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道化の仇花  作者: noir99
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1. 干からびる果実





    女性の名は、相川あいかわ しのぶといった。

 橋の上から移動して、海沿いの芝生の上に腰かけて、計画を話し合う。


 「あなたにお願いしたいのは、あの男を私が用意した場所に連れてきていただくことです。

  そこに監禁して、私がこの手で殺します」


 相川の声は女性にしては低く、その物言いは淡々としたものだった。

 

 「その男に、アンタに何されたんだ?」


 篠崎が素朴な疑問をぶつける。


 「強姦されました」


 あっさりと無表情を装っているようにみえたが、唇が言った後震え、大きく息を吸い込み、ゆっくりと自分を落ち着かせるように息を吐いてるのがわかった。

 この女性が、壊れてしまった理由が至極当然で、篠崎は自分の死の理由が頭をよぎり、その浅はかさを少し恥じた。


 「あの男は、遊び半分でした。一時の欲求を満たすために。誰でもよかったのです。

  私は、穴のあるおもちゃだったのです」


 「突然家に押し入られて、ナイフで脅されて、反撃もできず。

  殴られて、鼻血を出しながら、髪をつかまれて、ベッドに投げ倒されました」


 「ナイフの柄で、何度も頭を殴られて、意識が朦朧とする中、服を破られました」


 「下着をはぎとられて、足を開かされ」


 「もういい」


 篠崎は、さえぎった。

 相川の口から実況中継のように淡々と語られる実体験が生々しく、聞くに堪えなかった。

 

 「あの男は、捕まっていません。今日も私と同じような目に合う女性が出てくることでしょう。

  捕まって、服役したとしてもどうせ出てきて、また同じことを繰り返します。

  間違ったことかもしれませんが、私の命をかけてこの悪行を止めるのです。

  私は、生きながら四肢を引き裂かれました。ずっと殺され続けるような毎日を送っています。

  死にながらも生きているのです」


 「あの男にもこの苦痛と恐怖を味合わせてやりたい。

  生きながら長い時間をかけて、殺してやります。

  懇願を無視し、痛みを与え続けて、狂わせず、死なさず、生きることを放棄したくなるほどの苦痛を与えてやりたいのです」


 赤黒いどろりとした血の沼の中にたたずみ、静かに深い憎悪の念を募らせる彼女をそこに見た。

 その沼に篠崎自身の足も捕らわれ、ずぶずぶと沈み込んでいく感覚に襲われた。

 その感触は、生暖かく、彼女が流した血と涙の温度そのものだった。

 

 彼女は生きている。でも死んでいる。


 その男を殺したら、彼女は生き返るのだろうか。

 篠崎は、海を眺める彼女の横顔を眺めながら、ぼんやりと思った。


 生き返りはしない。乾き続けるだけだ。

 熟した実がむしりとられて、握りつぶされ、地面にたたきつけられて、ひからびていく。

 

 それでも、望むなら。

 枯れ果てる前に、一緒に叶えよう。

 叶えた先に何もなくとも。

 明日が来なくとも。


 


 

 

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