高山
ここ京都の街には、何回も行った。
鵜飼いの木谷は、芸子遊びより、京都の街を案じていた。
岐阜県高山は、誰しも入れる場所ではない。
木谷は、久しぶりに高山の古い町並みに来ていた。
「おかみは、どうした?」
日本酒の利き酒は、おかみあってのものだ。
「お車ですか?」
店員は、それには答えずにそう聞いた。
木谷は、日本酒を一気飲みすると、「いや」と答えた。
入り口近くで販売しているジュースは、さもさも美味しそうに見えたのだが、木谷の女である真白はそれを好まなかった。
今日日、木谷は、郷愁の中にいた。
「木谷の旦那、伊勢の女に会いたいだろう」と、口火を切ったのは、木谷の部下であるが、あくまでも鵜飼いである木谷文雄は、こう言った。
「女などいくらでもいるが、真白ほどいい女はいないだろう」
人力車が通る。
秋を通り過ぎると、岐阜には雪が降る。
木谷は、いつしか高速道路を間違えて、白川郷まで行った時を思い出し、「クックッ」と笑った。
木谷には娘がいた。
名を、「こおり」と言った。
「岐阜には、高利貸しがのさばり、真白を殺すかもしれん」
木谷は、娘を持て余していたが、どうしても「京都」に預ける気がしなかった。
「ならば、横浜はどうですじゃろ?」
いつぞやの部下の言葉を思い出した。
「ハイカラとは名ばかりの横浜の山手町には、海南斗というバケモノがいるらしい」
高山の日本酒は、甘かった。
木谷は、かつての女である「真白」を案じてやまなかった。
貨物船は、横浜港に着いた。
そして、十二歳だった花は、十五になろうとしていた。




