41話 再会の奇跡と、運命のダブルダウン
あたしはとめどなく出てくる涙を流しながら、呼んだ人物へと走り出した。
そこに立っていたのは――紛れもない、あの人だった。
村から旅立ち、長い時間が経ったと思う。
だけど一刻も忘れたことはない。
「……マヤ、姉」
声が震えた。あたしの中でずっと探し続けていた存在が、目の前にいる。
夢じゃないかと疑いたくなるほどだ。
彼女の胸に抱きつき、あたしは小さい頃のように人目もくれず、わんわん泣いた。
しばらくして、落ち着いたあたしを子供のように優しく撫でてくれた。
「全く、村にいたときと泣き虫なのは変わらないのね」
「うん、だってマヤ姉と会えたんだもん」
「背は成長したのに中身は変わらないわね」
「えへへ、だけどマヤ姉はより大人っぽくなったね」
大人っぽいなと思っていたのに、当時より魅力的でまるでリーシャ様と雰囲気が似てる気がする。当時は長髪を三つ編みにしてたのに、今はほどいているのか肩まで流れる艶やかな髪が風に揺れている。瞳はあの頃と同じ穏やかさなのに、どこか芯の強さを感じさせた。
あたしの中で想像通りの理想の大人そのものがそこにいた。
「フェル、あなた変わらないわね。一目見た瞬間からあなただって分かったのだから。それに髪の毛も三つ編みにして」
「えへへ、マヤ姉みたいにしたんだ。だってこうすれば、マヤ姉が見つけてくれると思ったから!」
あたしは涙を拭いながらマヤ姉から離れた。
本当にマヤ姉だ。マヤ姉がいるんだ嬉しい!
「マヤ姉、あのねあのね。あたしここに来てからすっごく頑張ったんだよ」
「どんな風に頑張ったの?」
あたしはこの王都に来てからの話をマヤ姉に話し始めた。
マヤ姉はうんうんと、子供の話を聞いてくれる親のように。時には驚いたり笑ったり。そんな彼女と話して楽しいと思えた。
「それでね。あたし、この王都で友達が出来たんだ。ユエルにムエルニにミランにルクスさん……それから向こうはどう思ってるのかわからないけど、ライネス」
「へぇ、たくさん出来たのね。そう言えば、ムエルニさんとライネスさんって、あのセブンズミラーの幹部よね?」
「うん、最初は怖い人たちだったけど、話したりしたら良い人で。特にムエルニは何度も助けてくれた恩人」
「もしかしてフェルはセブンズミラーの幹部と仲良しなの?」
「うん! あたし実力認められて、セブンズミラーに入れたの。今はそこで働いてるし、そこで色々あって仲良くできたんだよ」
「そう、そんな人たちにフェルは仲良くしてもらえるなんて羨ましい」
「そうだ! マヤ姉も一緒に行こう! 皆に紹介したいの」
マヤ姉はあたしの頭を撫で、優しく微笑む。
「そうね。フェルと仲良くしてくれた人たちにはお礼をしなくちゃね。けど今は会えないのよ」
「どうして?」
「先にやることが出来ちゃって。フェル、着いて来てくれるかしら?」
なんだろ?
マヤ姉が優先してしなくちゃいけないなんて。
あたしは断ることもなく、首を縦に振った。
手を繋ぎながら行くも、あたしが小さかったからマヤ姉の手は大きいと思っていたけど、今はあたしも大きくなっているからか同じぐらい手も大きくなったのが分かる。
「ここよ」
そう言い、マヤ姉は止まった。
目の前には『黄金遊戯会』と名前の付いた看板がある。
中に入る人は皆、スーツやら正装などで着飾っていた。
こういう場所は少なからず一つしかない。カジノだ。
「マヤ姉、ギャンブルでもするの?」
「昔のフェルのことを思い出してね。それに、ここ王都だとカジノも盛んでしょ? 私もあれから腕を磨き上げたし強くなったの。フェルにだって良い所見せちゃうよ」
「けど皆ちゃんとした服装だよ? あたしたちはそれっぽい服装でもないし」
「大丈夫」
マヤ姉は羽織っていたローブに包まれたあと、広げると爽やかなワンピースへと着飾っていた。
羽織っていたローブをあたしの身体に包ませ、広げると青色のドレスを着ていた。
「わぁ、すごい! 服装が変わった!」
「このローブにはそういう魔法が細工してあるの。終わったら元に戻してあげるわね」
あたし達は中に入ると、セブンズミラーとはまた違う雰囲気を醸し出していた。
マヤ姉はウェイターになにか話をつけている様子なのだけど、なにしてるんだろ?
