33話 挑発への怒りと、全財産の賭け
あれから何度かゴーレムが止まるたび、魔力を供給した。
あたし以外にも数名は魔力を注げる者はいた。
ただ、1人だけで魔力を注ぐとなると疲れるし間に合わせることができない。
話を聞くと、6人中3人は魔法が使えないと判明。そのうちの1人がミランさんも含まれていた。
魔力消費による疲労が蓄積し、終盤になると椅子に座って休憩を取らざるをえなかった。
途中、ミランさんが気遣うように「大丈夫か?」と声かけしてくれるのは内心嬉しかった。
ゴーレムは指定したポーカー台周辺の掃除を終えたのか、ちり取りに入ったゴミを見せつけるように誇らしげに振る舞った。まるで小さな子供が褒めてもらいたそうにしているかのようで、あたしは応えるようにゴーレムの頭を優しく撫でた。
「終わったな。あー疲れた。これであとは呼んで確認か」
Aは大声で案内人を呼び、案内人は台の床下や周辺を隅々まで確認していた。
「さて、このゴーレムを使って何か疑問に思った事はあったか?」
「そうっすね。命令に従順なのはいいんすけど、石の効力切れが何度もあるから再度充電が必要って部分ですかね」
性能のテストも兼ねてと言った感じだろうか。案内人は何度か頷くと、手にもっていた紙に何かを書き連ねる。
「あとは動作も遅いから時間がかかる」
窓を親指でクイッと指す。確かに夕焼けの光が差し込み、カジノを照らしていた
夜ではないがAの言う通り、完了するまで時間はかかったのが視覚的にも見て取れる。
案内人は書き終えるとゴーレムを持ち上げ移動しようとする。
「確か終わったら遊んでいいと言っていたんすけど、この台で使ってもいいんっすよね?」
「ああ、それは上からも言われている。好きにしなさい」
案内人は他にも呼ばれたのか、そちらへ向かう。
「約束覚えているよね」
Dに言われ、あたしは仕方がなく頷くしかなかった。
もう逃げられると言う雰囲気ではない。
「ディーラーは……ああ、してくれるかい」
Aがトランプを持ちシャッフルした。
「ポーカー台だ。ならテキサス・ホールデムでしようか」
「……テキサス・ホールデムってなに?」
あたしは素直に疑問を投げかけた。
そもそもポーカー自体があんまり分かっていないから当然の事。そんなあたしの投げかけに、一同は目を丸くする。
「は? お前このカジノの一員だろ? 知らないなんてありえるか? オマハ・ホールデム、セブン・カード・スタッド、ファイブ・カード・ドローも!?」
「……だってあたしはポーカー自体あまりやった事がないの。名前もわからないけど、昔やった事あるのは、カードを引いて手札を揃えることぐらい」
男性陣は鼻で笑う。
そんな彼らを見てあたしは俯き、悔しさよりも惨めな気持ちになる。
やはり挑まれても断るべきだったのだろうか……。
断らなかった手前、受けないといけないと思っていたのに……。
こんなことになるなら、やっぱりやめる。そう口を開こうとした瞬間あたしの前に麦の穂のような金髪が目に映り込んだ。
あたしはそれが誰なのか知っていた。
「彼女は初めてかもしれない……が、私が教える」
「ミランさん……」
嬉しかった。
沈んだ気持ちがミランさんの言葉により、少し気が楽になった。
彼女は無表情だけど、横顔からでも真剣さが伝わる。
あたしもそれに応じたいと思えた。
「まあいいけど。んでどうする?」
「テキサス・ホールデム……でいい」
「りょーかい」
Aがディーラーを勤め、D、B、C、あたしで座る。
ミランさんは参加はしない代わりに、あたしに教えると条件で横に付いた。
カードが配られ、コインも50枚各自に配られる。
コイン自体は今回みたいな従業員用のお遊びコインらしい。
本番、つまりお客さんが実際に使うコインはまた別のだと言う。
「そうだな。参加費として5枚賭けてもらおうか。ディーラーはカード配るだけで参加費はなしね」
ミランさんはコインを5枚掴むと前に出す。
