第4話:マンマカリッド団と空飛ぶサンマ
無人のショッピングモールは、私たちにとって巨大な宝物庫だった。
シゲジイと母さんは「万が一の備えだ」と言って、缶詰やカセットコンロ、果ては発電機まで、台車を何往復もさせて家の中に運び込んでいる。
チョージは「新しいハードがあるかも!」と、おもちゃ売場の奥深くへと消えていった。
私は、カートに乗せたコハナの子守り担当だ。
「ネエネ、おさるさん」
コハナが、どこからか水色のフワフワしたぬいぐるみを持ってきて、私に見せた。
「あら、かわいいね。……って、えっ?」
よく見ると、それはぬいぐるみではなかった。
つぶらな瞳がまばたきをし、小さな手足がもぞもぞと動いている。
「キュキュッ」と鳴きながら、コハナの腕の中で甘えるように鼻を鳴らした。
「コハナ、その子どこで見つけてきたの……?」
その時だった。
――ブルブルブルブルッ!
お腹の底に響くような、暴力的な爆音が近づいてきた。
顔を上げると、モールの吹き抜けのガラス天井越しに、見たこともない形をしたプロペラ機が旋回しているのが見えた。
『静粛に! ここは今から我ら「マンマカリッド団」が占領する!』
割れんばかりの拡声器の音が、無人のモールに響き渡る。
プロペラ機が強引に搬入口の広場に着陸し、中から三人の人影が降りてきた。
「ここから奪ったものを置いて、今すぐ出て行け!」
先頭に立つのは、大仰なちょび髭を蓄えた大男。その後ろを、いかにも下っ端といった風貌の男女が、得意げに肩をそびやかして歩いてくる。
「何だよ、あいつら……」
物音に気づいたチョージが、ゲームソフトを抱えて駆け寄ってきた。
私たちはコハナを囲むようにして固まった。
「おや、お嬢ちゃんたち。もしかして『漂流物』か?」
ちょび髭の男が、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて近づいてくる。
「ま、なんて可愛い漂流物だ。どれ、おじさんが遊んでやろう」
男が、コハナの頬に触れようと大きな手を伸ばした、その瞬間。
「――ぎややややあああああーーーっ!!」
我慢の限界を超えたコハナが、いつもの「ギャン泣き」を炸裂させた。
けれど、それはいつもの泣き声ではなかった。
衝撃波のような不可視の力が膨れ上がり、周囲のショーウィンドウがパリンパリンと一斉に粉砕される。
「うわあああ!?」
男たちは枯れ葉のように吹き飛ばされ、地面を転がった。それどころか、後ろに停まっていたプロペラ機までが、目に見えてひしゃげて大破していく。
私たちにはいつもの泣き声にしか聞こえないけれど、男たちは耳を押さえてのたうち回っていた。
「急げ! 家に戻るんじゃ、早くッ!」
シゲジイの切迫した声が響く。
何が起こっているのか分からないまま、私はコハナと「水色のおさる」をカートに乗せ、全速力で家へと走り出した。
私たちが玄関に飛び込むと同時に、待ち構えていたシゲジイが斧でロープを叩き切った。
「さらばだ、マルコモール!」
気がつくと、空はいつの間にか燃えるような夕暮れに染まっていた。
そして、その夕闇の中から、山ほどもあろうかという 巨大なピンク色のクジラ がゆっくりと降下してきた。
クジラは一直線にモールを目指し、その巨体で建物を押しつぶすように突っ込んでいく。
「あいつら、海に!」
チョージが指差す先で、ちょび髭たちが大慌てで海に飛び込むのが見えた。
モールはクジラの重みに耐えかね、轟音と共に海の中へと沈んでいった。
私たちは呆然と、泡を立てて消えていくモールを見つめていた。
「助けてくれー! 俺たち泳げないんだー!」
「後生だから助けてくんろー!」
海面でワップワップと溺れかけている三人組を見かねて、シゲジイが先程のロープの先に浮き輪を括り付け、海へ放り込んだ。
彼らは必死の形相で、その黄色い命綱にしがみついた。
「……あ、サンマだ。サンマが飛んでる!」
チョージが空を仰いで声を上げた。
夕暮れの紫の空を、数千、数万というサンマの大群が、銀色の鱗をキラキラと光らせながら横切っていく。
「ふん……『渡りサンマ』だ。そんなもん、珍しくもねえ……」
浮き輪にしがみついたちょび髭が、力なく独りごちた。
私たちの家は、また静かに、どこへともなく漂い始めていた。
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