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純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
1章

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2/25

2話 王都の情報の獲得とチンチロ勝負



 二頭の馬率いる荷馬車に揺られ、あたしは中から外を眺めていた。

 荷馬車の中で風が通り抜けて、マヤ姉のように三つ編みに結んだ長い髪が揺れる。

 村を出立してしばらく経つと景色が変わり、辺り一面草原が広がる。

 村は完全に視界に映らない。代わりに隣に視線を向けると、樽や箱に入った食材などが置かれていた。

 王都に着いたら、この多くの食料品は収入源の確保の一つに商業組合に降ろす物らしい。

 スペースを確保してもらっているも、あたしは邪魔にならないように出入口付近に座る。

 馬車の走る道は整備されておらず、たまにガタガタと馬車全体が揺れるせいか、箱から溢れそうになる。


「フェルちゃん。大丈夫か?」


 そう呼びかける人物にあたしは視線を映した。

 同じ荷馬車内にいるのは、ファステールという村の守護している知り合いの五十歳くらいのおじさんだ。剣の腕が凄い立つ人らしいが、今のところ魔物などが現れていないため雄姿は拝めていない。

 あたしを王都まで運ぶ兼ルインさんという農夫と村から取れた野菜を守るために護衛役としてファステールさんが同行している。


「道がガタガタだね。ビックリしたよ」

「王都へと続く街道は整備されていないがこんなものだ。そう言えばフェルちゃんは王都まで初めてだったかな?」

「うん、初めて」

「そうか。それにしてもよく親御さんの許可を取れたね。それでも君の両親は反対していたと聞いていたけど」

「知っていたんだ……それが大変だったよ。おとうちゃんは泣くし、特におかあちゃんは納得してなかった感じだし」


 そう、今朝あたしは昨晩荷物にまとめた鞄を持ち、出立しようとした矢先、両親が立ち塞がった。

 昔からあたしは大きくなったら王都へ旅立つと宣言していたのだが、のらりくらりとかわされていた。

 だけど時が経ち、年齢が重なるにつれ現実がやってくる。

 そして成人になった今日、あたしは強制的にでも行こうと決めた。


「まあ正直おじさんもフェルちゃんの事は王都でやってけるか心配ではあるかな」

「あたしが何の準備もなしに、王都に行こうとしないよ。一通り文字計算は習得したし、旅に必要な知識を村に来ていた冒険者や商人の人から教わったの。なんなら魔法だって使えるし、村近くの魔物も何度か討伐したことがあるよ」

「魔法とは驚いた。おじさんは使えないが、確か親族に使い手がいなくとも突然使えるとかは聞いたことがあるな」

「うん、実際両親も使えなかったけど、あたしは使えるのが運が良かったと思う。周りにも使える人少なかったし。ただ、冒険者の案内をした際にちょっと危険な事があったけど」

「確か、魔力干渉がどうとかって聞いたことがあるな」


 あたしが冒険者の人に道案内した際に、魔物が襲ってきたことがあった。

 冒険者の人が苦戦してるとき、あたしが魔法を使おうとしたら、他の魔法使いの人とあたしとの魔力干渉が行って爆発したのを覚えている。

 元々冒険者の間では魔法使いを二人以上は連れて行ってはいけないと決まりもあった。あたしが魔法を使えることを話していなかった原因でもあるけど。

 その時の冒険者の人は強かったし、あたしは魔力自体弱かったから良かったものの、その後に両親にバレてこっぴどく叱られたっけ……。


「まあなんにせよ努力しているのは、おじさんが村に赴任(ふにん)した時から知ってるよ。あの積極性は目を見張るものがあったし、頑張ってたもんな」


 褒められてあたしはにへらと笑う。

 もちろん、この事は両親にも説得の材料として説いた。

 両親はこれまでのあたしの行動が本物だと知っていたからか、強くはでられなかった。


「けど、それならどうして王都へ行こうとするんだい? まあ確かに成人したら王都へ目指す若い子は多いと聞くが」


 あたしは鞄から1枚の封筒と取り出した。

 それはマヤ姉から届いた封筒。

 

