5話 歓喜と絶望、そして挑戦者
「これで1勝1敗だ。運の勝負でよくやっていると褒めてやるよ」
トワイラがニヤリと笑った。
運じゃない、この男がしたのはイカサマなのは間違いない。
ただ、今は憶測であり確証となるのがあと一歩足りない。
ここは黙るしかない。
「俺が勝てばお前は一生奴隷だな」
「あなたこそ覚えていないなんて言わせないわよ」
トワイラの顔から笑みが消えた。
「……生意気な口を叩く」
「落ち着けトワイラ」
「悪かった。始めてくれ」
「ああっと、その前に――」
大男は集めたカードの束をバラバラにしてテーブルに広げた。
「これまで出てないカードがまだあったはずだ。なぁに、最終戦。お前も不正なんてあっちゃまずいだろ? 防ぐためにもここにいるメンツ含めちゃんとあるかどうか互いに確認するんだよ」
確かにまだ確認していないカードはあるけど、今確認する必要あるのかな?
テーブルには1から20数字が書かれている20枚のカードがちゃんとある。
「20、19、18、17、16上位の数字はあるな」
トワイラはあたしに見せつけるように数字のカードを持って見せた。
17のカードを触ると、「チッ……」と声が漏れたのをあたしは聞き逃さなかったし。16も同様に触ると目元がピクっと、小さく動くのを見逃さなかった。
他のカードは平気だったのに、17と16だけに関わる何かが間違いなくなにかあるはず。
「さあ、最後のシャッフルだ」
考える余地もなく大男がシャッフルをし終えたあと、カードがテーブルの上でバラバラに置かれている。
「嬢ちゃんからだ」
テーブルに広げられた20枚の裏返しのカード。
あたしはカードを選ぼうとしたその時、ビリッと指先に強い電流が走る。
「……っ」
思わずカードから指を離した。
ビリっとする程度だったのに今度は強い電流……。
別のカードへ触ろうとすると今度は温かい。
そしてまた別のカードはなにも感じない。
ふと考え込んだ。
「どうしたんだ? 早くしろよ。他の客が俺らの勝負の行方を見守っているんだからさ」
あたしは無視をし、とあるカードに手を伸ばした。
裏返すと書かれていた数字は20。
「まさかいきなり20を引くとは運が良いな。まあ俺なら19を出せるだろう。ほら19だ」
あたしが引いた20のカードもそうだけど、宣言通りに引かれたカードを言い当てたトワイラに対しても周囲がどよめく。
やっぱりだ……。
この19を引いた時点であたしの中では疑念が確信へと変わる。
温かいカード、電流を伴うカード、なにもないカード。この3種にはそれぞれに意味がある。
それはこの男、トワイラも分かっているはず。
あたしは数秒間の無言を貫いたのち次のカードを捲ると16。
「さっきのはただのマグレだったみたいだな。なら俺はこれだ」
トワイラが捲ったカード数値は17。
「ねえ」そう言いながらあたしはトワイラを見据える。
「さっき何で16から20のカードを確認していたのか考えていたの」
「あん?」
「別に確認する必要があるのかなって。けどあなたの取ったカードを見て確信したの」
周囲が静まり返る。
一挙一動あたしが動く全てに視線が注がれるのを感じる。
「どこに高い数字のあるカードを知っていたよね?」
さっきトワイラは19と17を引いた。
あたしは20と16を引いた。
そして今捲ったカードは、18の数字が表れた。
予想外の数字の取り合いだからか歓声が沸き上がる。
バニー姿の女性達もみんな、この卓上をあたし達の様子を見ていた。
絶望していた表情から反転、嬉しそうな笑みをこぼしている。
反面トワイラと大男は顔が引きつっていた。
「……嘘だ! ありえない……まさか、イカサマ!?」
「イカサマ? イカサマを防ぐためにさっき確認したのはあなたでしょ? いいから勝負はまだ終わってないから、次のカード捲って!」
気圧されたのか、あたしの言葉に渋々従いカードを捲る。
14。
トワイラは思わず苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
客も15を引くと予想していたのか落胆の声が漏れた。
あたしも続くように捲ると数値は13。
続いてトワイラが捲り5。
「くそっ! 何でここで5なんだ! 高い数字出したら殺すからな!」
なんて愚かな人なんだろ……。
哀れみの視線を向けながらもあたしはカードを捲った。
3。
「はははっ! 3だ。こいつこんな重要な所で3を引きやがった!」
「確かにあたしは5以上は引けなかったし、運が悪いと思う」
自分で言うのもあれだけど、確かに運が悪かったと思う。
あたしが引いた3のカードは温かくもなく、電流も流れない普通のカード。
そんな、なにも起きないカードは残り2枚ある。
「だけどあなたはどうなの?」
トワイラを指差す。
「ここまで観客を沸かして、みんな見てるのよ!」
周囲の視線が一斉にトワイラに集まる。
追い詰めてるようで追い詰められているのはトワイラ。
畳みかけるように更にあたしは言う。
「残ってるカードは1か15だけ。15引いたらあたしの負けだけど、1引いたらあなたの負け!」
「……っ!」
トワイラの手が震えている。
観客も大男もバニー姿の女性達も固唾を飲むように見守っている。
止まっていた手が動き、一つのカードを掴むとピタリと止めた。
トワイラの額に汗が浮かぶ。
迷っているんだ。
15か1か、トワイラも完全にわからないんだ。
「開けろ……開けろ!」
1人の客が叫んだ。
それを皮切りに周囲の客やバニー姿の女性達も「開けろ! 開けろ! 開けろ!」と合唱のように、カジノ全体が開けろのコールで響き渡る。
「くそっ、当たれ!」
ついに、手が動き出しカードを捲る。
現れたカードの数字は……。
1。
「う、嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ! 俺がこんなイモ臭い小娘に!」
トワイラは悔しそうな表情でカードを見つめた。
歓声が沸き上がり、バニー姿の女性達が抱き合って泣いている。
――勝った……本当に勝ったんだ……。
これで皆を解放できる……っていけない、喜ぶのはここを無事終わらせてから。
「さあ約束よ。あたしたちをここから解放して」
「黙れ!」
トワイラはテーブルを強く叩く。
往生際が悪すぎる。
あたしは即座に椅子から降り、対抗するよう構えようとするが後ろから大男に後ろから羽交い締めにされた。
「ぐ……ぅ……嘘つき」
「ここは俺らの島なんだぜ?」
大男が耳元で囁く。
「まあ負けようが勝とうがノコノコついてきた時点でお前の負けだ。それにここにいる奴等だって女目当てが多いから女どもを解放なんてすれば商売あがったりよ」
周囲の客達がニヤニヤと笑っている。
誰も助けてくれない。
バニー姿の女性達は、また俯いてしまっている。
悔しい……っ!
せっかく勝てたのに、せっかくみんなを解放できると思ったのにっ!
「うそ……つき……っ!」
涙がこぼれそうになる。
ジタバタともがくが、大男に勝てるはずもないのはわかっている。
誰か……誰か助けて――。
コツン、コツンと硬い靴足が近づいてくる。
「なら私と一戦勝負しましょうか」
静まり返った店内に女性の声が響いた。




