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ネタ帳  作者: 加茂セイ
9/21

スーパーファイブ

【登場人物紹介】


レイカート(二〇)

冒険者チーム“スーパーファイブ”のリーダー。職種は軽戦士。装備品はアックス、ラウンドシールド、レザーアーマー。理屈っぽい性格で、一応リーダーとしての責任を感じている。


バリスタン(二〇)

職種は軽戦士。装備品はショートソード二刀流、レザーアーマー。皮肉屋でやる気なし。ギャンブル狂。


ソラテス(二〇)

職種は魔法使い(陣形魔法)。装備品はデコレートしたワンドにお洒落なローブ。多趣味。男友達よりも女友達の方が多い。


ボットン(二〇)

職種は重戦士。装備品は金メッキされた金属鎧一式、ロングソード、タワーシールド。自分の名前に劣等感を持っており、エリクサーと自称している。多くの部分でセンスがない。


ゴルディアス(二〇)

職種は魔法使い(暗黒魔法)。装備品はスタッフに暗黒のローブ。ひきこもり体質で、性格は暗い。世の中滅べばいいのにと思っている。

「はい、みんなに重大な報告事項があります。集まってください」


 あらたまった口調でそう告げたレイカートに対して、他の四人ははなはだ不熱心だった。


「あ~、聞いてる聞いてる。聞いてるからさ、そこでしゃべってどうぞ」


 ソファーの上で仰向けに寝そべりながら“月刊冒険王”を読んでいたバリスタンが、眠そうに欠伸あくびをした。


「今、無理。それにリーダーの重大な報告って、いっつもたいしたことないんだよね。経験上」


 こちらは出窓に腰をかけて編み物をしているソラテス。彼の多くの趣味のひとつだ。


「……魔王でも、攻めてきたの? やっと世界が滅ぶ?」

「いや、魔王なんていねーから。あと世界滅んだら嬉しいの、ゴルディ?」


 部屋の隅で膝を抱えて座っていたゴルディアスが、こくりと頷く。


「……」


 最後のひとりは反応すらしなかった。金メッキで覆われた悪趣味な鎧兜を一心不乱に磨いていたからである。


「ちょっと、ボンちゃん。聞いてる?」


 レイカートが問いかけると、その背中がぴくりと震えた。


「……じゃねぇ」

「え?」


 胡坐をかいたままくるりと反転すると、胸に手を当てる。 


「俺の名は、エリクサーだ!」

「いや君、本名ボットンでしょ。子どもの頃から知ってるし。つか、いつの間に偽名作ったのさ? それに偽名にしてもさ、エリクサーって不老不死のあれでしょ? メジャー過ぎてありえねぇよ。どういうセンスしてんの!」


 レイカートは大きなため息をつくと、部屋の中央にあったテーブルをばんばん叩いた。


「いいからみんな、とっとと集合。円卓会議するよ! チームの今後にかかわる一大事なんだからさ!」


 リーダーの強権により、四人の男たちはため息をついたり面倒くさそうに頭をかいたりしながら、のそのそと円卓に集まってきた。

 椅子の数はちょうど五つ。

 チームの重要案件について方針を定める時に……いや、普段の食事の時にも使われている、それは年季の入った丸テーブルだった。


「――金がないよ」


 開口一番、レイカートはそう言った。

 虚をつかれて皆が沈黙する中、レイカートは共益費袋きょうえきひぶくろをテーブルの上に投げ捨てた。

 着地した時の音で、銅貨一枚入っていないことが分かった。

 共益費とは家賃や食費といった生活費や依頼を受ける際の保証金といった活動費などをまとめたもので、これが尽きると五人は……端的にいえば、生きていくことができなくなる。


「そ、そんなの、今に始まったことじゃないじゃない」


 強引に鼻で笑い飛ばすソラテス。


「それにほら、前にも共益費がなくなったことあったけど、依頼料が支払われるまで、僕の節約料理で食いつないだじゃない? 食べられる草とか、煮てさ」


 レイカートは首を振った。


「今回は違う。前回共益費がなくなったのは、仕事の依頼を達成したあとだ。ギルド側の完了確認と魔石の評価作業で、二日間。それくらいだったらなんとかなった。でも今は――依頼すら受けていないじゃないか」