「王都に行けばマヤ姉が待ってるの」

「懐かしいなマヤちゃんか。そう言えばあの子を送ってた時も、確か同じ15歳の成人だっけ」

「うん……そういえばファステールさん、マヤ姉って会ってないの?」

「残念だが、何度か王都へは行くものの会ってはいないな」


 ファステールさんは首を横に振った。

 あたしはそれを見て少しガッカリはしたが、仕方がないと思い直した。

 直接会えばわかること。

 それだけだ。


「そういえば、王都ってどういう場所なの?」


 あたしは今までは村の周辺や他の村までで王都まで行くことはなかったけど、今初めて王都へ行く。ただ、そのせいもあってか王都のことは一切知らない。


「そうか、フェルちゃん王都の事あんまり知らないんだよね」


 コクりと頷いた。

 とりあえず王様が居て、そこに大きな街や冒険者になれる場所があるぐらいだ。

 あとマヤ姉が活躍する場所としか。

 ファステールさんは何度か行っているわけで、どんな街なのかわかっているはず聞いとく価値はあるはず。


「王都は一人の王様が中心となって各貴族たちがそれぞれの場所を統治しているのさ。王都には各組合というのもあってそこで冒険者組合もその一つ。金を稼ぐための一つに冒険者になると依頼を受けて達成すれば報奨金がもらえる。おじさんも実は昔、依頼で竜と戦った事あるんだ。実はな――」


 すると馬車は止まり始めて、ルインさんがあたし達に声をかけてきた。


「話しているところすまないな。一度休憩に入ろうと思う」

「そうか、悪いなフェルちゃん。話はまたあとでだ」


 ファステールさんはよく討伐の事を自慢話しているのは知っていた。

 結構話長くなるんだよね。

 あたし達は馬車から降りると、座りっぱなしで凝り固まっている腰を伸ばし休憩した。


「ファステールさん、王都まではあとどれぐらいかかるの?」

「あー、今がまだ王都までの半分って所かな」


 日もまだ高く登っている。

 景色もさほど変わらず、ただただ見渡しの良い広い草原。近場に森もある。

 ただ、王都までの街道はそちらに行かずただ広い道へといくような感じになっていた。

 ふと、クゥーと腹の音が鳴る。


「そろそろ昼飯だな。ちょっと待ってろ」


 ファステールさんがなにやら馬車の中に入ると思えば、すぐに出てきた。

 両手にはパンを持ち片方をあたしに差し出す。

 干し肉などは鞄に入っているのだけど、今食べるべきではないよね。

 礼を述べ受け取ると、そのパンを齧る。


「美味しい」

「そりゃ良かった。フェルちゃん、少しこれかけるから食べてみ」


 おじさんは手に収まる筒状の物をパンにかけて、あたしは食べてみた。

 少しの辛味が口の中に広がり、以前どこかで同じのを味わったことがあるような……あっ!


「これ……もしかして胡椒(こしょう)?」

「正解。流石フェルちゃん良く知ってたね」

「村にいたとき商人さんに教えて貰ったの、たまたま胡椒かけた食べ物をもらったとき似てるなって思って。けどこれ結構貴重じゃないの?」

「ああ、ちょっとした伝手でな。その時に貰えたんだよ。こうして出るときにいつも持っていってるんだ」


 あたしはもう少しもらえないかとファステールさんに視線を向けるも、首を横に振り断った。

 流石にわがままはできないや。


「まあ、いいじゃないかファステール。いつものようにしようじゃないか。それに彼女が王都でやってけるかも俺たちがいつもしているアレで試してみないか?」


 ルインさんが割り込むように語りかけてきた。

 手には器と二つ折りの物を持って、それを広げると簡易テーブルが出来上がった。



「アレをやるのかよルイン。仕方がない、フェルちゃんがもう一度胡椒をかけたいというなら、賭けをしてみないか?」

「賭け?」

「そう、胡椒は貴重なのはもう知ってるはずだ。だから今からやるギャンブルにフェルちゃんが勝てれば無料で使ってもいいが」

「本当!?」

「ああ、ただし負けたら硬貨……銀貨1枚の支払いで使っていいぞ」


 銀貨1枚……負けても値段の割りに安い。

 多分ファステールさんは、負けてもこれからの旅路に支障がきたさない程度に考えてくれてるのが分かる。

 お金は家を出立する前に両親から渡されたり、村で稼いだお金もある。

 これぐらいなら問題ないはずだ。

 あたしは同意するように頷いた。

 ファステールさんはテーブルの上に置いた器の中に入っていたであろう3つの物を取り出し、あたしに手にもっている物を見せてくる。

 あれ?


