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領主が鉄の女になるまで、そしてそれから

悪意に似た教師

 見事にやられた。流石に奴の手腕は伊達じゃない。舞い込んだ凶報にココス領次期領主レイン=ココスは笑うしかなかった。

 レインが先だって縁談を断った相手、リストリンの置き土産は毒に満ちた皮肉が効いている。リストリン=サイゼリアはこの国の王である。王が歩けばたなびくマントが風を作る。つまりは、そういうことだ。

 王に見初められた女を譲る。そんな表沙汰にできない理由で、デンターとの婚約が彼の実家スカイラーク家経由で破棄された。おそらく、スカイラークが動かずともココス内で同様の動きがあったろう。リストリンに貴様も同じ目に遭えと言外に伝えられた気分だった。

 「まずいな。このままでは、叔父の後見ごと家督を継いでしまう」

 女領主の場合、入り婿に様々な権力を与える例が多い。特に軍権や司法権等は顕著だ。レインはデンターに権利を委譲する名目で後見人の影響力を削ごうと画策していたのだが、描いた画が覆されてしまった。

 「他に婿を見繕うにしても、まずは今回の件がどう響くか」

 いずれリストリンが引きずり下ろされれば過去の話となり注目が逸れる。・・・・・・希望的観測だな。むしろ、レインはリストリンの弱点扱いで批判材料にされかねない。確かにその観点なら、宮中の噂通り私は悪女なんだろう。

 暇人共め。田舎の女貴族が王を誑したとして、男と違って立身なぞできないではないか。領主から愛妾に落ちて喜ぶだと?コケにするのもいい加減にしろ。

 レインが苛々と爪先で床を突いていたら、更なる凶報が届いた。

 「レイン様、デンター様が早馬でいらっしゃいました」

 「奴め、自ら弁明に来たか。律儀なのも場合によりけりだな」

 わざわざ火種を大きくされては困る。暢気に苦笑していられたのは僅かな間だった。結局、味方は自分だけなのだとレインは歪な笑みで後述する。

 「好きな女がいる。私、デンター=スカイラークは君、レイン=ココスとの婚約を反古にする」

 言葉もなかった。デンターの紡いだ台詞の意味が上手く飲み込めない。それでも少しずつ咀嚼するうちに、レインは体の内側の柔らかい部分を削られていく感覚に襲われる。それは絶望に似ていた。


 デンターお前もか。


 「成る程成る程。勉強になったよデンター、リストリン。お前達程の男ですら感情を飼い馴らせないか」

 信じていた愛していた。だからどうした。なんで責任を投げ出せるのだろう。男女の交わりよりも、結ばれたその後の期間の方が長いじゃない。馬鹿だよデンター。馬鹿。

 レインはデンターを想って泣き、デンターの愛に泣いた。ひた隠しにしていた女の部分が熱を持っていた。

 デンターとの婚約破棄が理由を含め燃料になり、レインは派手に醜聞の的にされた。もはや領外からの縁談は望むべくもなく、領内ではそれなりに利用価値の残った道具だ。

 直系のレインの支援で名分を得た仮の主流派は叩き潰され、次の擁立者が現れる。やがて横並びになるまでずっと。

 気付けば大義名分はレイン=ココスの手に戻っていた。それらはすべてレインの策の成果であった。婚約を破棄してからのレインは水面下で辣腕を見せた。合理性を看板に勢力を蓄え、感情で搦め捕る。もしくは、感情で切り込み合理性で囲うように。

 「愚鈍な親族は自らが優位だと喧伝して勢力を伸ばす気でいる。手を拱いていれば、それぞれの要が天に召されると言うのに」

 レイン以外の派閥の長は老齢だ。若くても40は下らない。子飼いも若いレイン傘下と組織の細胞からして違う。

 ただ一人を除いて。

 アンブレラ=ココス死去。病床から離れることなく死んだ父は、レインが政務に携わっている間に荼毘に付された。

 「お義母様、これからのココス領についてご相談があります」

 領主の執務室にサリー=ココスとレイン=ココスが入る。その後のサリーの行方はようとして知れない。

 さよなら、お父様。私を慈しんだ人。

 そして今日も夜が私を嘲笑う。



アンブレラ「事件はココスで起きているんじゃない現場で起きているんだ」

レイン「さよなら、お父様」

後で本文を修正する候補筆頭。話が繋がっている短編の粗筋は随時変えております。


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