あの日、夜の公園で・・・
「なァ~にィ!?大事なモンを落としただってェ!?」
風の精がリングのことを相談したところ、思わず気後れしそうなほど大きな声で雪だるまは言いました。
「オイお前ら!出てこい!集合じゃあ!」
そう雪だるまが号令をかけると、なんと公園の隅でこちらを見ていた、小さな雪だるまたちがぴょんぴょんとこちらへ向かって来ました。
「親分、親分!どうしやしたか?」
「おォ、お前らよく聞け。大事な坊主が『かぜのりんぐ』っつぅモンを落としたらしい。お前らも探すのを手伝ってやってくれぃ!ただし人間には見つからないように!」
「親分、親分!わかりやした!わかりやした!」
鼻の寒椿を光らせて、かわいらしい雪だるまたちは夜の街に跳ね飛んでゆきました。
「ははは、ありがとう。雪だるまのおじさん。けど大事なのは僕じゃなくて風のリングだよ」
「何を言っておる。ワシにとっては見たこともない指輪などでなく、坊主の方がよっぽど大事じゃよ」
雪だるまは何気なく言いましたが、風の精はこの言葉にドキッとして、生まれて初めて心が震えるのがわかりました。
(・・・胸の奥がドロッとしてあったかい。これは一体なんでだろう・・・・・・)
「ゴホン・・・。あとワシはおじさんでない!ワシの名は ”ゆっきー” じゃ!以後、ワシのことはゆっきーと呼ぶように!ところで坊主、お主の名はなんじゃ?」
「僕に名前は・・・無いよ。父さんや仲間たちもみんな名前が無いんだ。だって僕たちは風神様に仕えるただの『精霊』だから・・・」
「何!?名前が無いじゃと?それは困る。ワシの友だちは風の精の中でもお前さんだけじゃからな。ややこしいのは敵わん、敵わん」
「友だち・・・」風の精はまた胸が熱くなるのを感じました。本当はもう飛び上って転げまわりたいくらい体の奥がこそばゆいのです。
「そうじゃな、決めたぞ!お主の名は今からサブじゃ!・・・どうじゃ?」
大きな雪だるまは少し窺うように、風の精の目を見つめました。
「サブか・・・変な名前だ。・・・・・・でも、うん。・・・うん。僕はこの名前、大好きだ」
そう言って、風の精は雪だるまに抱きつきました。雪だるまの体は冷たく硬かったのですが、それが少年にとっては心地よかったのです。
こうしてふたりは本当の友だちになったのでした-