「サイコロ? けど中の窪みが全部青?」

「知ってるんだな」


 あたしはサイコロを掴み、触る。

 見た目は通常のサイコロと変わらない小さなサイズ。

 これがなんなのか、知っていた。

 言ったほうがいいよね、じゃないとあたしが有利になっちゃう。


「商人の人に教えてもらったよ。ただこれ――」

「そうか。ならサイコロの説明は不要だな。ゲームの説明をするぞ? チンチロと言ってルールは簡単。これを椀の中にこのサイコロを入れる。そうして中で出た目を揃えたほうが勝ちだ」

「おいおいファステールそれだとわかんだろ。もう少し詳しく説明するとそうだな……いくつかのルール変更はあるとして、単純な勝ち負けでいこうか」


 ルインさんはサイコロを振って説明してくれた。

 ただし通常のチンチロとは違い、多少ルールが変更される。

・親と子だけど今回は一巡で一番強い賽の目を出した者が勝者。

・強さの順として役ありの1・1・1が最強。

・次点各種数字のゾロ目。ただし数字が大きい順が強い。

・ゾロ目以外は4・5・6が最強。

・二つ目まで数字が揃い、三つ目でバラならその数字が振った者となる(例:2・2・4なら4が点数。5・5・3なら3が点数)

・2・4・5などの不揃いサイコロの器からの飛び出しは最大3回まで振り直し。

・金を賭けないので、1・2・3などの倍付けなどはなく、負けが確定。


「ルールはわかったかな?」

「うん。とにかく出目を揃えればいいんだね」

「その通り。ファステールどうせなら俺たちもなにか賭けるか?」

「賭けるって何をだよ」

「そうだな。その胡椒ごと(・・)俺にもくれよ。代わりにこの前のは許してやってもいいぞ」

「本当にか? なら問題ない」

「なら俺からいくぞ」


 言おうとしても、2人は強制的に始めるせいでサイコロのこと言いそびれちゃった。 ズルしなきゃいいよね……。

 ルインさんはサイコロを振り器へと投下。

 カラカラと鳴るような音が器から響くと、サイコロは器の中で馬が暴れるような勢いで回りだす。

 次第に収まり、音が完全に沈む。

 出た目は4・4・6。


「よし6だ。次はファステール」

「マジかよ……」


 ファステールさんもサイコロを振る。

 ルインさんと比べてより勢いが強い。

 カラカラと音が鳴るもサイコロ同士がぶつかると、器から飛び出した。


「やり直しか」


 再度振り直して器の中に投入。

 次も勢いが強すぎたのか再度器から飛び出した。


「くそっ、もう一度」


 三度投入。

 今度飛び出したら負けになるためか、慎重に勢いを殺して器の中に投入。

 カラカラと音が鳴り、すぐさまピタリとサイコロは止まった。


 3・5・6の役がバラバラ。


「くそっ……」

「あーあ、こうなったら仕方がないな。この胡椒は貰うぞ?」


 胡椒の筒を手に持つと、ファステールさんは焦ったように


「ちょっと待ってくれ。胡椒だけと言ったじゃないか。お前も少しパンにまぶせばいいじゃないか」

「ああ、だけど胡椒をと言ったわけだからこれごと(・・・・)貰わないと」

「じょ、冗談じゃない。中身の胡椒ならまだしもその筒は返してくれ。息子が俺に送ってくれた物なんだ。中身は別に移して」

「決めたじゃないか、胡椒ごとと……どうしたんだい?」


 あたしはルインさんの腕を掴んだ。


「それを返してあげて」

「ダメだよ。これは俺とファステールの決めごとだから。ああ、フェルちゃんには使わせてあげるよ」


 そんなことはどうでもいい。

