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純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
3章

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36話 友の誓いと、暴かれた不正の連鎖

 喧騒から逃れるように、あたしは職員用通路に足を踏み入れた。

 フロアの熱気とはまるで違う、ひんやりとした静けさが全身を包む。

 遠くで聞こえる歓声が、今のあたしにはどこか遠い世界の音のように感じられた。

 窓のない廊下は、壁に埋め込まれた魔法石が淡い光を放ち、昼間のような明るさだ。その光が、足元の影をぼんやりと引き伸ばしていた。

 地下フロアも明るさはシャンデリアだけじゃ足りず、魔法石が壁の上下に等間隔で埋め込まれたおかげなのだろうか。

 この廊下通路ですら、これだけの魔法石が輝いている。フロアの賑わいを保つために、どれだけの魔法石が使われているんだろう。考えただけで、頭がくらくらした。


「どれぐらい経ったんだろ?」


 外はまだ明るいのか暗いのか不明。いや確か最後に窓から外を見たときは夕方だったから今は暗いのかな。

 そんな事はどうでもいいや。

 俯いて歩いているのかわからないけど、何だか足取りも重くとても疲れた。

 ゴーレムに補充、ポーカー対決、どちらも肉体的な疲労じゃなく精神的疲労を感じさせられる。


「フェル! フェル!」


 あたしの名前?

 そう何度も呼ばれ気のせいだと思う。

 無視して歩いていると、突如肩を掴まれ引っ張られた。


「あれ? ミランさん? どうしたんですか?」


 心配している表情であたしの顔を見ていた。


「どうもこうもない……心配してきた」

「あー、そう言えばあたし負けたんだっけ……くやしい!」


 無理やり声を張り上げ、悔しさを装った表情を作る。

 きっと、その表情はひどく歪んで見えただろう。


「彼らはイカサマを使ってた……私が気が付かなかったせいで全財産が」

「そうなんですね。ううん、気にしないで。あれはあたしが勝手にやっただけだから」


 と言っても、お金失ったのは悔しくないとは言い切れない。

 彼等に謝らせたかった自己満足でやっただけ。完全に自業自得。


「いいやダメだ。今、兄さんとムエルニさんが戦っている。敵を取ってくれてる。来てほしい」


 彼女もあたし同様に完全に意固地になっている……このままだと押し問答になるって……あれ?

 今、兄と言ったような。


「お兄さん? お兄さんがいるんだ。ミランさんは凛々しいからお兄さんもすっごく恰好良いんでしょうね」

「……!」


 あたしの言葉にハッとしたのか、思わず口走ったのかミランさんは口に手をあてた。


「……すまない、兄とここで一緒に働いているのは内緒にしてほしい」


 どうしたんだろ?

 真剣な眼差しであたしを見ている。

 なにか事情があるんだろうなと、疲れている彼女の表情で察せられる。


「わかりました。秘密ですね」

「……すまない」

「……そのお兄さんってもしかして、ダリオ・ラングレーさん?」


 なんとなく今までの会話から何となく想像ができた。

 図星なのかミランさんの目が少し見開くも、諦めたように頷いた。


「ああ、あいつと私は兄妹だ。何で秘密にしてるか事情まではまだ話せないが」

「ううん、わかった。ラングレーさんかー。あ、けどそうなるとミランさんもなるのか……」

「私と一緒のときはダリオでいい」

「うん、わかりました! それにしてもあの人、いつも楽しそうにしていますよね。今日もムエルニにふざけてたけど」

「そうだな。普段はおちゃらけてるが、やる時はやる男だ」


 彼女との問答にあたしは思わず疲れも忘れ微笑んだ。


「……どうして笑っているんだ?」

「え? だって、楽しそうに話してくれますから。あたしにポーカーの事を教えてくれる時は凛々しくもあったし」

「そんな事はない……もっと応える事ができた。上手くあれだけしか応えられなかった」


 あたしは彼女の申し訳なさそうな顔を触る。


「もしあそこでミランさんがいなかったら、あたしあのまま何も出来ず今以上に負けてたと思う。善戦出来てたのはミランさんのおかげ」


 彼女の不安を消すようににっこりと笑った。


「そうだ! あたしたちまだ友達になっていませんよね? 友達になりましょう!」


 ミランさんの目は驚きに満ちた。

 口元が次第に上がり、微笑みを見せてくれた。


「……ああ、友達だ」

「やったー!」

「あ、あと友達……なんだから対等に話したい」

「それって、うん、分かった!」


 心開いてくれる彼女に嬉しさを感じる。

 不安ばかりじゃない、良い事だってこうもあるんだから。


「それじゃあ戻ろうか……フェル?」


 あたしは首を横に振る。


「ごめんなさいミラン。確かにお兄さんとムエルニの結果は知りたい。けど、先に行かなきゃいけない所があるの。どうしてもその人に会ってすぐ話を聞かなきゃいけない事があって……」