残り45枚のコイン。
「大丈夫……勝てば戻る」
ディーラーがシャッフルしたものが、D、B、C、あたしへと回り、あたしも他と同じようにシャッフルした。
これでカードの中身は完全に混ざりあったと言う証拠になるらしい。
シャッフルしたカードは配られ、あたしの前にカードが2枚来る。
あたしは開こうとするも、ミランさんは手を乗せ閉じる。
「説明する……このゲームはディーラーが出すカードの組み合わせ。手札2枚と場のカードで役を作る」
「けどまだ場にカード出てないよ?」
「それはいい、手札を確認……どのくらい勝負できそうか作戦を考える」
あたしは言われた通りカードを確認。
♥3、♦6
「次に各自“フォールド”、“コール”、“レイズ”、“チェック”の4つが入る。手札が悪ければ“フォールド”つまり参加せず降りればいい」
B、C、Dともにチェック宣言。
あたしの番だ。
「チェックはまだ誰もベットしていないときに、賭けずに様子を見る……だ」
「なるほど、ならチェック」
Aが手前にある3枚のカードを開く。
♦9、♥J、♥6
B、Cはフォールド宣言。Dはチェック宣言。
「ここで自信があればレイズ宣言……掛け金を何枚かだす」
手札と場には6のペアが揃っているのだけど……無理しないでチェック宣言をする。
Aは山札から1枚カード取り出して表で出した。
♦9、♥J、♥6、♠8
「さて、様子見はお終い。レイズ10枚」
10枚のコインがDの前に出される。
「ここで応戦するならコール。同額のコインを賭ける。さらに上乗せするならレイズ。彼が出した10枚よりも多い、11枚以上を賭けるの」
どんどん、上積みにさせるのね。今は45枚しかない。
35枚となるのはいいとしても、このタイミングで来るのは怪しいかも……。
「ううん、フォールド」
「なんだ、乗ってくれるかと思ったのにつまらない」
Dはカードを表に出した。
♥9、♠9
「9のスリーカード……降りて正解。勝てるとしたら同数字の10以上やストレート以上」
Aは払いだされたコインを回収しそのままDに渡す。
「そういえば役ってどうなるの?」
「わかった……ディーラー、デック貸して」
「なぜ?」
「この子に教えるため。それぐらいの問題はないはず」
Aは少し躊躇いをもらす。
時間をかける必要性がないはずだが少しもたつく様子。カードを集め、束をミランさんに渡す。
Aから手渡された束の中から1枚ずつ抜き取り、あたしの前に役の強い順番で出した。
・ロイヤルストレートフラッシュ:同じ図形で(例:♥A♥K♥Q♥J♥10)
・ストレートフラッシュ:同じ図形で連続する5枚(例:♦2♦3♦4♦5♦6)
・フォーカード:同じ数字のカード4枚(例:♥2♣2♦2♠2)
・フルハウス:3枚同じ数字+2枚同じ数字(例:♦2♥2♠2♦3♥3)
・フラッシュ:同じ図形5枚(例:♥2♥5♥7♥9♥J)
・ストレート:数字が連続した5枚(例:♦2♥3♣4♦5♠6)
・スリーカード:同じ数字が3枚(例:♥2♠2♦2)
・ツーペア:二組のペア(例:♥2♦2♥3♦3)
・ワンペア:同じ数字が2枚(例:♥2♦2)
・ブタ:何も揃ってないカード
・ハイカード:ブタではあるが手持ちの数字が高い数字順の勝利(例A>K>Q>J>・・・2)
※同数字の場合はより高いカードの勝利
「以上が役……返す」
カードは回収されると再度シャッフルして配り直した。
♥8、♦8
揃ってる。あたしはミランさんを見ると、彼女はコクリと頷いた。
あたしはコインを5枚出してレイズ宣言。
「顔に出ているし、それじゃ強い手札だって丸わかりじゃない? フォールドで」
他も同じ考えなのか全員がフォールド。
「すまない……」
「ううん、いいの。こう言う事もあるんだ。なるほど」
参加費の合計コイン15枚を貰えたので現在60枚はある。
他はBが40枚、Cが40枚、Dが60枚。