 ファステールさんが大切にしていた物をとられたのだと可哀そうだ。


「あたしがまだやってないから。あたしが勝てば、それを返してあげて」

「……分かった。もし勝てれば返してあげよう」


 あたしはサイコロを掴むと、勝ちは確信していた。

 このサイコロにはあるギミックが存在しているのだから。

 あたし、いえ()()()使()()()()()()()()もできること。

 手の中で少しずつ動かしながらある側面を指でなぞるように触り始めた。

 確かこうすれば……まだ足りないもっと……。

 少ししてサイコロを器へと投入した。

 サイコロは次第に緩くなり止まる。


「なっ……!」


 2人は中を覗き込むと驚きの声をあげた。

 あたしは見なくても結果が見えていたからそこまで驚きはなかった。


「ほら1・1・1のゾロ目だよ」

「そんな馬鹿な」

「ならもう一度やってみる?」


 ルインさんは「ああ」と言うとサイコロを振った。

 結果は2・5・6の役なし。

 あたしも再度振ると今度は6・6・6のゾロ目。

 圧倒的な差を見せつけてしまったせいか、ルインさんはがっくり肩を落としてしまう。


「フェルちゃん、ありがとう……だけどどうしてそんなにゾロ目に出来たんだ? まさか強運? それとも賽の目を自在に操る訓練したとか? 確かにそういう奴は世の中いるとは聞いたことがあるが……」

「あの、そのファステールさん、ルインさん」


 どうしても歯切れが悪くなってしまう。

 やった事がやったことなのだから、してしまったあとの罪悪感が襲う。

 そして耐えきれずあたしは頭を下げた。


「どうした?」

「実は……イカサマをしてました」

「なんだって!?」


 あたしはサイコロを掴むと器に入れた。


「1・2・3が出ます」


 確信するようにあたしは宣言した。

 本来なら賽の目が止まるまで確定することはないはずなのだけど、普通は。

 ファステールさんとルインさんは半信半疑の眼差しで、音が鳴り止んだ器の中を覗くと驚きの声を上げた。


「本当だ。本当に1・2・3が出た」

「このサイコロなんだけど、前に見た事があって触った瞬間分かったの。魔力を干渉させると賽の目を操ることができるって。ただ、中が青いサイコロだけで、通常の白いサイコロは干渉を受けないから普通に使えるって聞いたよ」

「魔力干渉か、それでゾロ目が揃えたのか……ルインはどうだ?」

「ああ、珍しいから気に入ってたんだけど、俺たちにはどうすることもできないな。これはもう使えんし、フェルちゃん君にあげるよ。役立ててくれ」


 ルインさんは3つのサイコロをあたしに手渡した。

 改めて見ても、サイコロはやはり通常のサイコロと見分けがつかない。

 ただ窪みの中の色が違うだけ。

 あたしは懐へとしまう。


「さて、フェルちゃん……合格だ」

「へ?」


 ルインさんがそんな事を言うのだからあたしは混乱した。

 合格ってなんだろ?


「すまないな。俺たちはフェルちゃんを試してみたんだ。王都へ行くって聞いてたから心配したんだよ。昔から知ってるからやっていけるのかと。君のご両親からも相談されてたんだ」

「そうそう。村を出る前にファステールもフェルちゃんの事を心配してたんだよ」

「そうなんですか!?」


 思わず驚いてしまった。

 だけど確かにあたしは両親を説得する際に、心配をかけてしまっているのも自覚はしていた。まさか試される形になるなんて。

 けどなんで試したんだろ?


