17話 3戦目違和感
「三巡目、ムエルニから」
「そうね。もう中盤、3枚増やしますわ」
配られたカードに目を落とすと、ムエルニの表情は一瞬緩むのを見逃さなかった。
あの枚数で数字の近さなら1か2。それに26……いえ39に近いと思ったほうがいいかな?
「自分は……このままパスで」
「あたしも同じくパスで」
今のあたしの手札は♣A、♣4、♥6の合計数11。
4や5まで差が開いてたらまだしも、これなら下手に増やさないほうがいいかな?
手持ちのコインもまだまだ余力がある。
そろそろみんな動く頃合いのはず。
そう予想していた時に動き始めた。
「そうね」ムエルニさんがコインに手を取る。
「なら白のコインを表で」
表と言う事は+1か……。
ムエルニさんはこの勝負を手にすれば勝利が目前なのだから、当然動くよね。
このゲームは死数字の13から1以内が理想的、2以内に抑えるほうが現実的、3以上はほぼ負けと考えるべき。
ムエルニさんの手札からして明らかギリギリに近い数字だと予想できる。
つまりは手持ちは24か37のあたしと同じ2つ。
「他にいないのかしら?」
リーシャ様がそう言ってきた。
そうだ、考えている余裕はない。
あたしは手持ちのコインをテーブルへと叩きつけた。
これでムエルニさんのコインを打ち消す。
「あたしもムエルニさんに白のコインを裏で1枚」
ここで止めといた方がいいと判断した。
ムエルニさんの表情は今まで崩さなかったのに、眉が少し動くのが見えた。
読み、当たった……?
「全く、嫌らしい」続くようにムエルニさんは白のコインを表側で出してきた。
続けるようにあたしも白コインを。
続けるようにムエルニさんも白コインを。
白コインを白コインを白コインを白コインを――。
勝利するために、2勝目を全力で取りにいく彼女に対して、あたしも阻止するために動く。少ない回数なので早めに勝利数を稼いだほうが確実に有利なのは間違いないはず。数の少なくなっていく白コイン、互いの終止符を撃つためにユエルが1枚の白コインを投入してきた。
「なんなんですか? 二人ともコインを出し続けて。なら自分も白を!」
ユエルは分かっていない様子で見ていた。
白コインを1枚残し、4枚消費してあたしの手は止まる。
あたしはコインを持っていた手を台の上に置いて諦めた。
「もう無理ね」周囲に聞こえないように小さく、呟く。
ユエルの番となり青コインを出すも、ムエルニはジョーカーを出しユエルのカードを1枚捨てさせた。
「ええええ! また!?」
ユエルの悲鳴。
あたしの番でも再びムエルニさんは2枚目のジョーカーを取り出した。
当然することはただ一つ、あたしのカードを1枚捨てさせる。
「あなた達の負けなの」
結果、一番近い数字は25だったのでムエルニさんの勝利となった。
「あら、残り1勝で私の勝ちですの。先ほどは良い勘を働かせていたのに、そこの考えなしに潰されてお可哀想に」
「え、え、え、え?」ユエルが慌てる。
「自分もしかしてフェルの邪魔してたんですか?」
「ううん、そんなことはないよ」あたしは首を横に振る。
「ユエルがいるのだからそれを考えずにいたのがいけなかったかも……」
三人勝負なんだから、ユエルのことを考慮していなかったあたしが悪い。
ここまで消費してしまったのもあたしの自己責任。
けどそれでも、良い事はあった。ムエルニさんのコインを減らせたのは大きい成果でもある。
ただ気になることが一つあった。
「それにしてもムエルニさんがジョーカー2枚持っていたなんて驚きでした」
「あなた達のような凡庸とは訳が違いますの」
「確かにあのジョーカー2枚もあれば強気にもでられますよね」
「ええ、まさに天運。あなた達を倒せと言っているようなものですの」
「2戦目にも来たのには驚きましたが、まさか3戦目も来るなんて。まるで分かっていたかのように手元に来ていましたからね」
あたしは苦笑いをする。
この時は本当に、なんとなくそう思っただけだった。
だけどムエルニさんにとっては全く違った様子だった。
「つ、使われたカードは数デックの枚数を見れば、来る可能性は高くなるのがわかりますの!」
表情は先ほどと違い、少し引き攣るような感じに見えた。
まあ、確かにカードの束を見ればかなり少なくなっているし、そうなるのかな……。
ただ、言い方に引っ掛かるものがあるのはなんでだろ?
そんな疑問を持ちながらカードをリーシャ様に渡す際、懐に入れていた物と体が押された。触るとごつごつした物、イカサマサイコロだ。
鞄に仕舞わず、入れっぱなしにしてたのをすっかり忘れてた。
リーシャ様はムエルニが出した2枚のジョーカーを回収して、未使用のデックの山札へと戻す。
シャッフルしているときに、あたしは台を改めて観察した。
魔法使いが愛用すると言われるゲムルの木。
それが台にも使われる。
「ちょっとあなた、さっさとカードを取りなさい!」
ムエルニさんが叫んだ。
あたしの前には3枚のカードが裏返しに配られていた。
手に取ると、1枚にはなんとジョーカーが混じっていた。
これで有利に動ける。
そう思っていると視線を感じてそちらに目を向けると、ムエルニさんがこちらをジッと見ていた。
なんだろ……?
あたしの顔になにかついているのかな?
カードを何度か前後に入れ替えてみると、ムエルニさんの視線が少し動く。まるで、伏せられたカードの裏側が透けて見えているかのように、彼女の目は正確にあたしのジョーカーを追っていた。
もしかして……。
あたしの中で違和感が積み重なり、ついに正体の見当がついた。
ただ、もし違ったらあたしはこの試合は敗北となる。
この4戦目で証明するしかない。
「4戦目の開幕よ」




