48話 不安な者と喧嘩騒動の真相
「ルール説明は事前にダリオ・ラングレーからしているわね」
「ああ、完璧に。それから以前に言ったように、この会場というか君たちの光景はギルド全体に映っているから理解してくれ。では説明に入る」
説明は以前に一度していたので内容は変わらない。
追加説明とかも一切全くなかったのをみるに、外部説明も兼ねてなんだろうなって。
「以上がルール説明だ。まずは各自チームごとに集まってくれ」
ムエルニとミランがこちらに向かって歩いてきている。
リーシャ様の近くにいたかったのだろう。ムエルニは不機嫌な表情を隠そうともせず、こちらに向かって歩いてくる。
ただ戻ってきた二人は未だに口を利かずに無言のまま。
「二人とも、もう喧嘩はいいじゃないっすか。これからは皆で一致団結して頑張っていきましょうよ」
「ユエル、今はまだ説明中よ。黙りなさい」
「はいっす……」
ムエルニに怒られ、ユエルは耳をぺたりと寝かせ、まるで小さな子犬のように肩をすぼめた。
「集まり終わったようだから、まずは君たちにはそれぞれゴーレムを所持してもらう」
そう言い終わると、扉が開かれてゴーレムが一体ずつ会場に入ってくる。
その総数16体。
そのうちの1体があたし達の前に到着した。
つまり16チームが現在の参加チームってことなんだ。
「やっぱり可愛いなあ」
あたしは持ち上げてゴーレムの頭を撫でた。
ユエルが自分もと駄々をこねるので、ユエルにゴーレムを渡す。
ユエルが撫でているのを羨ましそうに見ているミランとムエルニ。
あたしは指さすと、ユエルは察してゴーレムをミランへと手渡した。
ムエルニが待ちきれない様子で視線を送ってきたので、あたしはミランにそっと耳打ちする。
「ね、ムエルニにも渡してあげて」
ムエルニは少し待ちわびるような視線を向けていたので、ミランにムエルニに渡すよう指示してみた。
「ふ、ふん! 仕方がないわね。ゴーレムの性質を知るためだから、貸しなさい」
ゴーレムに触ると顔が綻びるように撫でていた。
「さて、そろそろいいかな?」
皆の視線が突き刺さる。あたし達のことだと分かった。
ムエルニは持っていたゴーレムを慌ただしく、あたしに渡す。
「そのゴーレムは参加者の補助役割を担う物になっている。君たちは失格にならない限り、選定戦が終わるまで地下2階からは出られない。ただ食事とトイレは可能だ」
「補助ゴーレムの説明を移ってもらえるかしら」
「ああ、そうだな。リーシャの言う通り、まずこれを見てくれ」
リーシャ様に突如ドーム型の何かが現れ、姿が見えなくなった。
まるで鳥かごのような牢獄の形。
「これはこのギャンブルが行われている際に皆にも出てくる。ちなみに中は魔法で拡張されて意外と広い。そして完全防音。中からは脱出不可能」
ダリオは自身の足元にいたゴーレムに紙を手渡し、指をさす。
ゴーレムは指示通り、紙ごと中に入る形となった。
「この通り、ゴーレムと物体は中に入ることも出ることも可能だ」
ゴーレムがドーム魔法から紙を持たずに出てきた。
同時にドーム魔法が解除され、紙を持ったリーシャ様が現れた。
「それなら、もし中でなにかあったときどうするんですの? 2人以上なら片方が助けを呼べばいいのだけど、1人は呼ぼうにも呼べませんの」
「ああ、ムエルニの言う通り。だからこのゴーレムがいる。皆、ゴーレムに注目してくれ」
あたし達は言う通りゴーレムに注目した。
「あーあー聞こえるか?」と、ゴーレムからダリオさんの声が聞こえた。
まるで近くで喋ってるかのよう。
「この通りゴーレム間の通信機能も備わっている。今は全体に知らせる用に、皆に伝えたが、もし個人的に話すならゴーレムを触りながら話してくれ。ただし、必要なら俺の判断で全体に情報を共有することもあるから覚えといてくれ」
指示された通りの動きしかできないゴーレムから更に進化してる。
もしこの子達がいれば部屋にいても、毎日誰かとお話できそう。
「この子欲しいなあ……」そう呟くと、ゴーレムから「それはギルドのだから無理だ」と返事が返ってきた。
ダリオは呆れるようにこっちを見ていた。
聞こえていたらしく、顔を紅潮させながら、あたしは慌てて床に降ろした。
「えー、それからダイスなんだがルールが一つ追加された」
コホンと咳払いすると、ダリオさんはリーシャ様に視線を送っていた。
「今回このダイスには1回しか使えない制約を持たせていたのだけど、それだと使ったあとの状況はわからない。そこで、2回の使用を設けることにしたわ」
リーシャ様は指を一本立てた。
「情報ダイスには二つの効果があるわ。一つは、ライバルチームの投資情報を公開すること。もう一つは、市場の今後の動向を知る権利。このどちらかを、たった一度だけ選んで使える」
「ああ、これにて仮にダイスを振って市場情報がでたら確認して。しばらくしてからライバルチームの投資情報を選択したら見られることになる。ただこれは実際どうなってるかは各自でみてくれたほうが早い」
選択式ってことになるのね。
先に早めに使うのもありな感じになりそう。
ムエルニとミランはどう考えているんだろ?