「すまないとは思ってるが、王都で生活していくにあたって村での生活は一変すると思う。王都で冒険者や商人としてやっていくならまだましだ。ただあの街には賭場(カジノ)が横行している」

「カジノ?」

「さっき俺が話していた竜を討伐した話……は置いといて。冒険者組合では依頼を山ほど受けることができる。表ではそんな所だが、裏ではカジノやギャンブル、つまり金を賭け合う場所に早変わりする街。大金目指して稼ぐ人も、借金する人も多い結構危険な街になるんだ……聞いているか?」


 あたしはパンを食べながら話を聞いていた。

 胡椒をかけさせてもらって、味変を味わいながら。

 グーサインをして。


「まあここからが注意で、カジノである以上イカサマをする奴も少なからずいる。知識のない田舎から上京してくる子はカモにされるから気をつけなきゃいけないんだ」


 パンを最後まで頬張りながら飲み込んだ。


「んぐ……だからルインさんはこのチンチロで試してみたんだね」

「あーああ、そうだな」


 ルインさんは歯切れが悪い返事をする。

 だけど一つ気になることがある。


「ならチンチロするときに立てた決めごとの、この前の許すってのはなに?」

「それか、それはだな。ファステールがトランプでイカサマしやがったんだ」

「お前だってしたじゃねえかよ。前は俺が黙ってやり過ごせたのに、今度はお前が」

「話を振ったのはあたしだけど、喧嘩はやめて!」


 あたしは2人を止めるために間に割って入った。

 2人はあたしに謝り、一応今後ギャンブルは禁止として誓いを立てた。が、多分約束は破られるのは予想が付きやすい。

 王都へ進むために休憩を終わらせ、あたし達は馬車に乗り込んだ。


「そういえばファステールさん。王都はカジノが有名なんだよね?」

「そうだな。カジノと言えば、あの女性は元気にしてるかな」

「女性!? ファステールさん気になった人がいるの?」


 あたしは興味津々に聞いてみた。

 色恋沙汰の一つや二つ、年頃であるから気になるのはある。


「おじさんは冒険者をしていたと言ったろ? ある日、とある女性冒険者と一緒に魔物を討伐することになってパーティーを組んだんだが、その冒険者は尋常じゃなく強く一緒にいたおじさんは才能の差を感じて冒険者を諦めたんだよ」

「その女性冒険者って?」

「一時的に組んだだけで名前は……ちょっと忘れたが確か、女性で綺麗な人だったな。今は賭場(カジノ)のオーナーをしているとかなんとか。まあ、フェルちゃんが王都に居続けるならそのうち会えると思うよ」


 マヤ姉は王都で活躍しているなら会えてるのかな?

 そしたらどんな人か聞いてみたいや。

 しばらく馬車に揺られ景色を眺めていると、もうじき夜がくるのか薄れゆく空になっていく。

 夜中は夜行性の魔物が活動することが多いから、泊まるのは危険だとファステールさんは言っていた。そのため、夜中でも進めるうちに進んで行くことにしている。

 荷馬車の角に明かりが灯ったランプが備わっていた。

 そのおかげか道は一応進めるも、薄暗くなっていっている。


「他の馬車も結構見かけるようになったね」


 外を覗くと、いつの間にか草原を横切る細い道は、太い石畳の街道へと合流していた。前後にはあたしたちと同じように、王都を目指す大きな商隊や、豪華な装飾を施した貴族の馬車が列をなしている。


「ああ。ほら、もうすぐ到着するぞ……あそこが王都だ」


 ファステールさんが指差す前方には、暗がりの向こうに、光の海が現れた。


「わぁ……っ!」


 思わず声が漏れ、馬車の縁を掴んで身を乗り出す。

 地平線の先、夜の帳を押し返すほどの強烈な輝き。

 天を突くような高い城壁の内側から、何千、何万という灯火が夜空を焦がしている。村の小さなランプとは比べものにならない、魔法と文明が織りなす圧倒的な光の渦。


「……あれが、マヤ姉のいる街」


 ここにマヤ姉がいると思うと、期待と不安で胸がいっぱいだ……。


「さあ、着いたぞ。検問だ」


 巨大な鉄格子の門が、重々しい音を立てて開かれている。

 空はすっかり暗くなるも、それでも押し寄せる人混みの熱気、喧騒。

 これほど人が多いのは見た事がない。

 住んでいた村がどれほどちっぽけなのかが身に染みる。

 鞄を開けて手紙を取り出すと、その文字を指でなぞった。


「ようやく到着したよマヤ姉」


 手紙を鞄に入れると、あたしは前を向いた。

 これからあたしの物語の始まり。

 この光り輝く王都のどこかで、大好きなマヤ姉が待っている。


「待っててねマヤ姉!」


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