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純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
3章

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32話 ゴーレムとミラン

 イカサマ客騒動の数日後、あたしとユエルは休憩室で腰を下ろしていた。

 あたしは気持ちを切り替えて働いていた。

 ただ、ああは言われても、モヤモヤした浮ついた気持ちは相変わらず。

 立ち聞きもしてみたが、マヤ姉の情報はまったく得られなかった。


「はぁ……」

「大きなため息なんてついて、どうしたんですか?」


 ユエルが心配そうに声をかけてきた。

 もしかしたらユエルに相談すれば話は好転するかも?

 ……いや言えないか。

 リーシャ様に言われたことをユエルに相談すれば、リーシャ様を信用していないみたいで罪悪感に(さいな)まれる。


「うーん……」

「あっ、もしかしてあまりにも働きすぎたから疲れてるんですか? 確かに自分たちここに来てから働き詰めでしたからね。あっち行ったりこっち行ったりてんやわんや。もー大変でしたからね。首は痛いわ腕は痛いわ、もうボロボロですよ~」


 相変わらずのユエルにあたしはふふっと笑う。

 ユエルなりに気をまわしてくれているんだろう。

 ただまあ、今は言えないけど言えるときになったら言おう。

 ふと、あたしは机に貼られた張り紙の内容に目を留めた。


 ~セブンズミラー全体の大規模メンテナンスのお知らせ~

 以下、機械調整&保守点検により休業、全職員五日間休暇

 ・全カジノ台

 ・シャンデリア

 ・厨房

 ・各種修繕


「ここ五日間休みなんだね。いつなんだろ?」

「ああ、それ聞いた話、明日らしいですよ? 今日はこれから大掃除を決行するとか。この後、知らせにくるとかなんとか」

「それでこれだけ集まっているんだね」


 休憩室には普段よりも人は多く、ごった返していた。

 普段見ない顔ぶれが多い中とはいえ、いくら探してもムエルニは見つからない。

 また一人ぼっちになっているのではないだろうかと心配してしまう。


「あ、フェル。誰か入ってきますよ?」


 そちらに視線を向けると、休憩室に入ってくる二人の男女。

 来た二人を見た瞬間あたしはホッとした。


「ムエルニと、それから確かラングレーさんだっけ」


 ムエルニが不機嫌そうな顔をしているのはどうしてだろう?

 女性職員からは黄色い声援が飛び交う。ムエルニに対してではないとなると、ラングレーさんかな?

 まるで有名人が現れたかのような雰囲気。実際に有名人なんだろうけど。


「やあ皆さん知っての通り俺はダリオ=ラングレーだ。ここの幹部をしている。こっちのちみっこいのはムエルニ、今回の助手だ。まあ手前勝手が良いから、あれこれ指示しやすいんだよね」

「早く説明しなさい!」


 ムエルニはラングレーさんの腹を目掛けて肘うち。

 その光景を見て、不機嫌な顔をしていたのがなるほどと実感した。

 ただラングレーさんは表情がケロッとしている。タフな人なのだろうか。


「ああ、わりぃわりぃ。んじゃ簡単に説明すると各机の上に書いてある通り、明日から五日間はこのギルドは大規模なメンテナンスが入る。その間ギルドは閉鎖するので来た所で入れないのは了承してくれ」


 確かに専門的な知識もないだろうし、あたしが村に居たときに馬車の車輪が壊れた事があった。そのときはたまたま居合わせた大工が応急処置として直したのを見た事がある。専門分野で分かる人に任せたほうがいいよね。


「とまあ、ギルド内には客も居らず職員しか残っていない。そこで君たちには班ごとに分かれてフロアをゴーレムを使って掃除をしてもらいたい」


 ゴーレム?

 そんな疑問は他にもいたようで声が上がる。


「ゴーレムってなんですか?」

「ゴーレムは魔力の籠った魔法石をハメ込んだ人形。使い手の声に反応して動かす物体だ。そいつをお前たちが命令して掃除をこなしてくれるとか。もちろんそのゴーレムはとっくに配置している」

「なら俺たちがやる意味なくないですか?」

「実験兼ねてやるらしいってのは聞いている。まあ指定された場所は先にいる案内人がいるのでそいつに指示仰いでくれ。その後は終わった班から報告して順に帰っても良いし、なんなら遊んでもいいぞ」


 周囲はざわつく。

 終わったら遊んでいい、次の日から休みに入るのだから自由にしてもいいと言った感じなんだろうか。


「では、班分けを開始します。名前を呼ばれた人物は前に出てきなさい」


 ムエルニは手に持っていた紙を広げ、書かれている順番に読み上げた。

 一人一人前に出て数人のグループになったら休憩所から出ていく。集まる人数は六人単位となっていた。

 出ていく際に何かを手渡したのが見えた。

 赤く光ってる石。あれが魔力を補充した石なのかな?


