腹黒王弟、大掃除を頼む
名前を狩り…借りました。
我がブルーム王国に、隣国のウルムー国から国交友好強化の為の使者が来た。
ウルムー国王位継承権が10位の姫君リオハート姫である。
我が国の王太子バンギスは、リオハート姫の婚約者候補でもある。
だが、リオハート姫を乗せた馬車を出迎えたのは、王弟である私ラグーナと部下だけだった。
リオハート姫は、母親が身分が低いから王位継承権も低いと思われていて、離宮暮らしで差別されていると噂のある姫君だ。
普通に考えて、そのような者が、友好国との国交強化の為の使者に選ばれるだろうか?
リオハート姫は、本当は軽んじられるような方ではない。
先月までウルムー国へ使者として行っていた私は、リオハート姫の真実を知って、驚愕したものだ。
周辺国の正直な反応を知る為に、わざとそのような噂を流していると聞いた時は、やられた、と思った。
噂に惑わされずに、誠実に対面した私は、偉い、と自分で自分を褒めたものだ。
お陰で、リオハート姫と親しくなれた。
この度の訪問は、我が国の正直な対応を見て、対策を取る為に、あえてリオハート姫に来てもらったのだ。
リオハート姫をエスコートして、客室へと案内する。
部屋には誰もいない。
リオハート姫の為に用意されたメイドや護衛はどこへ行ったのか?
私は部下に命じて、メイドと護衛を呼びに行かせた。
「申し訳ありません」
私はリオハート姫に詫びる。
「いえ、お気になさらず」
リオハート姫は、澄ました顔で答える。
客室は、きちんと整えられていた。
もし、客室すら整っていなければ、某国で聞いた事のある『切腹』ものだ。
担当者は打ち首、責任者は切腹くらいが妥当だろうか。
賓客をもてなせない国など、国交断絶ものだ。
どの国の、どんな人物でも、国の代表者という立場の相手だ。
賓客扱いしなければ、どうなるかなど、考えただけで恐ろしい。
それを分かっていない、この国の国王、王太子はじめ、城に勤める者達は、もう必要ないのではないか。
私は、リオハート姫に頼んだ事を、正しかったと思った。
リオハート姫を、客室にあるソファに座らせて、自分の側近にお茶を淹れさせた。
「メイドや護衛を、新しく手配しましょうか?」
私はリオハート姫に尋ねた。
「そのままで良いですよ。とても歓迎されているようで」
リオハート姫の侍女レイア殿が言った。
リオハート姫も、微笑んでいる。
…怒っている…
無知とは恐ろしい。この後、どんな展開になっても、私は知らないぞ。
1度だけは忠告しよう。
あとは、自己責任だ。
メイドと護衛がやって来た。
皆、何も言わず、黙って不貞腐れている。
そして、何もしない。
そんなメイドや護衛を雇っているとは、国家の恥だ。後で始末しよう。
追加でこっそり、自分の影を護衛につけた。
生命に関わる事以外は、手を出さない様に命令した。
ようは、メイドと護衛が何をしたか、何をしなかったのかの監視だ。
メイドにお茶を、と言ったら、渋いお茶を出していた。
この城のメイドは、満足にお茶も淹れられないらしい。
夕方から、歓迎パーティーを開いた。
誰も彼も、リオハート姫を無視した。
そして、聞えよがしに噂話をする。
「小国と交易してやってるんだ」
「無くても良いのにね」
貴族達もバカだった。ウルムー国は小国だから交易しなくてもいい?
