私の恋は、おわったのです。
二作目です。
私はその日、世界が崩れ落ちる音を聞いた。
大好きで大好きで、とても大好きな私のバーナード様。
揺れる柔らかな髪は陽の光を浴びて輝き、笑顔はこの世の全ての幸福を詰め込み、優しく見守る瞳はこの世の何よりも美しいバーナード様。
でも、それを受け取るのは婚約者である私ではなく、取るに足らない男爵家の養女だった。
幼いあの日に出会ったバーナード様は私に微笑み、手を取り、年下の私のまだ覚束無い足取りをゆっくりと待ってくださる方だった。
立場の危うい私を、それでも柔らかく包み込んでくれる。陽向のような方だった。
手を取られればはにかんで。
笑顔を向けられれば顔を赤くし。
花飾りを頭に乗せた時の笑顔はとても、とても眩しくて。
そんな貴方が、私は、大好きでした。
貴族令息令嬢が社交を求め、深めるための学園に入学する前、確かに私とバーナード様の間には絆がありました。
このままきっと、仲睦まじく過ごすのだと、そう思っていたのです。
しかし、私の1年後に入学した男爵家の養女が全てを狂わしました。
始めはなんでしたか。
確か、バーナード様の友人の騎士団長様の令息がその子が転んだ時にたまたま手を貸した時だったかと思います。
その時の対応がとても貴族的でなく、平民的で、礼儀を欠いていましたが、それがとても、とても新鮮に映ったとのことでした。
男爵家の養女は元は貴族と貴族の間に産まれた子でした。しかし、その貴族は許されない恋の末に駆け落ちをして結ばれたのです。
養女は一所平民の中で暮らし、しかし不幸なことに両親が亡くなりました。
万が一の時にはこれを国の騎士に見せるように、と託された家紋付きの短刀を持って両親の言うように国の騎士に見せた養女はそれをもって男爵家の血縁と見なされ受け入れられたのです。
しかし、所詮は駆け落ちをした厄介な兄弟の子。
ろくな教育もされず、取り敢えず詰め込まれた学園で、彼女はとても自由でした。
平民の常識とやらを押し付け、男女であっても友達であると主張し、政略結婚を嘆き、恋愛結婚の尊さを説き、それに翻弄される令息を可哀想と言いました。
彼女は次々と令息を渡り歩き、何故かどんどんと高位の令息に近づいていきました。
そして、私のバーナード様にも接触したのです。
私は懇願しました。
かの令嬢には近づかないで欲しいと。
彼は言いました。
彼女はただの友達だよ、と。
私は懇願しました。
彼女を優先し、私を蔑ろにしないでくださいと。
彼は言いました。
貴族社会に慣れない彼女を助けることが何故きみを蔑ろにすることになるのか、と。
私は懇願しました。
高価な贈り物は、婚約者である私以外にはしないでくださいと。
彼は言いました。
彼女は養育先の家で冷遇されているのだから、これぐらい大目に見てくれ、と。
周りの人々は囁きます。
彼は彼女を好いている、と。
彼は彼女がいちばん大切なのでは、と。
彼は本当は私と婚約などしたくなかったのではないか、と。
それらは全て私に棘として刺さり、不安定な私の地盤を左右するものでした。
だから。
だから。
彼が私を差し置いて彼女とファーストダンスを踊った時、世界は崩れ落ちました。
私よりも優先すべき国以外の何かがあるものを、私の伴侶にはできないと、そう判断されました。
私は、ただ隣に彼にいて欲しかっただけなのです。
微笑みかけ、エスコートをして、ファーストダンスを踊って、歓談して、そして、そして…。
そこからはもうダメでした。
私の個人の意見よりも国の意見が優先されたのです。
想い合っていたなら許された。
でもそれは、片方が想ってなければ成り立ちませんでした。
私達の婚約は解消されました。
そして私はこの国よりも強大な隣国の第三王子を迎えることになったのです。
とても優しくて、美しくて、凛々しい、とても素敵な、彼ではない人です。
それがこの国を繋ぐ唯一の手段でした。
隣国の王は許してくれたのです。
この国の唯一の王族の子として産まれた私に、好いた相手と添い遂げる権利を。
それは好いた相手と添い遂げれなかった王の温情でした。
何時でも併合できる国の、もしかしたら最後の王族かもしれない私への、温情でした。
だから私は伝えました。
貴方だけなのです、と。
私が好いているのは貴方なのです、と。
貴方の微笑みが私は一等大好きなのです、と。
しかしそれは届きませんでした。
貴方が選んだのは彼女で。それは隣国の王も列席する私の戴冠式で。
貴方は私ではなく可哀想な彼女をエスコートし、そしてファーストダンスも彼女と踊りました。
私はただ、それを見つめることしかできませんでした。
だからもう、ダメでした。
私の世界は崩れたのです。
一人称、二人称のブレは、心のゆらぎととっていただければ。




