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変わった同居人

 むかしむかしの、そこまで昔でもないお話し。



 寮生の私には変わった同居人がいる。

 いや、見た目は普通。大いに普通。世間一般的。大多数の中の一人。平々凡々。

 彼は大学生だと言う。医学生。一年留年して、今年で2年生。目も髪も黒。肌は少し色白で、身長は私より頭ひとつ高い。

 容姿? 容姿は、まあ、あれよ。可もなく不可もなく……。声もどこかで聞いた気のする穏やかな声。

 そう、性格は温和でクラスの集合写真はだいたい、後ろか、隅の方。でも、仲間外れな訳じゃない。そこにいるのが当然なの。そう言った意味では、空気みたいね。

 そんな、正に「普通」を体現した様な、でも少し変わったその人。


「今日は良い天気だね。散歩にでも出かけよう」


 彼がカーテンを開けると、白ひとつない青と、柔らかな光に目がくらむ。

 戸締まりを確認する彼。テーブルの下に潜る私。


「出かけられないわ」

「気分転換に、ちょっとだけ」

「待っていなくてはいけないんだもの」

「そうか……君は待っているのか……」


 そうよ。だから、家を留守にしたら困るでしょう?

 玄関へ向かう彼の足音。追いかける私の影。


「じゃあ、今度ね、今度。必ずだよ」

「ええ。次の機会にしましょう」


 約束は出来ないけれど、いつかは、ここから出ないとね。

 彼は少し残念そうに笑って、私へ差し出していた手を引っ込めた。


「ちゃんと僕は帰ってくるから、静かに待っていてね」

「あんまり遅くなってはダメよ」


 夜道は危ないし。私、一人で待つのはやっぱり寂しいわ。

 いってらっしゃい、と手を振って。私はまた、いつもの位置に戻る。

 リビングの角。暗くなる部屋で、今日も帰りを待つ私。


 ああ。それにしても、私は誰を待っていたのだろう。


 私を恐れず共に過ごす彼が、時おり、恨めしく思えた。






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