まさか。小麦の50パーセントはウルムー国からの輸入だぞ。
交易してもらえなかったら、困るのは我が国だぞ。
無知とは恐ろしい。
その時、令嬢がわざとリオハート姫にぶつかった。
「あら、地味だから気づかなかったわ」
我が国の公爵令嬢カイザーだ。バンギス王太子の婚約者候補である。
「小国では、ドレスも豪華な物は用意できなかったのですか?」
「そんなドレスで、よく出れましたね」
他の令嬢達も、追従する。
…そのドレスは、ウルムー国の隣のドラグロ帝国で作られた、最高級品質のドレスだぞ。
この会場にいる誰よりも高価なドレスなのに、誰もその価値に気付かない。
我が国は、本当に後進国だ。
流行も遅れて入ってくる。
周辺国への理解も乏しい。
世間知らずの弱小国。
ウルムー国をバカにしているが、周辺国は我が国をバカにしている。
お山の大将。井の中の蛙。
私は、何度も恥ずかしい思いをした。
でも、リオハート姫は、私をバカにせず、きちんと対応してくれた。
ウルムー国とドラグロ帝国と周辺国について、教えてくれた。
私が誠実にリオハート姫に対していたからだと、教えてくれた。
何の為の誰の為の歓迎パーティーなんだ?
私は、姫君に挨拶した。
「我が国にリオハート姫をお迎えできて光栄です」
「ありがとうございます」
リオハート姫が、挨拶を返した時に、横から声が掛かった。
「そのような女に声を掛けるなど、どうかしていますよ」
バンギス王太子だった。後ろには、国王と妃がいた。
「賓客に、このような扱いをするなど、どうなっているんですか?王家として、国家として、そういう対応をしているという事になるんですよ」
私は、忠告したからな。
どうなっても知らないぞ。
「ふん。そんな身分の低い女など、賓客ではない」
「そうだ。皆のもの、この夜会を楽しもう!」
国王が言うと、貴族達も拍手した。
私はリオハート姫とレイア殿を、国王達とは離れた所へ連れて行った。
「申し訳ありません」
「お気になさらず」
私が、リオハート姫とレイア殿に謝っていると、何人かの貴族が近付いて来た。
「あの…ご挨拶を、よろしいでしょうか?」
良かった。まともな貴族もいた。
顔は覚えた。
3割くらいはまともだった。5割は、日和見。
残りは、抹殺待ったなしだな。
そんな事を考えているうちに、夜会は終わった。
次の日は、リオハート姫を賓客に、バンギス王太子や高位貴族の令嬢達とのお茶会が予定されていた。
会場の庭園へ案内されて歩くリオハート姫に、わざと聞こえるように噂話をするメイド達。
「あれが、姫君?」
「地味ね」
「あれなら私の方が綺麗だわ」
「あんなのが王太子妃の座を狙うなんて」
会場についても、誰も挨拶もなく。
令嬢達だけで話している。
「小国のくせに」
「王太子妃は、カイザー様に決まっているのに」
「2人の愛の邪魔をするなんて」
バンギス王太子が、公爵令嬢カイザーをエスコートしてやって来た。
「茶会を始めよう」
リオハート姫の歓迎の茶会じゃないのか?
リオハート姫にだけ、渋いお茶出すメイド。
「よく、我が国に来れたね」
バンギス王太子が言うと
「ねぇ貴方、鏡見たことある?」
「その顔で、王太子妃狙うとか」
「恥ずかしくないのかしらね」
令嬢達も言う。
リオハート姫は、黙ってお茶を飲んだ。
しばらくして飽きたのかバンギス王太子が
「庭園の花でもみよう」
と言い、花壇に近付き、皆で花を観賞した。
カイザーが、リオハート姫を突き飛ばすが、レイア殿が抱きとめて、リオハート姫は転ばずに済んだ。
「リオハート姫を突き飛ばしたこの令嬢を処罰しろ」
レイア殿が公爵令嬢カイザーを指差す。
「処罰するほどの事じゃない」
バンギス王太子が言った。
「姫より公爵令嬢が偉いのか?」
レイア殿が言うとバンギス王太子が
「王位継承権10位の姫じゃないか」
「どこが偉いのよ?小国の姫ごときが!」
カイザーも言った。
「ウルムー国の王位継承権は10位なのは、ドラグロ帝国の皇位継承権2位だからだ」
レイア殿が言うと、バンギス王太子や令嬢達が目を丸くした。
「「は?」」
「嘘だ!身分が低い母だから王位継承権も低いんだろ!」
上擦った声で、バンギス王太子が言った。
「帝国から何も聞いてないのか?」
呆れた顔で、レイア殿が言う。
「えっ?」
「そうか。帝国から教えてもらえなかったのか」
バンギス王太子の反応に、レイア殿が続けた。
「リオハート姫の母は、帝国の皇帝の妹だ」
「まさか…!」
「帝国に確認すれば良い」
「そんな…」
ドラグロ帝国は、周辺国で1番の大国。どの国も逆らえない。
「まずは、その令嬢を捕縛しろ」
私は、姿を現し、連れてきた騎士達に命じた。
騎士達は、公爵令嬢に縄を掛けた。
「待ってください!」
バンギス王太子が叫ぶが無視した。
「賓客にそんな事する令嬢に教育した公爵家を処罰しろ」
私は次々と命令を出す。
「賓客をもてなせないメイドも、仕事しないなら辞めろ」
「メイドを配置した責任者も管理責任を問う。辞めろ」
「護衛がきちんと護衛してないな。
護衛任務が果たせなかったんだから処分だ。護衛を任せたのは誰だ?