少しだけ余裕が出たので、レイズすることもできる。
次ターンが周り、あたしがきたカード。
♥6、♦6
手札にはワンペアができている。
全員がチェック、当然あたしもチェック宣言。
さっきみたいに今レイズしたら確実に疑われる。
Aが手前のカードを開く。
♥10、♥A、♠10
「レイズ10枚」
Dが宣言。
1枚でも10があればスリーカードとなるわけだ。
ただAが手札にあるのみなら、ツーペアであたしと同じとなるわけか。
余裕がある今ならあたしもしたほうがいいだろう。
「コール10枚」
他も続くようにコール宣言。
Aが1枚カードを引き、4枚目が表にだす。
♥10、♥A、♠10、♥3
Bはフォールド宣言。
C、D、あたしはチェック。
表には5枚目のカードが表に現れる。
♥10、♥A、♠10、♥3、♦5
惜しい、これが6ならフルハウスできたのに。
現状は10と6のツーペアだ。
「もう一度レイズ10枚」
自信満々にレイズ宣言を放つD。
ここは乗ったほうがいいだろうとあたしはコール宣言をする。
追いかけるようにCもコール宣言。
今コインを出しているのは参加費合わせて25枚。フォールドしたら残り枚数35枚となる。
少し痛手だけどここは乗ってみるのも手か。
「レイズ10枚」
Cは諦めたように卓から手を放した。
「だめだ、フォールド」
Cは降りる。これで実質Dとあたしの一対一。
Dは乗るようにコールを宣言。
「それじゃ手札開示ショーダウン」
Dは♦A、♥7でAのワンペア。
あたしは♥6、♦6のワンペア。
Dのほうが数字が強いのであたしの負けだ。
この三戦をして各自の収益を見て見ると。
他はBが25枚、Cが15枚、Dが135枚、あたしは25枚。
四ターン目、あたしに配られた手札。
♦5、♠10
「チェック……」
あまりにも手札はよくないのか声が低くなるのが自分でもわかる。
BとCはチェック宣言。
だがDはそこを突いてか20枚をレイズ宣言。
「まだディーラーのカードが開いてないけど、良い手ならコール……もあり、無理をせず次のゲームに賭けてフォールド……も手」
「まさか勝負に乗らず降りるってのかい? 本当にあのムエルニに勝ったのかい? まさか、僕に手加減してる?」
Dが煽るように言ってきたけど、ミランさんのアドバイス通り、残り枚数からしたら確かに無理に行くのは危ないよね。
「フォールド」
「下手に無理に行く必要がないのは正解……まだディーラーが開いてない……から」
「残念。まあいいけどさ」
B、Cも同じくフォールドして降りる。
五ターン目、カードが配られる。
♦3、♦8
手札は良くないように思える……もしかしたら引くカードによっては可能性もあるかもしれない。
先ほどみたいにならず初手は全員チェック宣言。
Aがカードを表にする。
♦10、♥3、♠6
3のワンペアが来ていた。賭けるチャンスだけど動かせない……。
「レイズ10枚」
Cがレイズで動く。後がないのに余程良い手なのか。
BはフォールドだがDは続くようにコール宣言。
悩むが、ミランさんの言っていた良い手なら賭ければいいと言う言葉を信じてコール宣言。
Aがカードを1枚表にした。
♦10、♥3、♠6、♦K
Cは自信ありげなのか残り全て賭けるようにオールイン宣言。
「オールインは手持ちのコインを全て賭ける行為」
Bはコインに余裕あるせいかコール宣言。
あたしもコールを宣言した。
Aがカードを山札から取り出し、ラストカードを表にする。
♦10、♥3、♠6、♦K、♦5
♦のフラッシュとワンペアが揃った。
CはコインがないのでDからなのだが、何やら考え込むがレイズ10枚を宣言。
あたしはオールインかフォールドか。
「もちろん、オールインです」
「さて、全員出揃ったから手札開示、ショーダウン」
Cは♥6、♣10ツーペア
Dは♦7、♦9のフラッシュ。
あたしは♦3、♦8のフラッシュとワンペア。
「この場合って、どうなるんだろ?」