「選択式……使いどころが大事かしら。ただ、最初に市場を……」
「……選択肢を終盤で使うのもあり」
2人とも使い方を難しく考えてる。
ユエルはどうなんだろ?
「これ2回とも敵情報開示させれば今、自分たちが何位かわかりそう」
皆が皆バラバラに考えている。
だけど共通して、カギになるのはやっぱり選択式の方かな。
「さて、これで一通り説明したわけだが。他に何かあるか?」
「そう言えば、前に私たちを投票で賭けるって言ってたのだけど、現在誰が一番注目されているのかしら?」
「あー、ムエルニすまん。それはこた」
リーシャ様は手をかざしダリオさんの言葉を制した。
そのまま腕を組み、指で何度もトントンと叩きながら、なにかを考えている様子だった。
視線はあたし達を見ているんだけど、なんだかあたしに向いてる気がする。
「そうね。答えてもいいかしら。フェル・ラグンダルトあなたに一番投票が集まっているわよ」
「やはり」ムエルニはそう呟いた。
「以上なのだけど。他にはあるかしら?」
「はい、十分です。ありがとうございますリーシャ様」
なにか理由があるのだろうか?
あたしには判断しかねる。
ミランもユエルも意図がわからないと首を横に振っている。
「さて、私はそろそろ戻るわね。あとは任せるわよ」
「わかった」
リーシャ様は教壇を下り、扉から出て行った。
1人残るはダリオさんだけど、肩の荷が下りたように顔は安堵した様子だった。
「さて、そろそろ時間となるわけだが。準備はいいか?」
ざわめきと戸惑いを帯びた歓声が沸いた。
「ではまずはそれぞれにルームスペースを用意する」
ダリオさんが指をパチンとならした瞬間、あたし達の周りにリーシャ様と同じドーム状の魔法がわいた。
完全に覆うと、薄暗さはなく広々とした空間がそこにあった。
「わぁ! ひろーい!」
「広いですね!」
「うん!」
ユエルは元気に走り周り、あたしもついていくように走り回った。
ミランは戸惑いながらもあたし達について来る。
「この壁、どうなっているんだろ?」
「触ってみたら冷たくもなく、暖かくもないですよ」
実際触ってみるとユエルの言う通り、冷たくもなく暖かくもない。
これが魔法の一種なんてビックリ。
周囲を確認するとあたし、ユエル、ミラン、ムエルニ、ゴーレムの四人と一体。
天井は大人二、三人分はありそうな高さの予感。
奥行きは……遠いような近いような曖昧な感覚に陥る。
音は……あたし達意外全く聞こえない。一人でここに残されたらちょっと怖い……。
「ちょっと、ダリオ。聞いてるのダリオ!」
あたし達はムエルニの方に顔を向けた。
ゴーレムの腕を掴んで話しかけていた。
『なんだよムエルニなにかあるのか?』
「大ありよ。ここは本当に周囲の人には声が聞こえないのよね?」
『ああ、それは間違いなく。なんせルクスが作ったし、俺も体験した』
「分かったわ。あと、あたしたちはホール広場含み、このギルド全体に映っているんですの?」
『それは説明で言ったろ? それから始まると君たち全員が映ると』
「そう、それじゃ終わるわね」
『ああ、時間になったら連絡する』
ムエルニはゴーレムを床に起いた。
あたし達はムエルニの前に集まった。
「ムエルニどうして再度確認したんすか?」
「……あー……そうね……えーっと、うん」
なにか言いた気なのだけど、口ごもって言おうにも言えないでいた。
「なにか言わないとわからないっすよ?」
「あーもー! 分かったわよ。ごめんなさい!」
「いや、私も悪かった。すまない」
「え?」
二人は突如、頭を下げてあたし達に謝罪をした。
急な行いにあたしとユエルは困惑したし、一番混乱してたのはユエルだった。
「ここに来る前に、あなたたちってかミラン。あなたと喧嘩したのは覚えてるわよね?」
「うん、あのとき二人とも自分に譲れないものがあったと思って、喧嘩して悲しかった……」
「……フェル、それはすまなかった。ここから私が説明する」