「なにか事情があるのかはわからないが……分かった。なら、先に戻ってる」


 ミランは(きびす)を返し、フロアへと戻る。

 あたしはそのまま階段を下り地下カジノフロアを覗き見た。


「ここにはいないか」


 中では人は減っているとはいえ、まだゴーレムを動かして掃除しているのか、人はそこそこいた。

 その中にユエルが探索するように動き回っているのも発見する。

 動き回っているせいか足元にいたゴーレムにぶつかり転んだ。

 組んだであろう人が鬼の形相でユエルに向かって走っている。

 ユエルは驚きの表情をして、慌てて逃げた。


「ふふ、ユエルは相変わらず元気だなぁ……あっ、捕まった」


 あたしはその場を後に休憩室を覗き込むも、こちらにも人はいるがゴーレムを動かしている職員ばかりだった。


「知っている箇所が他に思い浮かばない……そうだ、あそこに行けば居るのかな?」


 そのまま階段を上り、三階へ。

 ある扉の前に着くとノックを数度鳴らす。


「リーシャ様、おりますか?」


 返事はない。

 ドアノブを持ち少し動かすと、鍵がかかってないのか動く。

 扉の隙間から光が漏れ、少し目を瞑る。


「開いてる……失礼しまーす……」


 扉を開け、中を覗き込む。リーシャ様の気配はない。

 以前ムエルニと対戦した台は撤去され、部屋の中央には一つのテーブルを挟んで二つのソファーが向かい合って置かれていた。本棚や、奥の窓近くにある書斎のテーブルには、たくさんの書類が積み上がっている。