「……あ」

「これじゃ、保証金も払えないよ。依頼受けられないよ!」


 冒険者が冒険者ギルドで依頼を受ける時には、保証金をギルドに預ける必要がある。それは万が一冒険者が逃亡したり不正を働いた場合の、ギルド側の保証金だった。

 もちろん、依頼達成後に報酬とともに戻ってくるわけだが、最初にこの金が払えない場合、依頼を受けることすらできない。


「それに、さっき台所で米櫃こめびつ確認したけどさ、底が見えてたよ! 悲しい米櫃こめびつの底が! 誰だよ、昨日ご飯三杯も食ったやつは!」

「ボンちゃんだな」

「ボンちゃんだね」

「ボン――」

「エリクサーだ!」


 むきになって否定するボットンだったが、ご飯を食べ過ぎたことに対して、多少の後ろめたさを感じているようだ。


「世界が滅びるのはいいけれど、餓死とかは勘弁して欲しい。草とかまずいし……」


 かなり身勝手なことをぶつぶつ呟いているゴルディアス。


「で、どーすんだよ、リーダ。決めてくれよ」


 テーブルに突っ伏して顎をつきながら、バリスタンが聞く。


「……」


 レイカートは両手を組み、慈悲深い微笑みを作った。

 完全に他人任せの態度と主体性のなさに、内心彼は、ぶちギレしていた。

 毎回こいつらはそうだ。

 すべての責任をリーダーである自分に押しつけて、何も行動しようとしない。

 考えようともしない。

 田舎村を飛び出して、はや数年。みんな二十歳になったというのに、ごろごろだらだらと部屋の中に引きこもって、好き勝手なことばかりしている。

 俺だって趣味で集めているモンスターフィギアを、もっと増やしたいのに!

 しかし、自分までこいつらに倣ってしまえば全滅してしまう。

 全員が、滅びてしまうだろう。

 レイカートはごほん咳払いをした。


「え~、まずは、みんなが今持っているお金を没収します」


 四人は沈黙し、すっぱいものでも口に含んだかのような顔になった。


「ちょ、リーダー、ずりぃ!」

「何がだい、バリィ君?」

「だって昨日、モンスターフィギア買ったじゃねーか!」


 バリスタンがびっと指差した壁際の戸棚には、さんぜんと輝くリザードマンの人形があった。槍を構えながら鋭い睨みをきかせている。

 レイカートはてへぺろした。


「いやぁ、昨日は、共益費袋きょうえきひぶくろのこと、まるで気づいてなかったんだよね。今朝初めて気づいてさ。うわ、もうやっべって真っ青になったわけ。だから俺が買ったフィギアは、不可抗力。セーフ」


 自分の理屈に頷きながら、レイカートは財布を取り出した。紐ひもを解くと中から数枚の銅貨が出てくる。


「えーと、二百三十エンですね」


 玉ねぎを四つくらい買える金額だ。

 これでは子どもの小遣いである。


「ほら、みんなも早く出す! 俺たちの命がかかってるんだから。ほら、はよう」


 舌打ちをしたりうな垂れたりしながら、他の四人も財布を出してきた。ここにいたっては互いの監視の目が厳しく、中から金を抜き取るような真似はできない。

 結果、集まった金額は……。


「いやぁ、みんなすまなかったねぇ。これも我々運命共同体が、生きていくためってことで。いやぁよかったよかった。こうして集まったお金、四百十エンで、まずは美味しい飯でも――」


 レイカートはぶちキレた。


「――食えねぇよ! なんっじゃこら! 牛丼一杯しか食えねぇじゃねぇか! みんななんでそんな金ないの? つか、俺が一番出してるってなに? おかしくね?」


 レイカートのヒアリングによると、バリスタンはギャンブルで素寒貧すかんぴん。ソラテスは最近王都で流行っているスイーツの店めぐりで散財。ゴルディアスは暗黒魔術サークルの仲間たちと共同出版をしたのだという。


