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道化の仇花  作者: noir99
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5. 阻止

 



 篠崎と田川は、車で相良の自宅の近くまで来ていた。

 時間は18時。陽も落ち、辺りを夕闇が包む。


 ここに来る途中で、タイヤに穴をあけるためのきりと窓ガラスを割るためのバールに、割る際の防音のためのガムテープを購入した。


 彼らの黒いバンは、まだ自宅横に止まっている。


「篠崎は、奴らが出てこないか見張れ。

 俺が車を潰す」


 田川が、バールを握りしめて、重さを確認している。

 人の通りが全くなくなったころ、田川が「行くぞ」と声をかけ、車から出ていく。


 なぜそんなに手慣れているのかわからなかったが、田川はあっという間にタイヤにいくつもの穴をあけてパンクさせた。

 プシューという音とともに、タイヤがしぼんでいく。


 窓ガラスにガムテープを張り付けていく。

 すべての窓に張り付けが済んだ瞬間、思い切りバールを窓にめり込ませる。

 鈍い音が響く。

 バールでガラスをこじ開けるように、割り崩していく。

 あっという間に、すべてのガラスが割られて、ガラス片が座席に飛び散り、見るも無残な姿になった。

 田川が、戻れという合図を篠崎に送った。


 車へ急いで戻り、遠くから相良の自宅を監視する。


「誰にも見られてねーから安心しろ」田川が、しょれっとした顔でのたまう。


 あまりの手際の良さに、半ばあきれながら篠崎は田川を見た。

 田川はあまり優等生ではなかったことを今更ながら思い出していた。

 なんで、ここまで性格正反対の田川と友人になったのか、篠崎は必死で思い出していたがもやがかかったように思い出せなかった。


 じっと息を殺して、奴らの出方をうかがう。

 19時すぎて、暗闇が当たりを包んだころに、相良ともう一人が部屋からでてきた。


「なんだよ! これ!!!」


 ひどい車の惨状を見て、もう一人が怒号をあげる。

 相良も車の周りを一周して、「ちきしょう! 誰だ!」と吐き捨てるように怒鳴っている。

「これじゃ使えねぇよ」ともう一人が、首を左右に振りながら、肩をすくめる。

 仲間の一人が、車に乗り込む。

 相良と何やら話をしているようだが、小声で聞こえない。

 しばらくして、車は発進して、闇に消えていった。


 相良は、落ちていた空き缶を蹴り飛ばして、自宅に入っていった。

 今日の犯行はあきらめたのだろうか。

 それから夜中の1時過ぎまで粘ってみたが、相良が出てくる様子はなかった。


 無事、今日の犯行は止められた。


 篠崎は、田川に礼を言い、実家まで送り届けようとしたが、田川は帰る素振りを見せなかった。

 まだ、篠崎が自殺をするかもしれないことを懸念しているようだった。

 20時の連絡が今日できてないので、必ず明日朝8時のメモでの連絡はしなくてはいけない。

 犯行を未然に防げたことを伝えたかった。



 仕方なく、田川を家に泊めることにした。

 田川が寝ている間に抜け出して、メモを置いてくればいい。


 自宅に帰りついたのは、夜中の2時を過ぎていた。

 田川をベッドに寝せて、篠崎はソファに横になる。

 ほんとは、今日奴を拉致監禁して、彼女に引き渡すはずだったのに。


 明日の朝、もう一度あの橋へ行くはずだったのに。

 決行が一日延びた。

 明日の夜決着をつける。

 ほんの数時間だけ睡眠をとった。


 朝方5時。田川が寝ていることを確認して、こっそりと家を出て、公園のベンチにメモを挟む。


「昨日は未然に防げた。今日夜決行する。通報はなし。計画は漏れてない。」


 と短い一文だけ書いたメモだ。


 また、自宅へこっそりと戻った。田川はまだ寝ているようだった。

 もう一度ソファに横になる。今度は、ぐっすりと眠った。

 緊張から少しの間だけ、解放されて、夜の決行に備えるために。



 篠崎は、気づいていなかったが、田川は起きていた。

 こっそりと篠崎が部屋を出たのも、そのあと戻ってきたことも何もかも知っていたが、あえて起きなかった。

 篠崎が、まだ何か隠していることをなんとなく察していた。

 もし自殺するにしても、まだ先のような気がして様子を見ることにしたのだった。


 案の定、篠崎は自分に何も告げることなく、真夜中に抜け出した。

 やっぱり何かあると田川は確信した。

 何かとてつもないことをしでかそうとしているような予感がして、胸騒ぎがしていた。

 何とかして止めないといけない。

 田川は、一睡もせずに篠崎を止めることだけを目をつぶって考え続けた。


 眠ろうにも眠れず、田川は起き上がった。

 篠崎は、ぐっすりと眠っているようである。

 篠崎のズボンのポケットから何か白い紙が出ているのが見えた。

 また遺書か何かだろうかと思いつつ、そっとポケットから抜き取り、中を開いてみてみる。


 それは、詳細に書かれた拉致監禁殺人計画書であった。

 田川の中で、腑に落ちたと同時に疑問が湧いてくる。誰の指示かと。


 明らかにこの計画書は、篠崎が書いたものではなく、別の誰かが立てた計画で、篠崎が拉致監禁のとこまでをやるよう指示されている。

 こんなことを企てるところをみると、この相良とかいう男の被害者かその家族か恋人か。


 犯罪の片棒を担がされて、篠崎は一体何を考えているのか。

 この計画をやり遂げた暁に、この世から旅立つつもりだろうか。


 田川は、計画書を片手に天井を仰ぎ見た。

 大きなため息をつく。


 爪が甘いよ、篠崎。

 田川は、安らかな表情で眠る篠崎を見ながらある決心をした。



 

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