ウェイターからコインを受け取っていた。
「フェル。はいこれあげるわね」
「え? これってコイン? セブンズミラーとなんか違う」
コインの厚みや大きさは同じなのだけど、両面には小さく黄金遊戯会と彫られている。
それに中央には1000と書かれていた。
ムエルニが言っていた通り、カジノごとにレートは違うのを思い出す。
コインにはカジノ共通で順に白、赤、黄、緑と高くなっていく。中には金貨1枚で価値の高い緑のコイン10枚や20枚に交換できるとか。
マヤ姉が渡してくれたのはその緑コイン、つまり最高級。それを5枚もくれた。
「マヤ姉、こんなに貰うなんて。自分の分は自分で出すよ」
「いいのよ。それに試してみたいこともあってね。さあフェル、遊びましょう」
マヤ姉は嬉しそうにカジノを散策した。
スロット台エリアにバカラ台付近にポーカー台など、基本的にはセブンズミラーと変わらないのだけど、一つ違うのは客層。
セブンズミラーは客層が一階と地下に別れているが、ここは服装からしてドレスコートを前提としているせいなのか、客層からして皆上品に見える。
ウェイターがトレーを差し出した。
お酒しかなく、あたしは断るがマヤ姉は受け取った。
ドリンクが無料であるのはここも変わらないらしい。
「マヤ姉なににするか決めた?」
「そうね。ならブラックジャックにしようかな」
そう言い、あたし達はブラックジャックをしている台へと向かう。
先客が四人いた。しばらく様子を見ていると、三人、二人と人が減り、残り一人もいなくなった時に、マヤ姉がやるらしく10枚の黄色コインを置いて座った。
「フェルあなたはどうするの?」
「あたしはマヤ姉のを見てるよ」
ディーラーがカードをシャッフルして配る。
マヤ姉のカードは♣5、♦Jの16。
ディーラーは♦Aとホールカード1枚
「ヒット」とマヤ姉がそう宣言。カードが1枚きて開くと♦3の合計値19。
少し考えながら「スタンド」宣言。
ディーラーは裏のカードを表にすると♦A、♣10の合計値11。
次々とカードを増やしていき、18まできた。次の1枚を開くと♥2で合計値20。
マヤ姉の負けだ。
「あら、負けちゃった」
コインをディーラーに取られるも、次に再度黄色コイン10枚賭ける。
そう何戦かしていくと次第にコインが減り、完全に底がついた。
「もうないわね。どう? フェルもやってみない?」
「コイン返すよ。マヤ姉が楽しそうにしてるの見てるの楽しいし」
「いいの。それはあなたのだから……そうね、ならそれを使って増やせたら、私に返してくれる?」
あたしは少し悩むが、マヤ姉がそう言うならと緑コインを1枚置き席に着いた。
カード2枚配られた。
♣3、♦8の合計値11。
まだ余裕があるから「ヒット」宣言。
♦9が来て合計値20。
「スタンド……うう~どきどきする」
ディーラーがカードを次々と追加して捲る。
♥10、♥3、♠A、♥4、♠5の合計値23。
「やった! 勝った!」
コインが2枚に増えた。
このまま引き続き、その2枚を賭ける。
再度2枚のカードが配られ、確認すると。
♣K、♥4の合計値17。
「まだいけそう……スタンド!」
ディーラーのカードは♣5で合計値22。
「負けたぁ~……」
「そうそう連続で勝てないわよね」
「待っててマヤ姉、返すから。今度は2枚!」
マヤ姉に返すならこれぐらい必要だよね。
コインは返さなくてもいいって言ってたけど。
配られたカードを確認すると。
♦5、♦Aの合計値6。
「スタンド!」
