第二十一話 ささやかな反論
「わ、私は反対ですわ!」
危険生物の討伐で金を稼ぐ――俺の発案に唯一反対したのは、この場で最も幼いセシリアだった。
誰かに反対されるだろうと予想していたが、それがセシリアなのは想定外だ。しかし俺以上に驚いていたのは、セシリアの身内であるフィオナだった。
「いきなりどうしたの。ひとまず試練の書の内容に従おうっていう話になっていたでしょう?」
「フィオナお嬢様の言うとおりです。第二級危険生物を十体討伐することが試練なら、それを無視することはできません」
セシリアは説得に流されることなく、キッとフィオナを見上げた。
「それはフィオナ姉様が同じ立場だから言えるんです!」
「私が……?」
「ええ! ことあるごとに屋敷を離れては、領民のためと言って危険なことばかりして! 確かにご立派ですけれど、屋敷に一人残される私の気持ちにもなってくださいまし!」
痛いところを突かれたのか、フィオナは気まずそうに押し黙ってしまった。
セシリアが指摘しているのは、ヒューレ村の六脚地竜討伐を一人でやろうとしていたようなことだろう。無茶をする奴だと思っていたが、どうやら常習犯だったらしい。
「し・か・も! 護衛も付けずにご自分だけで解決しようとすることが多いと聞いています。万が一のことがあったら、残された人々がどう思うか考えたことがありまして?」
「それは……その……」
もはや一方的なお説教モードだ。見ていて可哀想になってきたので助け舟を出すことにしよう。
……俺のこれからの話をしていたのに、俺が助け舟を出す側になるというのはよく分からない状況ではあるが。
「まぁまぁ。自信があって正義感も強いってことだろ。それに、俺は一人だけで討伐しようだなんて思ってないぞ。誰かと協力して戦ってもいいみたいだし、ちゃんと仲間を集めてから挑むつもりだ。それなら問題ないだろ?」
リスクが問題視されるのなら、リスクを低減する工夫をすればいい。自分で仲間を集めても良し、討伐に挑む人達の仲間に加わるも良し。安全に事を運べるなら文句の付け所はないはずだ。
「大丈夫……私、も……ついていく……から。離れたら……ダメ、だから」
マリアエレナも援護射撃をしてくれる。
前にフィオナから聞いた話だと、輝ける拘束の鎖の束縛がもつのは丸一日。呪いによる夜ごとの変身を常に防ぎたければ、光の鎖の腕輪を毎日付け直す必要がある。そういう意味では、確かにマリアエレナは俺から離れられないと言えるかもしれない。
しかし、セシリアはそれでも納得できていない様子だった。
「……問題はそれだけではないと言いますか……」
「あ、分かりました」
オリンピアがぽんと手を叩く。
「セシリア様はユーリ殿と離れるのが寂しいのですね」
「な……なぁー!?」
「危険さの問題だけでないのなら、残る問題はセシリア様の気持ちということになるのでは?」
「そんなわけないでしょう!」
顔を赤くして怒るセシリアに対し、オリンピアはあくまで飄々としている。この少女がフィオナ以外のことで心を乱すことはないのだろうか。
「寂しいというのは、私じゃなくてシルヴィのことです!」
「あっ――」
俺を含め、ここにいる全員が言葉を失ったように見えた。
「シルヴィは私達の国に来たばかりで、友達どころか知り合いすらほとんどいないと聞いています。それなのに、一番親しい人が遠くに行ってしまうなんて残酷だと思いませんか?」
「けどね、セシリア。そうしないとユーリは命が危なくなるかもしれないの。シルヴィだって悲しむでしょう?」
「でも……昨日二人で遊んだとき、シルヴィはユーリのことばかり話していたんです。あんなに嬉しそうだったのに……」
正直、俺自信も悩んでいた。
現在進行中の試練は、一万アルギスを自力で稼げ、十二種類の呪文を習得せよ、第二級危険生物を十体討伐せよ、の計三つ。このうち討伐を優先的にクリアしなければならない理由はない。討伐で報奨金が出ると分かったので、一万アルギスを稼ぐ試練と並行しようと思い付いただけだ。
つまり、危険生物の討伐を後回しにしても特に問題はないのである。
この街で呪文の習得に勤しみながら、街中でやれる仕事で一万アルギス稼ぐというのも十分に選択肢に入る。このやり方なら、シルヴィを長い間寂しくさせることもない。
「ユーリ殿。私、妥協案を思い付いたのですが」
オリンピアが小さく手を上げる。
「いや、別に発言の許可なんて求めなくても……」
「そうですか、では」
皆の注目を浴びながら、オリンピアはコホンと小さく咳払いをした。
「まずフィオナお嬢様もユーリ殿と行動を共にして頂きます」
「討伐について行くの?」
「はい。マリアエレナ様も合わせて三人がかりなら討伐の安全性も高まりますし、私の心労も減ります」
フィオナはまたも押し黙った。どうやらフィオナの単独行動はよほどの筋金入りらしい。俺が直接見たのはヒューレ村の一回だけだが。
「そして討伐対象はアスプロ市から近いものを優先します。街から離れる期間を短くすることでシルヴィ様と会う時間を確保するためです。皆様の留守中はセシリア様が遊び相手になって差し上げましょう」
オリンピアは事も無げに言っているが、これは妥協案なんてものじゃない。全員の意見が上手い具合に一つにまとめられている。
「ユーリ殿はこれでいかがですか?」
「俺はこれで……いや、これがいいと思う」
あえて断定的な表現に言い換える。他の三人も異を唱える様子はない。オリンピアの提案にすっかり納得させられたようだ。
これで決まりだ。俺の今後の方針はオリンピアの提案のとおりにいこう。
最初に狙う討伐対象――アスプロ市から最も近くに生息する、第二級危険生物。その名は――
この話をもって第一章終了です。
序章はヒューレ村での物語、第一章はアスプロ市での物語と続き、第二章は街の外へと舞台が広がります(予定)




