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純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
2章

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29話 市場の喧騒と、ライバル宣言

 翌朝。

 宿屋の一室で暇を持て余していたあたしは、部屋の天井を眺めながらごろりと寝返りを打った。昨日のギャンブル対決の緊張感が嘘みたいに、今日はやけに静かだ。


「市場でも行ってきたらどうだい? ちょうど朝市の時間だよ」


 下の階で朝食を済ませていたところ、宿屋の主人にそう勧められた。

 手紙は宿に届くらしいのだが来るまでは暇を持て余すのは容易に想像できた。村に居て王都まで来た事なかったんだ。この機に行くのもいいかもしれない。


「市場……いいね! 行ってみる!」


 王都の市場は活気に満ちていた。色とりどりの果物や香辛料、道端の大道芸。ふだん見かけない珍しい品々に目を輝かせていると――。


「あんた……」


 聞き覚えのある声に振り向く。そこにいたのは、昨日までギャンブルであたしと火花を散らしていたムエルニさんだった。


「うわっ、ばったり! 奇遇だね!」

「奇遇なんて言葉で片付けないでよ……」


 ムエルニは眉間に皺を寄せ、露骨にイヤそうな顔をした。犬猿の仲、ってやつだ。

 でもあたしは、昨日の勝負でちょっと彼女のことが気になっていた。敵対心ばかりじゃなくて、強さの裏にちゃんと人らしい部分があるのを垣間見たからだ。


「せっかくだし、一緒に見て回ろ?」

「はぁ!? 冗談でしょ」

「一人で歩くより楽しいよ」

「……ふん、アンタと一緒にいると目立つのよ。面倒くさい」


 そう言いつつも、完全には突き放さない。渋々歩調を合わせる彼女に、あたしは思わず笑ってしまった。

 屋台のパンを半分こしたり、試食をめぐって口喧嘩したり。険悪ムードのはずが、気づけば市場の喧騒に溶けて、二人で並んで歩いていた。


「そういえばアンタ、あの金魚の糞とは一緒じゃないのね」

「金魚の糞じゃない。名前はユエルであたしの友達。あの子は宿が違ってたし、その内あたしが泊まってる宿にくるって言ってたけど」


 ふと視界に入る果物の山盛り。村に来ていた業者でもここまでの山盛りはあまり見かけなかった。


「ねぇねぇ、あれ見て! 果物山盛り!」


 あたしは目の前の屋台を指差す。山のように積まれた赤い果実は、見ただけで甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。


「……庶民はこういうの好きよね」


 ムエルニさんは涼しい顔をして腕を組むも、視線は果物から離れない。

 あたしの目から見ても丸わかりで内心クスっとした。


「ムエルニさんも食べたいんでしょ?」

「べ、別に! 興味ないわよ!」


 そう言う彼女の横顔が少し赤くなったのを、あたしは見逃さなかった。

 店主のおじさんが「どうだい、お嬢ちゃんたち、試食していきな!」と声をかけてきた。

 その場で切った果実を差し出され、あたしは迷わず口に放り込む。


「んー! 甘い!」

「……っ」


 隣でムエルニさんは、意地を張るみたいに少し遅れて一切れを受け取った。かじった瞬間、彼女の目がほんのり見開かれる。


「どう? おいしい?」

「……まあまあね」


 素直に認められない彼女の返答に、あたしはクスクス笑った。

 その後も、香辛料の香りにむせたり、屋台のアクセサリーに足を止めたり。歩くたびに彼女の「渋々」が少しずつ崩れていくのがわかった。


「……アンタって、本当に能天気ね」

「え、褒めてます?」

「褒めてない!」


 即答されても、不思議と嫌な感じはしなかった。

 市場の出口近く、小さな噴水の前で足を止める。

 並んで腰かけていると、ムエルニさんはわずかに視線を逸らした。


「……別に、今日くらいは付き合ってあげただけだから」

「ふふ、でも楽しかったですよね?」

「……し、知らない!」


 口調は強気なのに、最後にそっと視線を落とす彼女の仕草が妙に可愛らしくて、あたしはこっそり笑いをこらえた。

 噴水の水音が心地よく響く。しばらく並んで座っていると、ムエルニがポツリと呟いた。

「あんたは私と居ても楽しくなかったでしょ」

「ううん。とっても楽しい! あたしねあなたと友達になれたらなと思っていたんですよ。あの時見せてくれてた凛々しさもすごかったけど、こっちのムエルニさんも素敵だと思うな」