「数か月分の小遣いを全部使った。タイトルは、“暗黒魔王はすごい!”。名著めいちょだよ」


 いそいそと嬉しそうに薄い本を持ってくる。

 それはかなり手の込んだ多色釣りの版画本だった。

 ここ数日散々自慢されたので、他の面々は食傷気味だった。はっきりいって興味はないし、まったくすごそうに感じられないタイトルだと思った。

 しかし、珍しく嬉しそうにしているゴルディを、絶望のどん底に突き落とすことができなかったのだ。


「ふっ」


 エリクサーことボットンは、にやりと笑った。


「みんな、自分の趣味ばかりだな。俺はひと味違うぜ。冒険者の魂――つまり、装備品に金を使った」


 そう言って、黄金色に輝く兜をテーブルの上に置く。

 しばらく観察してから、レイカートは首を傾げた。


「今までと同じ兜じゃん」

「これだから素人は困る。ここを見ろ」


 ボットンが指差した部分には、何もなかった。


「ひと月前、ウェアウルフとの戦闘で剥がれたメッキを、ようやく修復することが――」

「見栄えかよ!」


 レイカートの突っ込みに、他の皆も追従した。


「前々から思ってたけどさ。金ぴかの防具ってどーいうわけ? 趣味わるすぎ」


 ソラテスの率直なもの言いに、バリスタンも頷く。


「実用的でもないしな。隣で戦ってると、光の反射でまぶしい時がある」


 ゴルディアスが意見をまとめた。


「成金趣味。実用性なし。金の無駄遣い。傍にいると恥ずかしい。死んで」

「お、お前ら……」


 各自が貶し合い、いがみ合い、疲れきったところで、全員が気づいた。

 もう昼飯の時間だということを。

 レイカートがソラテスに聞いた。


「ソラちゃんさ、四百十エンで何日しのげる?」


 ソラテスは多趣味である。それも、どちらかといえば女子系だ。

 自作で可愛らしい服を作ったり、スイーツの食べ歩きをしたり、アクセサリーを集めたり、料理を作ったり……。

 それだけならまだしも、最近では人気のある冒険者の追っかけまでしているらしい。

 自分が冒険者であるにも関わらず、だ。


「米は高いから、小麦で堅パンかな。あとは草スープ。夜になったらみんなで探すしかない。味付けは塩だけ。それだけやっても、三日が限度」


 重い重いため息が漏れた。


「バイトする?」


 珍しく意見を出してきたのは、ゴルディアスだ。

 単発で入れやすい土方や荷物運びなどの力仕事ならば、一日五千エンは稼げるだろう。五人全員で頑張れば、普通に生活することだってできる。

 しかし、なけなしのプライドが、彼らにその決断をさせることをためらわせた。

 本業では食っていけない。

 バイトならば食いつないでいける。

 それでは、王都にまで来て冒険者になった意味がないのだ。


「みんな、思い出すんだ!」


 レイカートが立ち上がり、力強く演説した。


「一攫千金を目指して村を飛び出した過去の自分たちを。王都にたどり着き、何とか食いつないできた数年間の実績を。ここでバイトなんかに逃げてしまっては、冒険者としての自分を裏切ることになる。俺たちは目的を見失ってはいけないんじゃないのか。確かに今は苦しい。最大の危機といってもいいかもしれない。でもきっと、ここが踏ん張りどころなんだ。ここを頑張って乗り切れば、いずれあの頃は苦しかったなと、みんなで笑える日が……」

「力仕事、つらいしね」


 ぼそりと口にするソラテス。

 数瞬の間を置いて、レイカートが肩を落とし、椅子に座った。 


「……言うなよ。身も蓋ふたもない」


 魔物たちと戦ったりする冒険者だが、四六時中力仕事をしているわけではない。実際は大部分が移動や待機の時間である。

 単純に報酬と労働力で比較すると、かなり楽な部類の仕事に入るのだ。


「じゃあ、仕方ねぇな」

「うん、仕方がない」

「選択の余地なしだ」

「無理」


 バリスタン、ソラテス、ボットン、ゴルディアスの四人が、すっと立ち上がった。


「……え?」


 呆気にとられてるのは、レイカートのみである。


「み、みんな、どこ行くの?」


 四人が向かった先は、部屋の壁際。いくつものモンスターフィギアが飾られている、レイカート専用の戸棚の前だった。


「へぇ、けっこうディテール凝ってるんだね。意外と高く売れるかも」


 ソラテスが手を伸ばして、リザードマンの胴体部分をつかむ。


「ほ~、躍動感があっていいな。こいつは高く売れそうだ」


 バリスタンがミノタウロスのフィギアをつかむ。頭部が牛、身体が人間で、グレートアックスを構えている。


「いや、これが一番高いんじゃないのか。馬とセットだしな」


 ボットンが選んだのはデュラハンだ。馬の背に乗ったごつい鎧姿の騎士で、兜を被った頭を手に抱えている。


「僕と同じ暗黒魔法の使い手。波打つ黒のローブの表現がすばらしい。これは高い」


 ゴルディアスは骸骨の姿をしたリッチに目をつけた。


「え? ちょ――みんな、なにやってんの?」


 不吉な予感にレイカートがうろたえる。


「それはここ数年間の、俺の小遣いの結晶だよ? 命だよ?」

「だって、小遣いを出せっていったのはリーダーじゃん」


 ソラテスの指摘にレイカートは一瞬言葉に詰まる。

 しかし真顔で、真面目な声で止めようとした。


「いや、だめだって。それ洒落になんないから。だめだめだめ……」


 しかし一対四である。

 空気というか、運命の流れを変えることはできなかった。

 無言のまま、リュックの中にフィギアを詰め込む四人。


「ちょっと、お願いやめて。本当にごめんなさい。そうだ、みんなでバイトしようよ。俺、割のいいバイト探すからさ。一所懸命、探すからさ。ね? そうしよ?」


 ソラテスがレイカートの肩に手を置いた。


「リーダーの言う通りだと思うよ。僕たちは、冒険者となった自分を裏切っちゃいけないんだ」

「楽したいだけでしょ!」


 バリスタンが拳を突き出して、親指を立てる。


「心配すんな。依頼料が入ってきたら真っ先に買い戻せばいい。一時のお別れさ」

「あんたそう言って、いつもギャンブル負けてるじゃない。質屋の親父も呆れてたよ!」


 ボットンがリュックを担いだ。


「質屋の帰りに冒険者ギルドに寄ってくか」


 ゴルディアスが頷いた。


「それと昼ご飯。梅屋うめやの牛丼」

「俺のフィギア売って外食すんじゃねーよ。そこはせめて、堅パンにしろよ!」


 今後のチームの展望について話し合いながら、四人が出て行く。

 何とか説得を試みようと、その後をレイカートがついていく。

 そして、行きつけの質屋にて鑑定。


「うぉおおお! ブルーム、モンティス、ガリバー、ジャガー。絶対に俺が、買い戻してやるからなぁあああ!」


 血の涙を流しながら、レイカートが絶叫する。


「あ、リーダー、フィギアに名前つけてたんだ」


 けろりと言って、ソラテスがお金を受け取った。

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