「次、フェル・ラグンダルト」


 呼ばれたので前に出た。

 皆の視線が集まって注目しているようで、なんだか気恥ずかしい。

 特にあたしの名前が出ると少し静かになったのを余計に感じた。

 あたしが最後だったのか男性四人、女性一人の計五人が集まっていた。

 男性は名前が分からないが、A、B、C、Dと思っておこう。

 女性は見覚えある顔で、確かミランって名前だったはず。


「それじゃあ、これを持って一階カジノフロアの頼みます」


 Aが受け取ると次々と廊下へ出て行き、あたしも後を追うように出ていこうとした。

 あたし含めて六人なのでこれで一グループだし、ユエルとは離れ離れになっちゃった。

 そんな風に考えている最中、ムエルニは告げてきた。


「気をつけなさい」


 何の事かわからず聞き返そうかと思ったが、ムエルニはすでに次の人員を呼んでいた。

 疑問にもつも、彼女は次の仕事をしているんだ。口をつぐみ、あたしは遅れないように彼らの後を追った。

 男性陣は先頭に歩き、その後ろにミランさん。更にその後ろにあたしが並んで歩いている。ミランさんは当時と同じように、髪を後ろに括りつけていた。やっぱり、見た目も気品溢れて恰好良い。

 ただ、接点があまりにもなさすぎて、どう話を広げようか迷う……。

 あたしは身振り手振りをしながら迷っていると、視線が突き刺さるのを感じた。


「……何?」


 気づいてくれたんだ。この機に仲良くしなくちゃ。


「あの、ミランさんお久しぶりですね」

「……えっと」


 口元を手で覆うように考え込む。

 そうか、あれだけ日数が経っているのだから覚えていないのも当たり前か。


「あ、ごめんなさい。ラウンジで採寸してもらって以来、顔を合わせていませんでした。フェル・ラグンダルトです」

「……ああ。ミランだ」


 暫しの沈黙が訪れる。

 口数が少ない人なのか、人見知りなのかはわからない。

 ただせっかくなので彼女ともっと仲良くしたい。

 そんな気持ちがあたしにはあった。


「ここに入って長いんですか?」

「……長い」

「そうなんですね。大変ですか? あたしは大変ですよ。グラス割ったりお客さんに当ててしまったりてんやわんや」

「……そう」

「ルーレットのディーラーした事あるんですが、すごいんですよ。ルーレットが壊れて球がシャンデリアに飛んで……なんてこともありました」


 思い出すだけであまり言い出したくない自虐ネタ。

 ただ仲良くするためには言ったほうが良いよね。


「……知ってる」

「知ってたんですね」

「……有名だった」


 うう……耳に届いてたんだ恥ずかしい……。

 しかしミランさんは凛としていて歩き方も様になる。


「それにしても着こなしすごいですね。とっても似合ってますよ。あたしも三つ編みやめてミランさんみたいな髪型にしたらかっこよくなるのかな?」

「……ありがとう」


 無表情から少し微笑みを見せたのをあたしは見逃さなかった。

 ただ褒められ慣れしていないせいか、表情がぎこちなかったりしてる。

 もっと話をしなくちゃ……けどどうすれば……。

 彼女との共通点……確かあのときラングレーさんいたよね。

 そうだ、その話をしようっ!


「そういえば、寸法測った時にいたラングレーさんといましたけど、あの人とは仲良いんですか?」

「ああ」


 反応が早い?

 もしかして当たりだった?


「そうなんですね。あの人に攻撃するミランさんの動き凄かったです。あたしは村で魔物討伐したことあったのですが、モタモタしてたまたま冒険者の人にやっつけてもらったりして大変でしたよ」