無能に護衛させた責任者も責任取れ。騎士団長と王だ」
「そんなの許されるか!」
バンギス王太子がまた叫ぶ。
「小国の、母の身分が低い姫の為に、そんな事するわけないだろう!」
バンギス王太子の言葉に、レイア殿が言った。
「噂は噂だ。何故本当の事を調べない?
ウルムー国の取引もドラグロ帝国の取引もやめるよう、進言しよう」
私は、リオハート姫に膝をついた。忠誠を誓う姿勢だ。
「貴国との国交を優先するので、責任者の王と王太子の位を剥奪します!
侮辱した貴族やメイドや騎士達も処罰します!どうか、お許しください!」
バンギス王太子は、真っ青になった。
「位を剥奪!?何故だ?」
「お前は、ドラグロ帝国の皇位継承権第2位の姫君リオハート姫を害した。これは国家間の問題だ。お前らは戦争したいのか?」
「ひぃ!」
バンギス王太子は、私の言葉に驚き、尻もちをついた。
「友好国からの使者をもてなせない国など、他国から相手にされない。そんな事も分からぬお前達に、王族の資格は無い!ここにいる者達全員牢に入れろ!」
バンギス王太子、令嬢達、メイド達、護衛達、全員が牢に入れられた。
その後、国王と王妃、公爵家、令嬢達の家、夜会で侮辱した貴族家を、全員牢に入れた。
国王と王妃、王太子は、位を剥奪され、離宮に幽閉された。
令嬢達とメイド達は、修道院に送られた。
護衛達と騎士団長、公爵や貴族の男達は、国境の危険地帯に送られた。
私は、残った王族として、国王になった。
リオハート姫に挨拶に来た貴族達を取り立て、主要な役職を与えた。
「リオハート姫には、感謝しています。これで我が国が綺麗になりました」
私は、ウルムー国へ帰るリオハート姫とレイア殿を見送る為、挨拶の場で、お礼を伝えた。
「大掃除がしたいと言われた時は、驚きましたよ」
レイア殿が言う。
…侍女の姿をしているが、侍女では無い。本当は、こちらが本物のリオハート姫だ。
生命を狙われるので、公の場では侍女の振りをしている。
「貴方には、何度も助けていただいた」
跪き、レイア殿の手を取る。
「本当は、求婚したいのだが…」
レイア殿は、首を傾げる。
「まぁ…」
リオハート姫は、微笑んでいる。
「皇太子が皇帝になったら、迎えに行っても良いだろうか?」
「あら、いつになるかしら?」
レイア殿が微笑む。
「いつまでも待つさ」
「国王が、いつまでも独身でいるつもり?」
「妃に迎えたい者が、1人しかいないからな」
「…そう」
レイア殿がそう言うと、リオハート姫が笑顔で言った。
「あら、熱烈ね。お兄様にお伝えしなければ」
リオハート姫は、ウルムー国の王位継承権11位のリオソウル姫である。レイア殿とは母が違う。義妹だ。だが、顔や背格好が似ているから、影武者をしている。
ドラグロ帝国の皇太子は、レイア殿の従兄弟。
小さい頃から交流があり、リオハート姫とレイア殿は、お兄様と慕っていた。
「王になったし、帝国に挨拶に行くか」
皇帝も、皇太子も、姪、従姉妹であるレイア殿をたいそう可愛がっているという。
皇位継承権を第2位にする位に。
お陰で生命を狙われるのであるが、権力を使って陰で護衛をしている。
私が報告をしてもしなくても、この国の対応がどうだったか、既に報告されているはずだ。
だからお詫びと、レイア殿への求婚の許可を貰いに行こうと思ったのだ。
