに、その体は巨大であった。


「……お前は、一体」

「(さあ、呼べ。俺を、俺の名を。さすれば、貴様は――)」


ずっと握っていた剣が、僅かに震える。



瞼を閉じ、次に瞼を開くと山のような竜は消え去り、怒号と喧騒が、再び世界を包んでいた。



「……わけわかんないことの連続で、正直頭はもういっぱいいっぱいだ。だが、だがなぁっ!……ただ一つ、ただ一つだけわかることがある!!……やいデカ物テメェ!!オレらはお前らにキレてるって事だけは確かだっ!!」


お姉さんの身体を片手で抱き抱え、剣の切っ先を化け物へ向け啖呵を切る。


「グルルルアァァァッッ!!」

「何がグラァだ!……行くぞ―― 」


柄を強く握ると、剣の刀身に不自然に刻まれていた亀裂がスライドし、歪な剣の姿となった。

そしてその剣を空に掲げ、あらん限りの声で俺は叫ぶ――っ!!


「――『召喚ライザーアァァァッ!!』」


その呼び声は青き空に響き渡った。


陽光に照らされた剣の刀身から閃光の刃が現れ、次の瞬間、空と大地を繋ぐように光の柱が現れた。


「グガアアアァーーッッ!!」


オーガと呼ばれた化け物は両腕を振り上げ襲いかかって来る。

鈍重そうな見た目に似合わず、全速力のトラック程はありそうな速度だ。

たった数歩で眼前まで迫り、今まさにその丸太のような腕を降り下ろすオーガ。


それを遮るように、光の柱から、とてつもなく大きな鋼の腕が現れた。


「グギアアァァッ!!」

岩さえ容易に砕いてしまいそうな拳が鋼の腕とぶつかりひしゃげ、オーガは悲鳴をあげる。

そしてその悲鳴をあげる口を塞ぐように、鋼の拳が叩きつけられた。


轟音を立てて地面に倒れ込んだオーガ。


蒼天龍覇そうてんりゅうは――」


光の柱が消え、残ったのはオーガを見下ろすように腕を組んで佇む鋼の巨人。


「『竜擊の《ドラグストライク》エクス=ペリオーン』ッッ!!」


俺の呼び掛けに応えるように、その巨人の双眸に光が灯った。

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