冬の命
【風の精『サブ』と雪だるま『ゆっきー』、そして仲間の雪だるまたちは公園やカラスの巣、牧が丘ニュータウンの至る所を探しましたが、無情にも風のリングは見つからないまま、だんだんと空が白んでゆくのでした】
「ただいま、ゆっきー。やっぱり何処にも無かったよ・・・」
サブはスコップを手に公園へ戻ってきました。ゆっきーはそうか、と相槌をうつとサブに水を与えて、労わりました。
「ありがとう、ゆっきー。街を駆け回ったら、汗をかいたよ。地面の雪も昨日から解けだしているからリングを探すなら今がチャンスさ。もうちょっと頑張ってみる・・・よ・・・?」
その時サブは気付いてしまいました。足が埋まってしまうほど積もっていた公園の雪がどんどん無くなり、茶色の土が姿を見せていることに。そして、ゆっきーの頭や体から『ぽたっ・・・ぽたっ・・・』と水の滴が零れだしていることに。
「風の精よ。リング探しで随分と苦戦しているようですね?」
その声を聞き、彼らは後ろに佇むある存在にようやく気付いたのでした。
「…太陽の精のお姉さま!? 一体どうして地上に!?」
「ウフフ。われら太陽の寿命はまだ50億年はありますからね。あなたを”ささやかに”応援しにやって来たのですよ」
光輝く太陽の精は空を見上げました。そこからはまるで夏を感じさせるような暖かい日射しが降り注いでいました。
「いけません、お姉さま!このままでは雪だるまのゆっきーたちまで解けてしまいます!どうかそのお力を抑えて下さいませ!」
サブは公園の残雪をゆっきーの足元にかき集めて、必死で冷やそうと試みています。しかし太陽の精はその姿を可笑しそうにサブに話しかけました。
「おやおや、風の精よ。あなたはつい先日、まさにこれくらいの暖かさを求めて雲の上まではるばるやって来たではないか。わらわはそれを叶えたまで。しかしそれをなぜ拒むのです?まさか風神の宝である風のリングを探し出すことよりも、その雪だるまを失うことが惜しいとでも考えているのですか?」
その言葉にサブは怒りや悲しみで心がぐちゃぐちゃになりましたが、どうしても我慢できずに太陽の精をキッと睨みました。
「ゆっきーが助かるなら、風のリングなんかどうでも-!?」
「サブ!ありがとうな。じゃがその先は言うな。太陽の精さんや・・・ワシら雪だるまは春が来てしまえば去りゆくのが定め。ワシもその覚悟はできておる」
「ゆっき・・・・・・」
その言葉を最後に、公園にはしばしの沈黙が訪れました。だがしかし、突然の訪問者により空気は一変することとなったのです。
「おやぶん!おやぶん!!ハア、ハア。大変れす!大変なことになっとるです!」
それは街を捜索していたはずの小さな雪だるまたちでした。彼らは息を切らせながら、公園へ転がり込んできました。
「チビたちよ、落ち着け。いったいそんなに慌ててどうしたんじゃ?」
ゆっきーが努めて優しく声をかけました。アワアワと狼狽える雪だるまの中で、ひとり冷静だった者がこう言いました。
「ついさっきのことです。街の外れで風のリングを探していた者から連絡がありました・・・」
優子さまのお家が燃えている、と-