「まあ、ここは防音だから平気でしょうけど、大丈夫?」
ミランは「ああ」と言って頷いた。
「そもそも私とムエルニさんは喧嘩していない」
「ええ!」
衝撃の事実にあたしもユエルも驚いた。
「……情報を入手するため」
「情報って?」
「……ここにいるのは皆ライバル。だから二手にわかれて聞いていた」
まさかあの喧嘩がブラフだったなんて……。
本気だと思って信じ込んじゃった。
「まあ全員じゃないし、中には警戒して一言も話さない人もいたわね。途中うっとおしい奴もいたけど……」
「ああ……こちらも無理だった」
だから二人ともあれだけ離れていたんだ。
すごいなあ。あたしじゃ思いつかないことをするなんて。
「いやーすごいっすね二人とも。まるで諜報員みたいっすよ。自分も見習わなくちゃいけないっすね」
「あんたじゃ無理よ。馬鹿正直に叫び散らかしてバレるのがオチよ」
「そんなわけないっすよ。これでも凄腕だと言われたことあるんすから」
「全く誰よそんな無駄なこといった馬鹿は」
「本当なんすけどねぇ……」
「まあいいわ。とりあえず私たちが集めた情報をまとめるわよ」
ムエルニとミランが集めた情報によると、ここ最近はミニ競馬やスロットが人気をはくしているとか。他のカジノにない物珍しさがあるからなのか。
ただ、やはりポーカーやブラックジャックの台は根強い人気はあるから、賭けるのは定石ぽいとムエルニは言った。
「まっ、大方予想通りって所かしら。問題はいつ、どこで、何枚を賭けるかのタイミングなの」
「そればっかりは難しいよね」
「……ああ……下手をすれば大損」
「まあそれ以前に一番の問題があるの」
真剣な表情でムエルニは言った。
皆ゴクリと喉を鳴らす。
「あの操作画面ってどうやって出すのかしら?」
「た、確かにどうやって出すんすかね」
「……説明不足」
「確かに操作すれば自然に覚えられるとか聞いてたけど、ここに入っても誰も画面でてなかったね」
ゴーレムから物音がして、皆一旦会話を止め聞いた。
『あーあー、もうじき始まるから準備してね』
「してね。じゃないの! そもそもここに会場にいる人たち皆、どうやってあの操作画面を出すのか言いなさい!」
ゴーレムから返ってきたのは、拍子抜けするほどあっさりとした返答だった。
『……あっ! ごめん忘れてたわ』
ムエルニの顔が、怒りで真っ赤になる。
彼女は声を荒げ、持っていたゴーレムを床に叩きつけようとした。
寸前でミランとユエルが慌ててそれを取り押さえる。
ゴーレムは二人の手の中で、人形のようにぶら下がったまま揺れていた。
『えー、改めて皆に画面の出し方を説明するね。手を前に差し出して念じてくれ“ボード”と』
あたし達も念じると、目の前に操作画面とドームの壁に大きくギルド内にある全体のギャンブル台の名前と数値が全表示されていた。その下には小さく▼10や他には▲3など動いている。1000数値は手持ちの資金なのだろう、それに数字入力できる空白もある。他には12つの球が時間表示、+-表示、数値などもあった。
あたしの見ている画面も皆と全く同じ画面だ。
「この数字が注目度なんだね」
「そうね。これを押さえれば数字が増えて減って」
「皆、見てくださいっす。こんなこともできますよ」
ユエルは操作画面を触りながら少し上にズラすと、ドームの壁に映っていた全体画面が表示していた。そしてなにかを触りながら下に動かすと、スロット台▲20と表示されていた。
「これで同じようにすると別のも動かせるっすよ」
「ユエルあんたもう操作できてるなんてやるわね」
「すごいよユエル」
「流石だ」
「いやー、そんなことはないっすよ」
あたし達はユエルを褒め称えた。
ユエルは褒められたおかげか嬉しそうに頭をかいた。
もしあたしが一人だけなら確実に迷って、遅れていただろうなあ。
『さて、操作方法もわかってきただろうし。今度こそ、トレンド・マーケット開始するよ』