 中に入り、ソファーに腰を掛けた。

 窓の外を見ると完全に暗く夜なのがわかる。

 テーブルには、小さなゴーレムがちょこんと座っていた。

 魔法石が抜かれているせいか、その黄金の身体は、照明の光を反射するばかりで、まるで眠っているかのように動かなかった。


「リーシャ様はああは言っていたけど、やっぱりマヤ姉の情報は気になる。今ある情報だけでもいいから知りたい……」


 しばらく待つも誰も来ず。

 暇な時間もあるせいか、次第に瞼が落ちそうになる。

 魔法石の補給やポーカーの対決で精神的に疲労が溜まっていたのがわかる。

 それにソファーの沈み具合が気持ち良く、まるでベッドに座っている感じ。

 次第に眠気が襲ってくるのがわかる。


「ダメだ。待たないと……マヤ姉のこ……と……」


 あたしは完全に眠りに落ちた。



************



 フェルと別れてから私は一階フロア会場へと戻ると、相変わらずポーカー台には人だかりが出来ていた。

 進もうとするも、人の壁で通れそうにない。

 歓声で盛り上がりもわかるのだけど、人だかりで足止めをくらう。

 飛んで覗こうとするも見えはしない。


「すまない……通らせてくれ」


 意を決して無理やり人込みを進む中、歓声が更に鳴り響く。

 今の状況はどうなっているのか私にはわからない。

 ただ、盛り上がりは最高潮を迎えているのがわかる。

「すごい、勝った!」「二人ともあんな手あるのか?」など、周囲の人間が関心させられるような対決だったのは想像に難くない。


 もうすぐだ……。

 近づくにつれ鼓動音がなる。

 私はようやく群衆を抜けると、四人の姿ははっきりと見え、今まさに勝負の余韻に浸っている光景を見た。

 ディーンとエールニアは俯き、ダリオがムエルニさんにハイタッチをしようとするも、ムエルニさんはカードを手に持ちダリオに怒っている。

 台の上を見るとダリオとムエルニの方に山のようなコインが置かれている。

 私は彼等に近づいた。


「勝ったんだな」

「ああ、さっき終わった所だよ。そう言えば彼女は? 大丈夫だった?」

「別の用があるとかで一人で行った。落ち込んでる風には見えたが元気だったと思う……」

「そっか。いやー、ムエルニは容赦なくってさ危なかったよ。危うくコインを失う所だったよ」

「はぁ!? あなたがあの時、あのカードを捨てなければもっと速く決着したでしょ! 私が上手く役を揃えれたから良かったものの!」


 怒りの表情のムエルニさんはやっぱり怖い。

 私は苦手なのだが、フェルはよく彼女と楽しそうにできるな。

 それに、この場でヘラヘラしているダリオの精神も見習うべきか。

 ただ、それ以上に気になるのが二人ほど……。

 私はそちらに視線を移すも、何故かディーンとエールニアは下着姿にいた。


「ああ、彼ら? 特別ルール追加したんだよ」

「特別ルール?」

「俺とムエルニ、彼等二人でペア組みをする。そうして負けたほうは服を脱ぐと」

「なんでそんな馬鹿げたことを」


 ダリオは一人の女性を人さし指でクイクイとして呼んだ。

 呼ばれた女性はディーンとエールニアと思われる制服を持ち、ビクッと肩を震わしながらダリオの前に立ち制服を差し出す。


「まずはこれかな」


 受け取った制服の腕の裏生地を触ると、中から数枚のトランプカードを引き出した。


「上手く改造しててすごいよね。これを使って最悪、手元のカードと交換すればいいんだから。まあカードはここのだろう。どっかの台からくすねてきたのかな?」

「……あのときか」


 魔導換金機を持って来るときに思い付いたのか……。

 エールニアの実力からしたら可能性はあるか。


「まあこう言う事もあるから今後は対策かなぁ……めんどくさい」

「嘆くのは後にしなさい。先にやる事あるでしょ!」

「へいへい」


 制服のポケットを弄ると、2枚のカードが出てきた。

 ディーンとエールニアのカードだ。

 魔導換金機で読み取らせてから彼らの前に放り投げた。


「さて、私たちの勝利となったから賭けは成立。私はこれでいいわよ。それであなたは他にあるでしょ」

「ああ、まずはディーン・マーティン、エールニア・ジェルトル、両者二名のギルドから除名し追放を決定する。そして……」


 ダリオは視線を先ほど制服を持たせた彼女に向けた。


「ミーシャ・マテシア、君も彼らと同じく除名して追放(クビ)だ」

「な、なんで! 私は彼らと違って賭けもしていないのよ!」

「んー、だって君、ルーレットに破壊工作したでしょ?」


 破壊工作? 何の事だろ?

 わざとじゃないのならまだしも、故意にしてしまっているなら信用を失わせる行為に値するからクビも確かだが。

 彼女の表情からは焦りの色がうかがえるので、ダリオの言い分は間違っていないのだろう。


「しょ、証拠はあるんですか? 私がしたっていう証拠。なければ冤罪じゃないですかっ!」

「あー証拠ね。リーシャに言われて渡されてたんだっけか」


 ダリオは自分のポケットを弄って小さい水晶を取り出す。

 魔力を込めたのか水晶が光を放ち、空中に映像が現れた。

 ディーン、エールニア、ミーシャの三人がルーレットに何やら細工している様子が映っている。


「これね。まあ、あんな壊れ方したのがそもそもおかしいし、ルーレットを調べたら、すぐにとは言わないがしばらくしたら壊れるって寸法らしい。あとこれは仲間が徹夜し続けて探し出したものだそうだ」


 証拠が出たのがきっかけでミーシャは力なく地面に座り込んだ。


「どうしてそんな事したんだ?」


 問い詰めるダリオの声には、怒りさえも残っていない。ただ、決定的な証拠という名の引導を渡しながら、彼は道端に転がる石ころでも視界に入れたような、無機質な蔑みを彼女に注いだ。もはや彼女は、彼にとって慈悲をかける対象ですらなかった。

 彼女は項垂れたまま口を開く。


「……恥をかかせようとしたのよ。ただでさえムエルニ、あんたが偉そうだったから。ディーラーをしてる時に壊れて恥をかけばいいと」

「だけどムエルニがディーラーをすることはないかもしれない。他の誰かがその場に立っていたかもしれないんだぞ」

「……それでも良かったわ。壊れて、誰かが困り果てている無様な姿を見るのは、いつだって楽しいもの」


 その言葉を聞いた瞬間、ダリオの瞳からわずかに残っていた温度が完全に消えた。彼は汚物に触れるのを嫌うかのように、一歩だけ身を引く。


「……理解できないな。君のその矮小(わいしょう)な愉悦のために、どれだけの労力が無駄になったと思っている。なぜ、それほどまでに価値のない理由で、これほど愚かな真似ができたんだ?」


 ダリオが吐き捨てた言葉は、質問というよりはもはや出来損ないの出来事を検分するような冷徹な断罪だった。

 そんな彼女に追い打ちをかけるように、ムエルニは胸倉をつかんだ。


「全く、幼稚で下らない事したわね。まあこんな下らないことはどうでもいいけど、私は許さないことが一つあるの。あの廊下でフェルたちと揉めたあげぐ、胸倉を掴んで暴力を振るおうとしたことをね」


 真顔の表情。口調そのものは冷静だけど、その瞳には怒りを宿している様子だった。

「本当、下らない」そう言って彼女は手を離すと、髪の毛をかきあげた。

 私は勘違いしていた。先ほどまで彼女が恐ろしい人だと思っていたが、彼女はフェルに対して真剣に怒っているのを知って嬉しく感じた。


「さて、解決もしたわけだし……あっ」

「ん……どうし……」

「なんなの……」


 みなの視線がまだ空中に浮かんでいる映像に注目を集めた。

 フェルがディーラーとして立ってルーレットに玉を転がそうとしている所。

 勢い良く回したのか、玉が亀裂に引っ掛かり空中に飛び上がる。

 視線は玉を見ているのだろうけど、そのまま上に向かって行ってるのがわかる。


「そう言えば、玉が当たってシャンデリアが落ちたと聞いたのだけど。あの玉も仕掛けた物なのかしら?」

「いや違う。シャンデリアは経年劣化で落ちたのは判明したが、普通のルーレットに使用する普通の玉だ。それでもただ単に当たって落ちるなんて、ありえないと俺たちは結論付けた。なぜこうなったのかは……さっぱり謎だ」


「ふふ、フェルらしい」そう言いながらムエルニさんが笑うと、私も同意するように笑った。


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