「……そう」


 表情も変わらず反応が薄い……。

 たださっきのラングレーさんのは反応が少し良かったような。


「ラングレーさんってすごいですよね。幹部していたんですっけ。ムエルニにあんな風に扱われていましたけど、進行もしっかりしていたし、すごいなって」

「あいつは他から見たらふざけてる様で周囲は見えている……どうした?」


 至って冷静なのは変わらない。だけど彼女が彼の事を話すとき饒舌に話すのを見てあたしは微笑んだ。

 嬉しい発見だ。


「ううん、なんでもない。あ、もうフロアに着いてるね」


 いつの間にか一階フロアに到着していた。

 客はいないせいか余計広く感じた。


「君たちこちらに」


 案内人に呼ばれる声にあたし達はそちらに向かった。

 複数体のゴーレムが床に鎮座していた。


「わ、可愛い……」


 見た瞬間あたしは思わずそう言葉が漏れた。

 小さい黄金色の身体。丸っこい体は、継ぎ目ひとつなく滑らかで、照明を浴びてキラキラと輝いている。カジノの格式に合わせたのか、首元には小さな蝶ネクタイが締めてあり、どこか誇らしげに見えた。

 一体持ち上げてみるとあたしの背の半分ほどだが、非力なあたしが持てるほど思いのほか軽く、つるっとした手触りで金属のような硬さもある。


「では受け取った魔法石に魔力を込めてその背中に窪みがあるから、そこに入れて起動させたあと、命令を下すように。石は魔力切れたら再度注入してくれ。君たちはそうだな……向こうで試してみてくれ。終わったら呼ぶように」


 大雑把な指示。あたし達は気にする様子もなく動く。

 移動途中で他グループを横目でみると、ゴーレムも起動して動かしている様子を目にする。

 Aはあたしからゴーレムを乱暴に奪うように取り上げると、持っている石を埋め込んだ。


「さあ、動け。ここら一帯を掃除しろ」


 Aから離れると、床をポテポテと歩く様は可愛らしく映る。

 ただ右往左往するばかりで一向に取り掛かろうとしない。

 どうしたんだろう、と首を傾げていると、肩をトントンと叩かれた。振り向くと――。


「……これ」


 ミランさんがあたしに小さい箒とちり取りを渡してきた。

 掃除するなら確かに必要だ。


「ミランさん、ありがとう。そうだよね掃除なんだから道具がなくちゃ」


 あたしは箒とちり取りを受け取ると、ゴーレムに手渡した。

 小さな箒を手に、床の埃を丁寧に払い、その大きな瞳はただただ、与えられた仕事に集中する。

 動きはそこまで速くはないが、確実に埃を取り除くよう掃いていた。


「おっそいな。こんなんじゃいつまでも終わらんぞ。指示も適当だしどうなってんだよ」


 Aはイライラしながら足をトントンと床を叩いた。

 ゴーレムの動きは可愛らしく、あたしはいつまでも見ていたい。そんな風に思っているがA含め他の男性陣はそうじゃない様子だ。

 他の班を確認するように覗き見ると、暇そうにしていたり、掃除は任せて雑談したり各々好きなようにしていた。


「もしかして、終わらせたら遊んでいいって言ったのは、掃除した台周りじゃね?」


 Bはぽつりとそう呟いた。


「指示も曖昧だったし、その可能性もありかもな」


 Bの発言に他男性陣も同意するよう頷いた。

 あたしもその考えて間違いないだろうなと思った。

 Aはゴーレムを持ち上げるとあたし達はポーカー台へと移動した。


「よしこの台の下と周辺を掃除しろ」


 再びゴーレムは箒で掃き始めた。

 しばらくすると、ゴーレムは動かなくなる。


「どうしたんだよ。動かねえぞ?」


 Aは魔法石を抜き取ると光は輝きを抑えていた。

 あたしは直感でこれは魔力が失った状態だと気づくも、彼は知らないのかジッと見つめるだけで何もしない。

 魔力切れを起こしたから動かなかったのは当たり前だ。


「貸して」


 あたしは彼から魔法石を奪い、魔力を注いだ。

 再び赤く光を放った魔法石をゴーレムのくぼみにはめ込むと、息を吹き返したように動き出す。

 魔力を注入したせいか、ちょっと疲れた感じがする。

 けど息を吹き返したゴーレムが掃除を再開したのを見て疲れは吹き飛んだ。


「フェル・ラグンダルトさん」

「はい?」

「この掃除が終わったら勝負しない?」

「あ……え?」


 突如、Dから勝負事を挑まれたのにビックリした。

 会話も参加せずにいたからか、完全に意識外すぎた。


「いやさ、あのムエルニと戦って勝ったよね? 皆注目しているんだよ? 今度の選定戦の注目株だって」

「あれはたまたまで……」

「謙遜ならいらないよ。まさかぁ、僕たち相手じゃ物足りないって感じなのかな。それならやっぱり勝負しましょう。ね」

「う、うん……」


 断れない雰囲気に気圧され同意してしまった。


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