50話 地下社交界と、貴族を熱狂させる非情な市場
時間は少し遡る。
地下ギャンブルフロアの中心でリベルは貴族達に囲まれていた。
かつて決戦が行われてた場所は、もはや台もなにもない。
優雅に手を振り、貴族達はその笑顔に歓声を贈る。
男達はコネを求め、女達は魅了されていた。
この光景はカジノのそれではなく、完全に貴族達による社交界だった。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。今しばらくお待ちください」
リベルの顔は笑顔であり、所作も完璧な立ち振る舞い。
ギルド制服を身にまとい、普段の鎧やスーツ姿とは違い凛々しさが際立つリベルに女達は歓声を上げた。
そんな中、一人の男性がリベルに近づくと声をかけた。
「リベル殿、元気そうでなによりだな」
「これはこれは、クロトン様。お変わりなく何よりです」
リベルは軽く頭を下げた。
相手はウッドラ・ディア・クロトン公爵。この国の中枢の人間である。
「このような場所は、公務に忙しい身には縁遠いと思っていたのだが、どうにもそうもいかぬようだ」
彼のその言葉は、セブンズミラーの幹部選定戦が、一介のギャンブルを越えた、国を揺るがす重要な事柄であることを雄弁に物語っていた。
「今日はまだ開催していないようだが」
「申し訳ありません。ただいま準備中でございまして、開催はもうしばらくお待ちいただけると助かります」
「そうか。少し早く来過ぎたようだな」
「いえ、ここはカジノであり、ギャンブルする場所でございます。メインイベントが開催されるまで、どうぞお楽しみください」
リベルはクロトンの後ろにいる、女性に気が付く。
「おや、そちらのご令嬢は?」
「ああ、挨拶がまだだったな。この子はクロリア、私の娘だ」
クロリアは一歩前に出ると、ドレスの裾を掴み挨拶をした。
「この度はお目にかかれて光栄に存じますリベル様。クロリア・ィシュ・クロトンと申します」
普段から貴族としてのマナーを学び込まれているのか、所作一つも完璧に行われていた。
「ご機嫌麗しゅうございます、クロリア嬢。どうぞこの場を存分にご満喫くださいますよう」
切り返しも完璧。
二人の間に言葉はいらなかった。
見惚れているのか、クロリアは頬を赤らめ視線を逸らした。
すると、クロリアの視界に黄金の輝きが目に映る。
「少々先ほどから気になっているのですが。連れていらっしゃる、その子たちはなんですか?」
リベルの足元でゴーレムが二体、戯れていた。
ゴーレムの一体を持ち上げると優しく撫でた。
「私の信頼できる仲間が作ってくれたゴーレムです。もしよければ触れてみますか?」
「まあ、よろしいのでしょうか?」
「はい、女性にも持ちやすく軽さがある代物です」
そう言って、リベルは1体をクロリアに手渡した。
彼女は嬉しそうに受け取ると愛しそうに愛でた。
他の女性達は表情には出さないが内心羨ましそうにクロリアを睨みつけている。
「リベル殿、先ほどゴーレムと仰っていたようだが」
「はい、これはれっきとしたゴーレム。現在ギルドの補助の役割として機能しています」
「なんと興味深い。触っても?」
「ええ、どうぞ」
もう一体のゴーレムもクロトンへと手に渡る。
クロトンは材質を確かめるように、ゴーレムを隅々まで触るものの、ゴーレムは子供のように嫌がり駄々をこねた。
慌ててリベルにゴーレムを返した。
「ふう、まるで子供が暴れまわってるかのようだった」
「はい、このゴーレムも生きていますので。人間同様にと思っていただけたら」
「まさかそこまで精密に……いやここまで小型化できるとは。それにその後ろにあるのは魔法石」
「想像の通りでございます」
「近隣諸国ですら、これほど小さく精密な生体ができると聞いたことがない。それに王国魔法師でもここまで出来る技術者はいない。よもやここまで体現できるとは……この技術はもしや、リーシャ・ウーナ・サリエントが?」
リベルは口角を上げ、不敵に笑うだけで沈黙する。
クロトンはそれが答えだとわかったのか、追及はしなかった。
国益として技術の提供を求めてしまうと、リーシャを敵に回すと思ったからだ。
『おーい、リベルかリーシャいるか?』
ゴーレムから男の声が発生した。
「もうそんな時間か。そろそろ、準備に入らせていただきます。クロリア嬢、その子をお返ししていただけますでしょうか」
クロリアはなにか言いたげにするも、渋々リベルにゴーレムを手渡した。
クロトンも「まさか、ここに居ない者との会話を……」と言葉を漏らすも、それ以上は押し黙る。
「お客様、長らくお待たせしました。本日のメインイベント【トレンド・マーケット】を開催させていただきます」
指を鳴らすとゴーレムの1体は上空を見上げ、目から光を放出した。
すると、上空に映像が現れた。
「なんだこれは……」
クロトンは規格外のことに呆然としてしまった。
初めて見るものに対して振り絞った言葉それなのだから。
画面に映っていたのは30名ちょっとの男女。
一区切りずつ、各所四角い箱に人が入っているように見える、なにもなく動いている。
下には数字がそれぞれあり、数値が常に変化している。
数値の隣には、3人に注目との文字が表示されていた。
中には何人か喋ったりするものの、会場には一切聞こえていない。
「では……早速、失格になった5チームが出ました」
画面には数値が0となり、四角は赤く染まっていた。
「血が……死んだ……いや、動いている?」
「はい、彼ら彼女らはこの選定戦の参加者であり、セブンズミラーの従業員。赤く染まったのは今まさに選定戦失格の合図となります」
失格となった者が絶望する表情を見せ、中には泣き出す者まで出ていた。
そんな光景に貴族達は感極まって、歓声を上げた。
一方クロトンは、その光景を見て危機感を覚えた。
「すまないリベル殿。これは今、部屋で起きていることが映っているって認識で合っているのかね?」
「さようでございますクロトン様。別部屋にて彼ら、彼女らは今現在対戦を行っております」
「そうか……」
クロトンはゴクリと喉を鳴らした。
カジノという分類を大きく枠組みを超えた存在であること。
このゴーレムだけで、周辺諸国との格差。
またリアルタイムでの状況も確認できるのだから、ひとたび戦争が起きれば大きく変わるだろう。
逆に言うならば、この技術が盗られでもしたら、この国は最大の危機に瀕するかもしれないのだから。
そうクロトンの考えとは裏腹にギャンブルは否応もなしに進んでいく。
「では【トレンド・マーケット】のルールの説明に入らせていただきます」
そしてルール説明。賭けに対象にする人物や賭け倍率。ライネスが守っていることなど。
当然選定戦の参加者と、外部参加者だと説明は違う部分もある。
「以上がこのギャンブルの説明となります」
「これもギャンブルなのか」
「左様でございます。私たちの考えたギャンブルで、お楽しみいただけたら光栄でございます。では引き続きギャンブルをお楽しみください」
「すごいな……」
思わず関心するクロトンであった。