「変な子ね……」


 彼女は決心する顔を見せたと同時に飛び跳ね2、3歩進むと振り返った。


「私ね自覚している事があるの。この性格でもあってギルド内でも地位もあり周囲を見下していた。リーシャ様からも信頼を置かれてたからこそ、ギルドでは常にピリピリしてたの。他職員たちに嫌われてるってのも自覚はしてた」


 ……さっきまで笑っていた彼女の横顔が、ふと影を帯びた。

 その表情はどこか儚げで、今にも壊れそうな雰囲気を醸し出す。


「ムエルニさん……」

「さんは禁止」

「え?」

「あの時の勝負は私は負ける気もなく挑んで敗れた。リーシャ様の為に全身全霊で挑んだ。だけど、敗北したの。それはあなたのほうがギャンブルが強かったから。だからあなたは私のライバルとして認めてあげてもいいわよ!」

「ムエルニさん……」

「だから、さんは禁止あと敬語も禁止。私はムエルニ! あなたのライバルですの」


 先ほどの儚げな様子はなく、今にも自信に満ち溢れ気迫が伝わる。

 そんなこの子とあたしは友達になりたい。そう思った。


「ムエルニ、わかった友達だね!」


 口に出してムエルニを抱きしめた。顔は笑顔だったと思う。


「話聞いてましたの? と、友達じゃありません。ライバルですの! 放しなさい!」


 口ではそう言っているが放そうとする気はない。

 顔を見られると気恥ずかしさもあるのだろう。

 そんなやり取りをしつつも、鐘が数度聞こえた。


「そろそろ私は帰りますの。あなたは」

「そうだねあたしも帰ろうかな」

「ふっ、またギルドで出会った時は容赦はしませんことよ」

「あたしも負けないよ!」


 しばらく歩き市場を抜けて別れる様子も見せない。

 二人ともが同じ方向へと進んでいた。

 当然、ムエルニも同じことを考えていたのか質問を投げかけてくる。


「して、あなたはいつまで私に付いて来るの?」

「あたしの泊まってる宿はこっちにあるから。ムエルニもこっち?」

「ええ、私は幹部から降ろされ今や一般職員。宿も相応に変更することになりましたの」

「幹部の宿とか高価そう……」

「ええ、仕方がありませんわ。リーシャ様がお創りになられたルールで従うまで。ただ、あのデカ女に渡された地図があって……すぐそこね」

「え、ここって……あたしが泊まってた宿」


 宿の扉が開くと見知った人物が勢いよく飛び出してきた。


「あれ? フェルにムエルニじゃないですか!」

「ユエル。どうしたの? まだ来ないと思ってたのに」

「いやー、やっとこっちに移れたので。さっきマスターに挨拶してきて、フェルが出かけたと聞いて行こうとした矢先にいたんですから。まさに引き寄せと言うべきか」

「まさか……あなたもここに……!」


 指さしながらワナワナ震えているのが見えた。

 あたしの時よりも明らか嫌そうに頬を引き攣らせていた。


「もしかしてムエルニもこの宿に? 自分、ライネスに言われてここなら楽しい事があると聞いてたので、それがムエルニとか嬉しいっす!」


 賑やかになりそうで良かった。

 ムエルニは喚きながらユエルに引きずられ宿の中に。

 あたしも続くように宿に入った。


2章はここでおしまい。

30話更新は明日ではなく少し推敲作業入り期間が空きます。

完了次第活動報告に書いて、その後に3章開始しようと思います。

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