44話 開幕前の集結と、選定戦の全貌
休みが明け、セブンズミラーのギルド一階広間には職員全員が集まっていた。
それもそのはず、職員全員は専用出入口前に、重要なお知らせが書かれた紙が貼られているのを見ていたからだ。
それは選定戦と名が書かれた紙。
当然、あたし達もその紙を見て広間にいる。
本来ならホールは開かれ、ギャンブルを求める客で溢れかえって、選定戦の案内どころではないはず。どうやらフロア入口の扉はまだ開かれず客は一人もいない。
代わりにいるのは、大勢のギルド職員が大量に並んでいた。
「こんなに人がいるなんて初めて見たね」
「そうですね。こんなに人が多かったんですね」
あたしに同意するようにユエルは頷いた。
「これほどの人数が一堂に会するのも珍しいですわね」
ムエルニの言う通り、実際これだけ集まるなんて早々見られるようなものではないんだよね。
周囲を見回すと、見覚えのある顔ぶれが増え、自分がこの場所に馴染んできたのを実感した。
フロア全体を見渡しても真新しい設備はなく、ギャンブルに使う台はさほど変わったようには見えない。
ただ台や床に関しては綺麗になっている。
「この五日間はルクスさん頑張ったんだろうなぁ……」
ゴーレムに命令して作業している、ルクスさんの光景が目に浮かぶ。
ゴーレムが動いて、ゴーレムが台を運んで、ゴーレムが掃除して――。
「……フェル……戻れ」
ミランの言葉に現実に引き戻される。
いつ始まるのか、なにがあるのかわからない。と言うよりも周りの背が高くて、あたし達は前がほとんど見えなかった。
ミランはあたし達の中では背は高い方だけど、それでも男の人と比べたら小さい方だ。
こんな中でどうやって知らせるのだろうか?
そう思っていた疑問はすぐに消えた。
上空に大きな映像が浮かぶと、ざわめきが一層大きくなった。
「あれはラングレーさんとライネスとリベル様!」
場所はどこかの部屋だとは思うのだけどよくわからない。
新幹部を決める大会であるのだから、幹部達が集まるのは当然なのだろう。
ただリベル様まで王国騎士で忙しい所をわざわざ来てくれるなんて。
それにあの黒い塊は……まさか……。
「リベルさんがいるなんて驚きでしたが。それよりもフェル、あの端にいる黒いのなんなんですかね」
「あれはルクスさんだよ」
「ええ! あの黒い塊が幹部!? まさか魔物だったなんて……」
「ユエル見ておきなさい、あれは立派な人間よ。確かに見た目は魔物にしか見えないの。ただの引きこもりかつ奇行をする人物ではあるのだけど」
あたしは内心苦笑した。
確かに会ったあの時のルクスさんの動きは間違いなく魔物だとも思える。
ただ彼女は人前に出るタイプではないはず。
無理してまで出てくれたんだ。
「……幹部全員……リーシャ様がいない」
「それだけじゃないの。クロウズもいませんわね」
クロウズ……確か幹部の一人だったよね?
あたしはまだ会ったことないしそのうち会えるのかな?
「やっぱり新幹部を決める大会だから、幹部クラスは集まってるって感じっすかね」
「しっ……ユエル黙りなさいな。始まるの」
映像の中では、ダリオさんが指で何かを調整している様子だった。
「えー、テステス。皆やっほー聞こえてるかい? これ一方通行だから向こうからはこっちが見えないんだよね。やっぱ一人は向こう行かない?」
「向こうからしたら、こっちの姿は見えてるんだから大丈夫だろ。それよりもいいから始めろ!」
ライネスが苛立ちから怒鳴りつけると、連鎖するようにルクスさんが「ヒィイイイイィィィ!」と叫ぶと、「大丈夫。彼女は君に怒っていないから心配しないで」と彼女を優しく撫でて落ち着かせた。
なんだか向こうは騒がしい。ただ相変わらずで安心した。
隣を見ると、ムエルニは頭を抱え飽きれ、ミランを見ると少しだけ赤面して恥ずかしがっているのがわかった。ユエルはと言うと、ポカンと呆けて見ていた。
再度映像に視線を向けると、ダリオさんは咳払いをして再度説明するように話し始めた。
「さてまずは、皆が張り紙を見てくれたとは思うけど、察した人はいるだろう。今、ここに全員ではないが、幹部は全員集合している。ただこの前1枠空いてしまった。そこでその1枠を埋めるために、選定戦を行うことを宣言する」
フロア全体をどよめく。
「とまあ、そこですぐにとは言いたい所だけど一週間後のこの時間に選定戦の本戦を行う。実を言うと、まだリーシャが帰って来ていないんだ」
衝撃の発言にフロア全体が一瞬息を呑んだ。
どうしてだろ?