♦5、♦A、♣8の合計値14。
「ダブルダウン!」
マヤ姉が驚いたように目を丸くした。
「フェル、今の合計は14よ。本当に賭け金を倍にする気?」
「うん、これをすれば更に増えるんだよね?」
「ええ、だけど最初に賭けたコインと同額を追加で賭ける必要があるわよ?」
「えっ……うーん」
さっき2枚出したから、今の手持ちはコイン2枚のみ。
これを出せばもう賭ける物がない……。
だけど賭けたら倍以上に増やせる……。
「賭けてみたらどう? 元々あなたにあげた物だし。無くなったら無くなったよ」
マヤ姉はそうは言ってるけど、やっぱり返したい。
あたしは悩んだ挙句、2枚更にベット。
カードが1枚配られる。その中身は――。
♠7の合計値21。
「や、やった! やったよマヤ姉!」
「ダブルダウンにブラックジャック……」
周囲の人々は足を止め、あたしの賭けていたのを見ていた。
「まさか」「あそこでダブルは」「運が良かっただけだろ」など口々に言っていた。
「これでいくらになるんだろ? ダブルダウンだから8枚にブラックジャックだから12?」
「違うわよフェル。4枚からブラックジャックで10枚になるわね」
10枚のコインがあたしの前に置かれた。
それを持ってあたしは席を立った。
「いいの? 資金増えたんだからもっと勝負できるわよ?」
「いいの。あたしマヤ姉と楽しめたから」
「そう、あなたが満足なら十分。もう出ましょうか」
あたしは出る前にコインを全てマヤ姉に渡した。
元々マヤ姉の物なのだから……そう伝えると困り顔になりながらもマヤ姉はコインを受け取った。
「フェル楽しかった?」
「うん!」
「それは良かった。私もあなたと一緒で楽しめたわよ」
「えへへ、うれしいや。マヤ姉とこれからも一緒にお話したり、お買い物したりできるし」
「そうね。だけど、私はまたやる事が増えたから、しばらく会えないかもしれないの」
「え、それじゃあまた別れるの? 嫌だよ……」
「大丈夫。私は王都にいるし、あなたはセブンズミラーの従業員でしょ? 私はあなたの居場所は分かってるわけだしね」
「うん……」
せっかく会えたのに離れるのは悲しい。
だけどまた会いたいけど、今マヤ姉はなにしてるんだろ?
「そう言えば、マヤ姉って今何してるの? 前に冒険者組合で聞いたら2年前に行方不明って聞いたから怖かったの」
「怖い人に狙われてね。どうしても隠れなきゃいけなかったの」
「え……だったらすぐに知らせな」
マヤ姉はあたしの口を閉ざすように、指で口を優しく押さえた。
まるでそれ以上は喋っちゃいけない雰囲気にさせて。
「もしかしたら組合にも手は及んでいるかもしれないの。もしかしたらあなたの知り合いにも……だから下手に連絡は取れないのよ。わかってね、フェル」
あたしはコクりと頷いた。
あたしが知らない所でそんなのがあるなんて……。
「今日は本当に楽しかったわよ。もしも私と……いえなんでもない、気にしないで」
あたしとマヤ姉はローブを羽織ると元の服装に戻った。
別れるのは惜しかった。ずっと一緒に居たかった。
ただ今生の別れでもない。だからいつかまた会えると信じて、あたしはマヤ姉と別れた。
マーヤ・ディラントとフェル・ラグンダルトは互いに見えなくなると、マーヤは自身の手を見つめた。
「……フフ、やっぱり村でのポーカーもムエルニとの決戦も今回のも、ただの偶然じゃなさそうね。また会いましょうフェル・ラグンダルト」
ローブのフードをかぶるとどこかへと姿を消すのであった。