「初めて会った時から、惹かれている。俺との事を、考えてくれないか?」
「う〜ん…」
レイア殿は、困ったような顔をした。
「我が国は、新しい体制になったばかりだ。貴方の力を借りたい」
「そう言わるれると、断れない」
「断るつもりか?」
「グイグイ来るわね」
「貴方を手放したくない」
「あら」
「ずっとここにいてほしい。貴方と離れてから、どれだけ会いたかったか…どれだけ恋焦がれていたか…」
レイア殿は、私がウルムー国へ使者として行った時、小国のウルムー国など、と、侮って傲慢に挨拶したところ、ブルーム王国の方が小国だと周辺国から思われているぞ、と指摘した。
レイア殿は、ブルーム王国の城内では、きちんと姫として生活していたから、レイア殿とリオハート姫に使者として迎えられ、挨拶した。
その時に教えられたのだ。
ウルムー国の王とドラグロ帝国の皇帝の妹が、お互いに一目惚れし、正妃がいるから側姫で!と結婚してしまった。
周辺国は、皇帝の妹との婚姻を狙っていたので、たいそう悔しがったが、帝国との同盟のチャンスとばかりに、2人を祝福した。
帝国は、ウルムー国と周辺国と同盟を組んだ。
井の中の蛙のブルーム王国だけ、そんな事も知らずに同盟のチャンスを逃していた。
なので、帝国との同盟のないブルーム王国だけが、弱小国だと周辺国からは見られている。
領土が小さいからと言って、ウルムー国を侮っているが、ブルーム王国は、小麦を50パーセントも輸入している。自国分も賄えて、輸出もできる。それだけ小麦が生産されているのだ。
同盟の仲間外れは良くないと、皇帝が、レイア殿の婚約者候補として、バンギス王太子に打診した。
バンギス王太子及び、ブルーム王国は、バンギス王太子の婚約者候補にレイア殿を、と頼まれたと思っている。
私も、王からそう聞いていたから、レイア殿から真実を聞かされた時、ブルーム王国は、もう終わりだと思った。
世間知らずもいいところだ。
隣国だから、友好国として交流してくれているのに、領土が小さいからと、ウルムー国を侮っている。
国王も、同じ考えの王太子も、貴族達も、国の為にならない。
こいつらがいる限り、ブルーム王国は、周辺国から侮られたままだ。
帝国と同盟を組まなければ、これ以上はやっていけない。
その為には、腐った国王達を一掃しなければ…
私は、そう考えたから、レイア殿に、大掃除を頼んだ。
使者として、ブルーム王国に来た時に、ウルムー国及び姫を侮るバカ者を処分したいから、協力して欲しいと。
「貴方は、他の使者と違って、きちんと話を聞くのね」
と、レイア殿が言ってくれた。
私以外の使者は、レイア殿の話を信じなかった。
そして、何故、王位継承権が10位なのかも教えてもらえた。
レイア殿は、リオハート姫の侍女として大掃除を手伝ってくれる事になった。
かなり大掛かりな大掃除になった。
国王と王妃、王太子、貴族家の2割を処分した。
日和見の5割は、どうにかしなければ。
とにかくこれで、ウルムー国を侮る事もなく、ドラグロ帝国と同盟を組み、ブルーム王国を発展させる事ができる。
「今後次第ね」
レイア殿が言った。
「婚約者候補として、貴方に選んでもらえるように、がんばるよ」
私が言うと、レイア殿は微笑んだ。
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