「両者ともフラッシュ……ワンペアはあるけど除く……が、フラッシュ同士なら、一番高い数字を持っている方の勝ち。……つまり私たちの負け」
手持ちのコインが0になり、これ以上賭けられない。
コインが回収され、目の前は空虚のようになにもない。
「ごめんなさい。せっかくアドバイスしてくれたのに」
「いやいい……もう少し思慮深くしなかった私の責任」
1枚のコインがテーブル上を伝い、あたしの前に転がってきた。
「本当、ずぶの素人すぎて分かりやすかったけど……もしかして僕が強すぎだったりする? せっかくアドバイスもされてたのにこれだと意味なかったね」
言い方にトゲがあるのか、あたしはムッとした。
「ミランさんはあたしの為に考えてくれたの。あたしが考えなしにしたせい」
「本当にそうかな? だって彼女はあんまり無口だったじゃないか。アドバイスと言うアドバイスが適切だったかも怪しい」
「そんなことはない。ミランさんはあたしの為に尽くしてくれたの」
「もしかして、彼女に勝てた君に勝てた僕って最強だったりして」
ふつふつとした怒りがあたしの中で湧き立つ。
なぜ彼はこうもあたしや彼女達の事を馬鹿にしようとするのかわからない。
過去にも、こうして人を馬鹿にしてきた者がいた。
あの時も、今と同じように怒りが込み上げてきた。
「もう一度勝負して。あたしが勝ったらミランさんに謝って」
「へぇーまあいいけど。それなら僕が勝ったらどうしようかな。僕も鬼じゃないし。辞めろとまでは言わないよ。さてどうしようか」
言いたい事はわかった。
「とどのつまり、あなたは賭けるなら相応の価値を用意しろって事なのね」
これしか方法がない気がする……でも、挑戦するのは自分の意思だ。
「わかった。あたしの財産全てを賭ける」
その場で聞いた全員がどよめいた。
馬鹿な提案。ありえないと誰もがそう思っただろう。
これはあたしから見ても馬鹿な判断だ。でも……口に出したからにはもう止められない。
実際「あの子、頭がおかしいんじゃないか」と声も聞こえた。
「やめて、そこまでしなくても……」
そうミランさんは言った。だけどあたしはその問いかけに首を横に振った。
今、あたしにはお金しか賭けられる物が他にない。でも、教えてくれたミランさんを馬鹿にされたまま黙っていられない!
「本当に、全財産かけるつもり?」
Dは予想外の事からか疑いの目で見てくる。
そらそうだ。こんな見た目のあたしがそこまでお金を持っているとは思っていないのだから。
「前に報奨金と……色々とやりとりあって貰ったけど、手を付けてないからかなりあったはず」
懐から取り出したのは1枚のカード。
以前冒険者組合で作ったカード。これに全財産の数値情報が載っている。
王国、王都だとどこでも使えると聞いたのだから、ここでも使えなきゃおかしくはないはず。
「ちょっと待ってろ。あれで確認できたはずだ」
Aはその場を離れ、しばらくすると手持ちサイズの箱のような物を持ってくる。
「魔導換金機と言うやつだ。これにカード情報読み込ませたらいくらまで引き出せるから、それでわかるはず」
あたしはカードを穴へと挿入すると、250300枚と表示された。
これがどれぐらいの多さなのかわからないが、周囲の反応は皆驚きを隠せていない。
ミランさんも驚きなのか目を見開いている。
これを見る限りかなりあるとわかる。
どれだけ報奨金あったんだろ……。
いや、それだけじゃなくあの人達から奪ったんだろうなぁ……返さなくていいと言っていたけど、あはは……。
「これで成立だ。僕が勝ったら君の全財産。君が勝ったら、謝るなりギルドを辞めるなり、何でもしてやるよ」
やる気をだすD。
ゴーレムの掃除が終わったのかいつの間にか人だかりが出来ていた。
観衆の目であたしとDとの再戦が始まる。
「あの、俺まだコイン残ってるんだけど……」
Bはポツリと呟くも、熱狂の渦に無情にもかき消されるのであった。