なにか事件事故に巻き込まれ……けどあの人ならあたしと違って自力で解決できるだろう。
「ムエルニさん……落ち着け」
ミランがムエルニの肩を揺らす。
ムエルニの表情は蒼白で、心配と不安が混ざった様子が手に取るように分かる。
あたしはムエルニの手を握った。
「大丈夫、あの人はあたしたちが思ってるよりもすごい人だから。どんな境遇でも自力で解決して戻って来てくれるよ」
「そう……そうよね。リーシャ様が無事に戻って来てくれるわよね」
「うん」
あたしの言葉に落ち着きを取り戻すが、不安なのかあたしの手を握ったままだ。
あたしはなにも言わずにそのまま握り返した。
「まああの人抜きに進めるわけにもいかないので、今回のゲームを事前に知らせることに決めたわけだ。その前にだな」
1枚の紙とコインをダリオさんの手から出された。
「今回の選定戦で参加する者を把握する必要性があるから、参加者はこの用紙に名前を書いてほしい。今回は最大4人までのチーム制。もちろんソロでも参加可能だ。参加しないやつは書かなくていいが、重複してる奴は失格とする」
これだけの参加者がいるのだから、当然参加しないのにわざと名前書いて参加者を落とすという悪知恵を働く者もいるのだろう。
注目する選手……あたしやムエルニはされるのが目に見えてる。
「ただし、わざとなら徹底的に調べ上げて潰すから覚悟しろよ」
紙を何度も繰り返すように指で突く。
警告だろう。ここまでされれば、さすがにやる者はいない……そう思いたい。
「んで次にコインだ。今回の選定戦はこのカジノ全域で見られるようにしている。そこで客だけじゃなく、お前たちも参加者に投票する仕組みとなる。ただし投票数などは表示されず最上位のみ注目度として表示される」
一番注目度が高ければ、そのチームが動向すら注目されるんだ。
ダリオさん、明らかあたし達にそう言ってるようにしか見えない。
「そして投票した奴らだが、そいつが勝てれば臨時ボーナスをやる。もちろん参加した自分自身に投票しても可能だ」
チッ、舌打ちをしたムエルニは爪を噛んだ。
「あの馬鹿、上手いことやってくれたわね」
「……同感。普段興味薄い職員でも注目する」
「それだけじゃないわ」
そう言って、ムエルニは腕をさすった。表情には嫌悪感が浮かんでいた。
「普段、自分とは縁がないと思っている下っ端が、投票を通じて幹部に媚びるようになる。そんな姿を想像しただけで、虫酸が走るわ」
「ムエルニらしいね」
「なに言ってるの? フェルあなたも一番注目されてるわよ」
「どうして?」
「だってあなたがここ最近一番、注目株なのわかってるのかしら?」
そうだった……。
開催するまでの間の期間大変になりそう。
ムエルニは続ける。
「まぁ……あとは誰かを注目させたいような仕組みになってますの。幹部を決める大会なのだから、客にアピールするならまだしも、従業員が投票なんて余計なことをしなくていいはず」
ダリオさんはミランに注目させたいのかな?
ミランに視線を向けるも無表情でダリオさんの事を見ていた。
ダリオさんはミランの性格を分かっていると思うけど……心中どう思っているんだろう……。
「さて、ここまでが大まかな概要。次は当日行うゲームの説明に移りたいと思う。あ、今から説明するのは当日にも同じことを言うので安心してくれ」
両手を広げ、その表情には自信に満ち溢れていた。
まるでこれから発表するものを自慢したい子供のよう。
「では説明しよう。ギャンブル名は【市場投資ギャンブル】」




